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<マル激・前半>5金スペシャル・あなたはそのサプリの中身を知っていますか/田村忠司氏(ヘルシーパス代表取締役社長)
多くの人が飲んでいるサプリメント。日本では少なくとも20歳以上の人口の3割以上の人がサプリを利用しているそうだ。しかもその市場は年々拡大しており、今やサプリメントを含む健康食品市場の規模は1兆円とも2兆円とも言われている。しかし、日常的に身体に取り込んでいるものであるにもかかわらず、ことサプリに関してはどういうわけかその中身やリスクについて正しい知識を持って飲んでいる人は意外に少ない。
小林製薬の紅麹食害事件では、問題となったサプリメントが機能性表示食品の届け出をしていたことから、機能性表示食品制度の見直しがしきりと取り沙汰されていて、政府は5月31日、被害報告の義務付けを含む対応方針を取りまとめている。確かに機能性表示食品という制度は、消費者に対する実態以上の権威付けになっているという意味で問題が多いが、かといってサプリの中には必ずしも機能性表示食品のお墨付きを得ていないものも多い。実際、サプリを飲んでいる人の多くは、それが機能性表示食品としての届け出がされているかどうかには必ずしもこだわっていないようにも見える。どちらかというと、有名人などが語る広告文句に乗せられて買っている人や、場合によっては効くかどうかは度外視して、自身の生活スタイルに対する免罪符や気休めとして飲んでいる人が多いのではないか。
医療機関に特化したサプリメントを製造販売している「ヘルシーパス」社長の田村忠司氏は、現在市場に出回っているサプリには問題が多すぎると指摘する。まず、ほとんどのサプリは、有効成分は1%程度しか含まれておらず、残る99%は添加物であることを認識する必要がある。わざわざお金を払って添加物を買っているのだ。さらに、サプリに含まれている栄養素には科学的根拠が希薄だったり効果が怪しいものも多い。また、実際に表示されている分量の有効成分が含まれているかどうかも、確認のしようがない。
また、サプリによっては実際に表示されているだけの有効成分が含まれている場合もあるが、それを毎日摂取したり他の薬と併せて摂ることによって、アレルギーなど予期せぬ副作用が生じる場合もある。
東京都が毎年行っている健康食品の試買調査では、店頭で売られている44品目のうち26品目に、不適正な表示・広告が見られたという。インターネットの通信販売にいたっては、81品目中79品目に問題のある表示が見つかっている。
例えば、飲むだけで痩せるとか、膝の痛みが治るなどといった過大広告が蔓延する中、われわれ消費者は何に気をつければいいのか。田村氏は、まずサプリのパッケージをよく見て購入することが重要だと言う。パッケージの裏側を見れば、栄養素の種類や配合量、添加物の有無などほとんどの重要なことは分かるようになっている。実際、多くの人が表に書かれている効果の部分は見ていても、裏側の成分表示はほとんど見ていないのではないか。その意味では買う前にパッケージを確認することができないテレビショッピングでの購入は問題が多いと田村氏は警鐘を鳴らす。また、「医療機関向けサプリ」と謳っていながら一般向けに販売していたり、「ドクターズサプリ」と言いながら医師の関与なしに販売していないかについてもチェックする必要があるという。広告で平気で嘘をつくような会社が、製造過程でお金をかけてきちんと温度管理をしたり、不要な添加物を減らす努力をしているとは到底思えない。
たとえ無駄だとしても、サプリを飲むことで安心感や満足感が得られるなら、それはそれでいいではないかという議論もあるのかもしれない。プラシーボ効果というものもあり得る。しかし、その一方で、サプリには医薬品と変わらないほどの効果を持つ成分が含まれている場合もある。例えば、昨今問題になっている紅麹サプリについては、アメリカの医薬品にも使われているモナコリンKが含まれていて、実際にコレステロールを低減する効果が期待できると考えられているのだ。今回は死亡事故が起きたことでようやく社会も問題視するようになったが、死亡事故にまで至らない副作用が起きている事例は実際には多いはずだと田村氏は言う。
