狂ったダイアモンド

狂ったダイアモンド

このアルバムのレコーディング中、シド・バレット本人が何の前触れもなくスタジオに姿を現したという逸話がある。ニック・メイソン自身の回顧録Inside Out: A Personal History of Pink Floyd(英語版記事)によるとクレイジー・ダイアモンドのミキシングも終盤といった頃に、でっぷりと肥えた禿頭かつ眉毛も剃り落したシド・バレットがビニール袋を持ってスタジオに入ってきたそうで、作業中であったウォーターズは初めは誰だか分からなかったという。ライトも誰だか分からずウォーターズの友人かと勘違いしており、ギルモアはEMIのスタッフかと思っていたそうで、メイソンも誰だかわからずバレットだと気づいた時にはショックを受けたという。またメイソンは回顧録にて、その当時のバレットの雰囲気を「散漫で支離滅裂だった」と綴っている。その場にいたストーム・ソーガソンは後に「何人かが泣いていた。彼(バレット)はスタジオ内を歩き回ったり我々と話をしたりしていたが、彼は実際にはそこにいなかった。」と回述している。伝えられるところによれば、バンドのマネージャーであったアンドリュー・キング(英語版記事)がバレットに対してなぜそんなに太ってしまったのかと尋ねた際に、ウォーターズは変わり果てたバレットの姿を見て涙を流したという。バレットは自宅に巨大な冷蔵庫を設置してあると言い、毎日のようにポーク・チョップを平らげていた。バレットはまた、どのパートのギターを弾こうかと尋ねてきたそうだが、クレイジー・ダイアモンドのミックスを聴いていた様子から察するに歌詞の内容が彼の窮状に言及したものであるとは気づかなかったそうである。バレットがスタジオを訪れたその日にギルモアは前妻とEMIの食堂で結婚式を挙げておりバレットも式に参加したものの、別れも告げずに帰宅したという。その後メンバー全員は2006年のバレットの死まで彼と合うことはなかった。この日の思い出をウォーターズは次のように回述している。シドについてはとても悲しく思う。もちろん彼はバンドにとってとても重要な存在であり彼なしではバンドは歩みだすことはなかっただろう、何故ならすべての曲は彼の手によるものだったからだ。彼無しにはバンドは結成し得なかったであろうが、一方で彼と共にバンドを続けることは不可能であった。クレイジー・ダイアモンドはシドについての曲ではない、彼はただ単に誰かがいなくなってしまったということを表象しておりその状況に甘んじなければならないという事の極端な例に過ぎない。なぜなら現代社会ではそれがどんなに悲しくとも完全に心からかき消してしまうという事が唯一の対処法だ。私はそのことがとてつもなく悲しい事であると気づいた。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm29981311