<ニュース・コメンタリー>遠隔操作ウイルス事件・実刑判決は出たが課題は未解決のままだ

<ニュース・コメンタリー>遠隔操作ウイルス事件・実刑判決は出たが課題は未解決のままだ

 パソコン遠隔操作事件で東京地裁は2月4日、片山祐輔被告に対して懲役8年の実刑判決を言い渡し、2012年夏の事件発生から様々な形で世間を騒がせてきたサイバー犯罪史上に残る大きな事件が、一つの節目を迎えた。 しかし、この事件は現在の刑事司法が抱える様々な課題を露わにしている。そして、事件が判決を迎えた今も、その課題は何一つとして解決していない。… また、日本の警察と検察、そして裁判所のサイバー犯罪に対する知識が非常に乏しいことも、この事件が露わにした課題の一つだった。そもそも警察はこの事件を純粋なサイバー捜査では解決することができなかった。片山氏が捜査線上にあがったのも、江ノ島の猫に首輪を付けた際の防犯カメラの映像に基づく捜査からだったし、片山氏を逮捕した後も、結局片山氏が遠隔操作ウイルスを作成したことは証明できなかった。片山氏は第三者にウイルスを提供する「ウイルス供用罪」では起訴されているが、ウイルス作成罪には問われていないのだ。 もし片山氏が、遠隔操作したパソコンで殺害予告や爆破予告を書き込むだけに犯行をとどめ、その後、報道機関などにメールを送りつけたり、江ノ島の猫にSDカードを貼り付けた首輪を着けるような「遊び」をしていなければ、警察は今日にいたっても犯人を割り出すことができない可能性が非常に高い。この事件で最終的に片山氏を有罪に追い込んだのは、サイバー捜査などではなく、防犯カメラの解析や尾行といった従来型のアナログ捜査だったのだ。 また、公判に入ってから検察はサイバー関連の状況証拠を積み上げていったが、それらの証拠はいずれも、片山氏が犯人である可能性を強化するものではあったが、片山氏の犯人性を証明する上で十分なものとは言えなかった。 日本の警察は、疑わしい証拠を一つでも見つけたら、まずは被疑者の身柄を拘束し、長期に勾留する中で精神的に追い込んでいくことで、自白をとりつける、いわゆる「自白偏重主義」を長年、実践してきた。そのため、被疑者から取り調べの録音録画を求められ、それを拒絶することで直接の取り調べができなくなると、自白に依存した捜査手法が通用しなくなる。ましてや、証拠がデジタル証拠に限られるサイバー犯罪では、状況証拠だけで被疑者の犯人性を立証することは非常に困難だ。 パソコン遠隔操作事件が残した未解決の課題を、発生当初からこの事件を取材してきたジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

http://www.nicovideo.jp/watch/so25518649