【神道シリーズ】第74回・八百万の神㉔岩木山三所権現(天台と真言の確執の中で発展した岩木山信仰)

【神道シリーズ】第74回・八百万の神㉔岩木山三所権現(天台と真言の確執の中で発展した岩木山信仰)

青森県津軽地方の「津軽富士」と呼ばれる岩木山(いわきさん)の特徴は、他の山岳信仰でほぼ例外なく伝わる「役小角による開山説」の伝承が無いことで、代わりに薬師如来の垂迹とされた大元尊(大己貴神)による開山が伝えられ、以後、岩木山と両隣の岩鬼山(がんきさん)と鳥海山(ちょうかいさん)が、それぞれ十一面観音の垂迹の多都比姫(宗像三女神)、阿弥陀如来の垂迹とされる国常立尊で構成される「岩木山三所大権現」が信仰の中心となってきました。この岩木山三所権現は、天台宗の聖護院が自ら形成した熊野三所権現や白山三所権現と同じパターンで、さらに天台宗比叡山の山王三聖の中心の大己貴神=釈迦如来の化身を本地仏を薬師如来に変えて持ち込み、これも白山三所権現や英彦山三所権現(いずれも天台系)と同じパターンで、「大己貴神(釈迦か薬師か阿弥陀の化身)が地元の竜女神と結婚した」パターンが採られています。こうしても見ても、岩木山信仰のほとんどは天台両派(比叡山と聖護院)によって形成されたと言っても過言ではありません。岩木山信仰は①岩木山三所権現を中心に、室町時代から江戸時代にかけて、②坂上田村麻呂=毘沙門天(多聞天=北斗七星=妙見)信仰③深沙(じんじゃ)大権現<大般若経守護神の一つ>の猿賀(岩木山の麓)④安寿姫と厨子王丸(仏教の説教話「さんせう太夫」の登場人物)から来る安寿姫=岩城大権現信仰の4つの柱からなっていますが、いずれも天台宗の影響が大きいのが窺われます。明治の神仏分離令で、信仰の中心の百沢寺(ひゃくたいじ)は政府により強制的に神社に改編され(岩木山神社)、多くの僧房は破壊されましたが、今でも上記の四要素は昔と変わらず、山伏が中心となる祭祀が行われています。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm35972708