傘の呪いnawabari battle.mp4

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「ねえ、フクキタル?」 「なんでしょう?」 「願うことがないって、変かしら」 「願うことがない、ですか」 「そう、今日ね、スペちゃんと一緒に考えたのだけど……なんか、浮かばなくって」 「ううん、そうですね」 口に出して唸るフクキタルを背に、さらさらと濯ぐ夜風を楽しむスズカ。フクキタルは、それを見て仄かに笑みを浮かべた。 「これは、私のトレーナーさんが仰ったことなんですが」 「あら、ふふ、何かしら」 「願いがない、ってことは……満ち足りてる、ってこと、ですよ」 その言葉を聞いて、スズカは目を丸くして口に手を当てた。 そして、窓枠からすとんと降りると、すたすたフクキタルの近くへと寄って行って——。 しゃがんで、おでこをくっつけた。 「うん、熱はないみたい」 「もしかして今遊ばれてますか?」 「ううん、でもフクキタルがそんなこと言うなんて……と思って」 「ふふ、そうかもしれませんね……」 「変わったね、フクキタル」 「そうですか?」 「うん、なんだか、ふわふわしなくなった」 「ふ、ふわふわ?」 「そう、ふわふわ」ぬぬ、と唸りながらフクキタルがベッドに倒れ込んで天を仰ぐと、スズカはそれを横目に見て、隣へ座る。ふたり分の重さで、ベッドの軋む音が少しだけ響いた。 「でも、ちょっと悔しいな」 「なにがですか?」 「ううん、タイキも、私も、あなたの傍に居たけど、そこまで変わらなかったから」 「ああ、そういうことですか」 「変ね、願うことはないのに、変わらなかったことがくやしくて」 「ふふ、それは逆ですよ、スズカさん」 「逆?」 「私にとって……タイキさんや、スズカさんは」  「ありのままで、居ていい場所、なんですから」  フクキタルは、月明かりの影でよく見えないスズカへひとつふにゃりとほほえんだが——なぜか、スズカに鼻をつままれた。 「は、はの、スズカさん?」 「だめ、今こっち向かないで」 「え……あの……?」 「ばか」 「え、ええー……」  七月七日の星空は、今日も静かに学園を包み込んでいた。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm41106833