またメディアの責任も重大だ。地上波やBS、CSでひっきりなしに流れている健康食品やサプリのテレビショッピングは、売り上げの大半が放送局に電波料として入る仕組みになっているものが多く、放送局としてはサプリの問題を殊更に取り上げたくない事情がある。紙媒体でもサプリの広告出稿量は多く、メディア側の大人の事情として、死亡事故でも起きない限りあえてサプリの問題を取り上げようという動機は起きにくい。
サプリというのは、有効成分がほとんど入っていなかったり科学的根拠が希薄なため、ほとんど効かないものは効かないもので、そんな添加物の塊のようなものをメディアが喧伝し、消費者に年間兆円単位のおカネを費やさせていていいのかという問題もあるが、逆に効くものは効くもので、医師の指導なく服用することにはそれ相応の危険が伴う。
市場に出回るサプリの危険性や自分にとって効くサプリと効かないサプリの見分け方、われわれの多くがついついサプリを頼りたくなってしまう心理の背景にある不全感や焦燥感、孤独感などの正体について、ヘルシーパス代表取締役社長の田村忠司氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43862135
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>5金スペシャル・あなたはそのサプリの中身を知っていますか/田村忠司氏(ヘルシーパス代表取締役社長)
多くの人が飲んでいるサプリメント。日本では少なくとも20歳以上の人口の3割以上の人がサプリを利用しているそうだ。しかもその市場は年々拡大しており、今やサプリメントを含む健康食品市場の規模は1兆円とも2兆円とも言われている。しかし、日常的に身体に取り込んでいるものであるにもかかわらず、ことサプリに関してはどういうわけかその中身やリスクについて正しい知識を持って飲んでいる人は意外に少ない。
小林製薬の紅麹食害事件では、問題となったサプリメントが機能性表示食品の届け出をしていたことから、機能性表示食品制度の見直しがしきりと取り沙汰されていて、政府は5月31日、被害報告の義務付けを含む対応方針を取りまとめている。確かに機能性表示食品という制度は、消費者に対する実態以上の権威付けになっているという意味で問題が多いが、かといってサプリの中には必ずしも機能性表示食品のお墨付きを得ていないものも多い。実際、サプリを飲んでいる人の多くは、それが機能性表示食品としての届け出がされているかどうかには必ずしもこだわっていないようにも見える。どちらかというと、有名人などが語る広告文句に乗せられて買っている人や、場合によっては効くかどうかは度外視して、自身の生活スタイルに対する免罪符や気休めとして飲んでいる人が多いのではないか。
医療機関に特化したサプリメントを製造販売している「ヘルシーパス」社長の田村忠司氏は、現在市場に出回っているサプリには問題が多すぎると指摘する。まず、ほとんどのサプリは、有効成分は1%程度しか含まれておらず、残る99%は添加物であることを認識する必要がある。わざわざお金を払って添加物を買っているのだ。さらに、サプリに含まれている栄養素には科学的根拠が希薄だったり効果が怪しいものも多い。また、実際に表示されている分量の有効成分が含まれているかどうかも、確認のしようがない。
また、サプリによっては実際に表示されているだけの有効成分が含まれている場合もあるが、それを毎日摂取したり他の薬と併せて摂ることによって、アレルギーなど予期せぬ副作用が生じる場合もある。
東京都が毎年行っている健康食品の試買調査では、店頭で売られている44品目のうち26品目に、不適正な表示・広告が見られたという。インターネットの通信販売にいたっては、81品目中79品目に問題のある表示が見つかっている。
例えば、飲むだけで痩せるとか、膝の痛みが治るなどといった過大広告が蔓延する中、われわれ消費者は何に気をつければいいのか。田村氏は、まずサプリのパッケージをよく見て購入することが重要だと言う。パッケージの裏側を見れば、栄養素の種類や配合量、添加物の有無などほとんどの重要なことは分かるようになっている。実際、多くの人が表に書かれている効果の部分は見ていても、裏側の成分表示はほとんど見ていないのではないか。その意味では買う前にパッケージを確認することができないテレビショッピングでの購入は問題が多いと田村氏は警鐘を鳴らす。また、「医療機関向けサプリ」と謳っていながら一般向けに販売していたり、「ドクターズサプリ」と言いながら医師の関与なしに販売していないかについてもチェックする必要があるという。広告で平気で嘘をつくような会社が、製造過程でお金をかけてきちんと温度管理をしたり、不要な添加物を減らす努力をしているとは到底思えない。
