Pharmacon feat.歌愛ユキ

Pharmacon feat.歌愛ユキ

あれからどのぐらいの経っただろうか。ふと目に入ったのは薬の材料。昔、異郷の花屋さんから買ったものだと鮮明に覚えていた自分にアザレアは少し驚いた。隣にはシルフィウム薬が置いてある。アザレアは自分のその才能が嫌いだったが、生きていく術はそれしか無かった。“薬学”はあの日々を想起させるから、アザレアは正直言ってこれもとても嫌いだった。それでも隣にはいつもあの子が居た。「なんでこうなっちゃったんだろうね」なんて分かりきった事を言ってみる。 誰もが立場が違った。誰しも敵が欲しかった。誰かが悪いと思いたかった。私は悪く無いって。皆んな。キラキラとした魔法の瓶には、キラキラした魔法の結晶を収めた。あの子の肢体はバラバラなのにね。その結晶を砕いて、溶かして、注入する。 すると”魔法”みたいに、何も怖く無くなって、昂揚する。誰にも侵せやしないこの独壇場で、無敗感に身を委ねる。タリラリラッタッタッタ。壇上で踊る。作用があれば副作用がつきものだなんて、無論知っていたけど。奇跡も魔法も、始めから無いなんて知っていたけど。フラッシュバック。頭に蘇るのはいつもあの子だ。私があの子を爆ぜ殺した瞬間だ。その泣きそうなほどやさしい顔も、腕が轟音と同時に轢き千切れ、その痛たましい断面が悲鳴を上げる様子も。それを大切な思い出と錯覚したかの様に脳は次々と繋がったやさしい記憶をぶち撒けて来る。あいつと自分、双方向に強く響く悪感情が、褻瀆けの軀も、釁られた杖も、もう嫌だ。誰からにも見られる筈のない疵物を理由も無く覆い隠している服を捲り、また一つ穴を開けた。タリラリラッタッタッタ。腹上で踊る。液体をぶち込むのは何方にしろ一緒な事に気が付き、それが何故か面白く思えて、笑った。無い物は無いんだから、と自己暗示まがいに無い胸をさする。きたない。嫌だから。その言葉が自分に向かっているとも知らず、呪文の様に唱え続ける。吐き気と共に込み上げる涙は、縮こまりながらも頬を伝っている。それがまた気持ち悪くて仕方がなかった。次第に調合量が増すにつれ、自ずと摂取量も増えた。 思い出を燃やし、ドロドロの感情を煮て、きょうびを凌ぐ。アザレアはそうさせているのが自分なのか薬なのかも分からぬ儘、魔法の薬を打ちつづける。自我が壊れぬ様に、思い出が崩れ去らぬ様にと願いながら。タリラリラッタッタッタ。尸と踊る。それでも、「生きて」という”幻聴”がしたのは気のせいだったのだろうか。壁沿いに崩れ落ち、消えてゆく意識の中で身体中に広がる夥しいほどの痺れと仄かに残るぬくさに揺られながらも、部屋の隅で魔法の杖を確かにぎゅっと抱きしめた。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm43433034