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きりたんと149人の戦列お嬢様 #21【Holdfast: Nations At War】
【要望があったので文字数限界まで掲載】
指向性性転換粒子はそれに掛けられた期待とは裏腹に結果を残していなかった。事故によるロイエンタールとオーベルシュタインの女性化とそれに伴う波乱。腐敗を打倒したラインハルトをしても胸元のペンダントを握りしめ、心の友に助けを求める他に無かったのであった。
そして──不安の雲は同盟にもかかる。
ユリアンはソファーで死んだように眠る女性をじっと見つめている。傍らのテーブルには紅茶入りブランデーがまだ半分ほど残っているから、どうやら好物を飲み干す気力もないほどに疲れていると見える。
「提督……お風邪を召されてしまいますよ」
呼吸するたびに膨らむ細い身体にユリアンは顔をしかめ、ブランケットをかける。
「ん……どうしたんだいユリアン? 女性の寝込みを襲うとは感心しないな」
いつものように飄々と、英雄は少年をからかう。
「いいかいユリアン。民主主義は権利を保証するものであるけれど、必ずしも自由を担保するものでは無い。たとえば君が枯れ枝を盗んだとしても、法がそれを許さない場合もある」
いつもの講義を聞きながらユリアンは胸の中の暗い気持ちを押し込めた。胸中にチラつくのはフレデリカへの謝罪と、英雄への思い。
「軍人の銃口から生まれた民主共和政体であってもそれは同じだ。軍隊が深い自制をもってこそ民主主義が保たれるように、君も軍人として確固たる自制の信念を持つべきじゃないかな?」
ヤン・ウェンリーは本気で怒っているわけではない。寝起きの気だるさを言葉で跳ね除けようとしていて、あわよくば二杯目の紅茶入りブランデーをねだろうとしているのだろう。
「ははは、まあ私にそんな価値はないけれどね」
いつもの軽口。いつもの自己軽視。いつもの、いつもの言葉だ。だがユリアンにとって、それは。
「……提督はよほどご自身を軽く見られているのですね」
「そうだね、私にお似合いなのは辺境惑星で晴耕雨読の日々を──」
飲みかけのカップを下げる所作が乱暴になってしまう。
(いつか、この方も死ぬのだろうか)
両親のように、死ぬのだろうか。いや……死にはしない。死という結果すら、民主主義に捧げられてしまう。それもきっと彼が望まない形で。
「……いっそのこと、辺境惑星に住むのもいいかもしれませんね」
口から出たのは、普段のユリアンからは出ないであろう言葉だった。
【お借りした素材】
立ち絵:しりんだーふれいる様、島でドンパチするメイ様、Akasha様、縁若そばこ様
音楽:DOVA-SYNDROME様、Classix様、Springin’様
画像:テロップ.サイト様、フキダシデザイン様、あいすもなかの部屋様
効果音:効果音ラボ様