よそ見運転をする逆走爺と巻き込まれるずんだもん

よそ見運転をする逆走爺と巻き込まれるずんだもん

その老人はふと思った。「孫に会いたい」と。思い立ったら直ぐに実行に移すのが彼の性だ。老人は直ぐに愛車に乗り込み、事故を起こしてしまった時の身代わりとして飼っている名も無き妖精のずんだもんを載せ、東京へ出張している孫に会うべく高速道路へと向かった。普通、車は妖精に運転させるものだが、ドライブが好きな老人は自分で運転していた。しかし、事故を起こしてしまうのでは無いかと薄々自覚していた老人は念の為に毎回妖精を愛車に載せていたのだった。老人の孫は普通免許を持っているのだが、そんな事彼には関係無かった。老人はいつもの調子で車に載せてある小さなテレビを瞥見しながら高速を飛ばしていた。老人の飼っている妖精は幼いながらもしっかり者で少々心配性でもあった為、しきりに老人のよそ見運転を注意していたが、老人は(どうせ下等生物の言う事だ)と聞く耳を持たない様にしていた。しかし自分が下に見ている者から何度も注意され、少し頭に来ていた。これは今回だけの事ではなく、もう1ヶ月も前からこんな調子であった為、老人は帰ったら妖精を殺処分し、別の妖精に乗り換えようと考えていた。老人はいつも朝9時から始まるモーニング・サンテレビの情報番組を見ていた。車を運転していようが毎日のルーティーンを崩したくなかった老人はいつもの様に情報番組のコーナーの一つである「チャレンジe!インクレ!」を観ていた。一応テレビを瞥見しながらも前を見ていた老人だったが、あるCMが目に留まる。あの水素水が普通の水から作り出せると言うものだった。ひ孫の成人した姿を見るまでは健康で居たいと願う老人にとっては、喉から手が出る程魅力的な物だった。老人は妖精の注意など聞こえなくなる程テレビに釘付けになった。しかし妖精は根気強く注意を続ける。「あ、あの…CMの時くらい前見て運転しましょうよ…」と注意を続ける妖精に老人は遂に声を荒げた。「黙ってろ下等生物!」それを聞いた妖精は観念したのかそれ以上何も言わなくなった。やっと静かになったと思ったのも束の間、テレビには突如、卵と呼ばれる生命体らしき物が映し出された。老人も一度は図鑑で卵の写真を見た事はあったのだが、テレビに映るそれは老人の知っている卵とは比べ物にならない程禍々しい見た目をしていた。老人は妖精を殺そうとしたのが神に悟られたのだと思い、パニックを起こした。「ワシが悪かった!謝るから助けてくれ!!」必死にそう叫ぶも卵は消えない。遂に正気を失った老人はテレビから飛び出して来た卵の幻覚から逃げる様にハンドルを右へ切った。それが逆走行為になるとは知らずに。そして正面を走って来た車に激突してしまう。ーーーー後から聞こえてくるのは老人が身の危険を冒してまで手に入れたかった「水から水素」をレビューする2人の声だけだった。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm41059510