たとえ無駄だとしても、サプリを飲むことで安心感や満足感が得られるなら、それはそれでいいではないかという議論もあるのかもしれない。プラシーボ効果というものもあり得る。しかし、その一方で、サプリには医薬品と変わらないほどの効果を持つ成分が含まれている場合もある。例えば、昨今問題になっている紅麹サプリについては、アメリカの医薬品にも使われているモナコリンKが含まれていて、実際にコレステロールを低減する効果が期待できると考えられているのだ。今回は死亡事故が起きたことでようやく社会も問題視するようになったが、死亡事故にまで至らない副作用が起きている事例は実際には多いはずだと田村氏は言う。
またメディアの責任も重大だ。地上波やBS、CSでひっきりなしに流れている健康食品やサプリのテレビショッピングは、売り上げの大半が放送局に電波料として入る仕組みになっているものが多く、放送局としてはサプリの問題を殊更に取り上げたくない事情がある。紙媒体でもサプリの広告出稿量は多く、メディア側の大人の事情として、死亡事故でも起きない限りあえてサプリの問題を取り上げようという動機は起きにくい。
サプリというのは、有効成分がほとんど入っていなかったり科学的根拠が希薄なため、ほとんど効かないものは効かないもので、そんな添加物の塊のようなものをメディアが喧伝し、消費者に年間兆円単位のおカネを費やさせていていいのかという問題もあるが、逆に効くものは効くもので、医師の指導なく服用することにはそれ相応の危険が伴う。
市場に出回るサプリの危険性や自分にとって効くサプリと効かないサプリの見分け方、われわれの多くがついついサプリを頼りたくなってしまう心理の背景にある不全感や焦燥感、孤独感などの正体について、ヘルシーパス代表取締役社長の田村忠司氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43862199
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>若年化するギャンブル依存症問題を放っておいていいのか/田中紀子氏(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
大リーグ大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏のスポーツ賭博問題で、あらためて注目を集めているギャンブル依存症。賭けた金額の大きさや大谷翔平という希代のスーパースターの預貯金を引き出すことが可能だった水原氏の特殊な立場から、メディアはこれを特別な事例として扱っているが、果たしてそうだろうか。
今やギャンブルは誰もがスマホで簡単に参加できる時代だ。公営競技として日本で法律で認められている競馬、競輪、競艇、オートレースの4つのギャンブル(賭博)も実際に競技場に行く必要はなく、手元のスマホ一つで何度でも賭けることができる。しかも支払いはクレジットで後払いが可能なものもあり、。中にはカードに付帯するポイントでベット(賭け)ができるものまであるという。これは合法的なギャンブルの話だが、より深刻なことに、日本では違法となるスポーツ賭博やオンラインカジノなども、ネット経由で誰もが簡単に手を出せる状態になっているのだ。もちろんこれは違法だが、それを取り締まることは容易ではない。また、警察も真面目に取り締まろうとしているようには見えない。
実は今の日本では、水原氏と同様の、いやもしかするとそれ以上に深刻な問題を抱えるギャンブル依存症の人が大勢いたとしても、まったく不思議ではないのだ。
