とある青年の話をしよう。 彼には父親がいた。 ある晩、父は独白するように、彼に言った。「俺は子供の頃、『タマゴ』を上手く発音することができなかった」 卵の殻を剥きながら言ったのだ。「待ってくれ親父、タマゴだぞ。親父…タマゴだぞ?」 青年は卵の黄身が嫌いだったが、幸いにも白身は好きだった。「そうだ息子よ、『タマゴ』をだ」「じゃあ、なんて言ってたのさ?」 父は、蚊の鳴くような声で呟いた。「…たまも」 青年は、そのときは鼻で嗤ったものだったが、されど噛み噛みの血脈は脈々と継承されていたことを、やがて知ることとなるのだった。 ほんと呂律回んねぇす…。 次→ sm9349811 前→ sm9317735 マイリス→ mylist/17053456