平田勇也「六弦」【シアーミュージック×残響レコードボカロ制作部】

平田勇也「六弦」【シアーミュージック×残響レコードボカロ制作部】

原曲 六弦 feat.vflower【残響レコードボカロ制作部】歌 平田勇也 https://twitter.com/hirata_mivhttps://www.youtube.com/channel/UCN3eEyhclIZLe6nTl4fPSmwhttps://www.youtube.com/channel/UCFUuEDnQ62eHXBCP7MXBcsQ 過去も未来も、大嫌いだ。 見捨てたくせにと嘆かれたり、救ってくれと泣きわめいたり。どちらにせよ、僕はそんなものたちに興味は無い。 否――関心くらいは、あった。 かつて僕はミュージシャンになりたい子供であったし、未来には本当にミュージシャンになりたいと思っている。 けれど、過去にも未来にも嫌われているし、嫌っている。 現在を見ろ。現在を見てみろ。こんな、くだらない日常に、毎日に浸って。 朝起きて、学校に行って、帰ってきて、食事と睡眠をとって、の繰り返し。 こんなんじゃ、夢なんて叶いっこない。叶える努力ができていないんだから、当たり前だ。 たったひとつの夢さえも、小さな光さえも、掴めない。 それでも、僕は六弦を抱くことをやめなかった。 六弦だけが、僕を認めてくれるのだ。問いかければ、正しい音で返してくれるのだ。 それに合わせてデタラメに歌ってみると、それだけで心が軽くなるような気がした。 夢を叶えるなんて、後でいい。 今は、独りでこいつと一緒にいられればいい。 今日もまた、起きる。 ほんの少し先で僕を手招いてる未来を睨みつけ、ベッドから起き上がる。 朝の六時だ。僕は枕元のアナログ時計を見てそう思う。 朝食替わりにゼリー飲料を飲みながら、テレビのチャンネルを8に合わせる。 いつもなら朝の挨拶をするはずの番組がやっているはずだったのだが、夕方のニュースを放映していた。 どうやら、僕は昨晩、泥酔して眠ったせいか時計を二回りして20時間以上、昏睡していたらしい。明日が何もない、完全に予定が空白の日でよかった。 擦り減ら去られた過去たちが、僕をあざ笑っているような気がした。少なくとも、僕が眠り潰した過去20時間ほどは、この馬鹿め、と大笑いしているに違いない。 さて、どうしようかと考えた。 僕はマトモな食事を摂ることをなんとなく嫌がった。その代わり、冷蔵庫から出したのはラガーの小瓶だ。緑色をしていて、きんと冷えた中身が透けて見える。 金属製の栓抜きを使い、王冠を外す。こんなものにもコレクターがいるんだな、なんて手で弄びながら、僕はソファーの前のテーブルに置いた。 次に手に取ったのは、もちろんギターだ。しかし、いくら防音設備がそれなりのアパートだと言えども、さすがにこの時間からギターを弾いていては周りに迷惑になる。なので、高校生のときに使っていたおもちゃみたいなポータブルアンプを出してきて、ヘッドホンに繋げた。 懐かしいな、と、素直に思う。 斬、と刻めばどこの弦がどうなっているのか、すぐにわかる。調律をして、ひとつ、ふたつ、刻んで――僕が一番最初に、作った曲を歌ってみる。 荒々しいコード進行。世間にむかっ腹を立てた歌詞。粗暴な旋律。 ああ、若いあのときの心が思い出される。 明日も見えないような深夜に、歌声は部屋に響く。 昔もこうして、部屋で必死に譜面に文字や記号を書き込んでは消し、あの子に笑われたっけ。 過去も未来も嫌いな僕のことを、好きだった彼女。 僕の過去を、未来を、受け入れてひとつになろうと言ってくれた彼女。 懐かしいついでに、彼女と一回だけ交換したアドレスにメールを出してみる。もう取得することのできない、ドメインの化石のようなアドレスだ。 返事なんか返ってこないだろう。そうは思ったが、今の電話番号を併記して、メールを送信した。 今時、プライベートでメールなんて。 そう思いながらラガーを一口あおる。それを飲み込む前に、携帯電話が震えた。 え、と口から零れた。メールではない。まさかの、電話だ。 ラガーのものとは違う泡を喰って電話に出ると、それは例の彼女からのものだった。 変わらない声。変わらない口調。 見捨てたくせにと嘆かれたり、救ってくれと泣きわめいたり。あの日々と同じだ。未来と過去を信じていた、栄光の道を歩んでいた頃。 歌って、と彼女は言った。わかったよ、と僕は言った。 アンプが無いから音は小さいが、スピーカー受話にすれば電話口に届くだろう。  歌い終わった後、彼女はそっと言った。 あなたと会えてよかった。 僕はその意味がよくわからなかった。けれど、僕も同じ感想を持った。 ああ、そうか。 未来も過去も、嫌いでいいんじゃないか。 君という、小さな光があれば。 不甲斐ないこの僕、たった一人だけでは、こんなに小さな光でも見つからなかった。「ねえ、好きだよ」 僕は言った。 返事は、要らない。 もう――結果は、知っているから。原作 金森璋「六弦」 https://twitter.com/akillernovels ​offvocal→ https://www.dropbox.com/sh/28s5sal1dd... ​Direction みっどないと  https://twitter.com/Midnight_Dir ​Lyrics 金森璋  https://twitter.com/akillernovels ​Illustration 前バ!  https://twitter.com/maeba865

http://www.nicovideo.jp/watch/so38585985