ドロぴや・ソーサレス

ドロぴや・ソーサレス

少女は歌った。大切で大好きな幼馴染たちと一緒にいる為に。少女は歌った。自分を応援してくれる誰かの居場所である為に。少女は歌った。幼馴染たちが去ってひとりぼっちになっても、いつかまた帰ってくる日の為に。少女は歌った。月日が流れ誰も見向きしなくなっても、いつか思い出してくれた時の為に。少女は最後まで歌い続けた。────それは突然だった。世界から色が失われ白に染まる。平和に日常を過ごしていた人たちは予感さえできず、ただ呆然とするしかなかった。やがて、色のない世界は引き裂かれる。異変が起きていたのは空だった。正常な色を失い、不安定に歪み揺らめいている。現れたのは、一体の魔女めいた風貌の女性。とんがり帽子を深く被り、サングラスで目元を隠している。特徴的なのは、左右から伸びた髪の毛と思しきやたら大きな房だけ。人々が魔女を認識しだすのとほぼ同じタイミングで、どこからともなく不思議な旋律が耳に届く。魔女が歌っているのだと、人々が気付くのに時間はかからなかった。甲高い悲鳴と聞き違える旋律は、どうしてか人々の心を掴んで離さない。誰かが、まるで誰かを探して呼んでいるようだ、と例えた。するとその言葉が正しいと証明するように、奇怪な存在が集まり始める。地面を、大小様々な黄色い生き物が幸せそうに駆けていく。大空を、不機嫌な表情をした黒い生き物が埋め尽くしていく。その中には、やたら人目を惹く透明感のある空色の生き物もいた。黒い生き物の群れの隙間からは、空に浮かぶ緋い生き物が浮かんでいるのが見えた。さながらパレードのような様相と化した異様な街並みを、しかし人々は受け入れていた。単純に魅了されていたのだ。歌は激しさを増す。違う、違うと駄々をこねる子どものように。魅了されるだけの人々では意味がない。あの人たちはわたしを置いてどこへいってしまったの──?魔女の悲痛な思いは届くことなく、ただ娯楽として消費されていく。その狂乱の様子を、少し離れた場所からある少女が見つめていた。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm39347488