【岡本綺堂 傑作選】お住の霊【ゆっくり怪談】

【岡本綺堂 傑作選】お住の霊【ゆっくり怪談】

これは小生わたくしの父が、眼前まのあたりに見届けたとは申し兼かねるが、直接にその本人から聞取った一種の怪談で今はむかし文久の頃の事。その思召おぼしめしで御覧を願う。その頃、麹町霞ヶ関に江原桂助という旗下(これは漢学に達して、後には御目附に出身した人)が住んでいた。その妹いもごは五年以前、飯田町に邸やしきを構えている同じ旗下で何某隼人(この家は今も残っているから、姓だけは憚る)という人の許もとへ縁付き、児まで儲けて睦じく暮らしていたが、ある日だしぬけに実家さとへ尋ねて来て、どうか離縁を申し込んでくれと云う。兄も驚いて、これが昨日今日の仲でも無し、縁でこそあれ五年越しも睦じく連添っていたものを、今更突然に出るの去るのと云うは一向その意を得ぬ事、一体どうした情由わけだと、最初はじめは物柔かに尋ねたが、妹は容易にその仔細を明かさずただ一刻も彼あの邸には居られませぬと云う。けれども小児こどもでは無し、ただ嫌だ、一刻も居られぬとばかりでは事が済まぬ、その仔細を云え、情由を話せと厳しく詰問すると、妹は今は據よんどころなく、顔色変えて語り出したのが、即ち次の怪談で……

http://www.nicovideo.jp/watch/sm36303384