自身がギャンブル依存症に苦しんだ経験を持ち、自らが代表を務める「ギャンブル依存症問題を考える会」を通じて依存症者の相談に乗ったり、啓発活動を行っている田中紀子氏によれば、会に相談に来る人の8割近くが20代、30代の若者だという。ことにコロナ禍以降、ギャンブルにはまる人の若年化の傾向が顕著だそうだ。ここ数年の変化は、10年前に会を立ち上げた田中氏にとっても驚くほど急激だという。特に仮想的に行われるオンラインカジノは、海外の事業者が規制の緩い日本をターゲットにしているため、これにはまる人が急増していると田中氏は指摘する。
ギャンブル依存症は治療が必要な病気だ。自分はそんなものに罹るはずはないと思っている人が、ちょっとしたきっかけでやめられない状態となり、負けをギャンブルで取り返そうとしている間に雪だるま式に借金が膨れ上がる。そして早晩、生活に支障をきたすようになるが、その問題を誰にも相談できないで、一人で抱えている場合が多い。そもそも自分自身がギャンブル依存症であることを認識できない場合が多いのだという。借金で追い込まれた挙げ句、犯罪に手を染め、それが表沙汰になった時、初めてその人がギャンブル依存症に苦しんでいたことが表面化する。アメリカ精神医学会の診断基準DSM5では「ギャンブル障害」、WHOが出している国際疾病分類ICD10では「病的賭博」という用語が使われる。
政府は2016年に成立させた統合型リゾート推進法によるカジノ解禁に合わせ2018年にギャンブル等依存症対策基本法を制定しているが、同法は毎年5月14日から20日までの1週間を「ギャンブル等依存症問題啓発週間」と定めている。しかし、つい最近、水原氏のギャンブル横領事件があれだけ大きく報道されたにもかかわらず、恐らく先週1週間が法が定めるギャンブル依存症の啓発週間だったことを知る人はほとんどいないだろう。啓発週間の存在を伝える報道や、実際に啓発を目的とする報道は数少なかった。田中氏は政府のギャンブル依存症対策は予算も不十分で、とても本気で取り組んでいるとは思えないと、怒りを露わにする。
そもそもギャンブルは公営競技だけで関係する省庁が農水省、経産省、国交省と複数にまたがり、さらにスポーツくじtotoは文科省、パチンコ・パチスロは風営法の警察庁と多岐にわたり、それぞれが縄張り化しているため、政府としての一体的な取り組みが行われにくい。現状では日本政府がオンラインカジノに対する規制を強化する方向性はまったく見られず、逆にスポーツベットという名の新たなスポーツ賭博を推進する団体が活動を活発化させているのが実情だ。
田中氏は近年、若者の人口が減っているとか、若者の貧困化が問題視されているにもかかわらず、若者をより貧困にさせ社会から排除することにつながるギャンブルが完全に野放しになっている日本の状況は、どう考えてもおかしいと語る。若者をギャンブル依存症から守るために今こそ対策が必要だと訴える田中紀子氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
前半はこちら→so43832502
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>若年化するギャンブル依存症問題を放っておいていいのか/田中紀子氏(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
大リーグ大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏のスポーツ賭博問題で、あらためて注目を集めているギャンブル依存症。賭けた金額の大きさや大谷翔平という希代のスーパースターの預貯金を引き出すことが可能だった水原氏の特殊な立場から、メディアはこれを特別な事例として扱っているが、果たしてそうだろうか。
今やギャンブルは誰もがスマホで簡単に参加できる時代だ。公営競技として日本で法律で認められている競馬、競輪、競艇、オートレースの4つのギャンブル(賭博)も実際に競技場に行く必要はなく、手元のスマホ一つで何度でも賭けることができる。しかも支払いはクレジットで後払いが可能なものもあり、。中にはカードに付帯するポイントでベット(賭け)ができるものまであるという。これは合法的なギャンブルの話だが、より深刻なことに、日本では違法となるスポーツ賭博やオンラインカジノなども、ネット経由で誰もが簡単に手を出せる状態になっているのだ。もちろんこれは違法だが、それを取り締まることは容易ではない。また、警察も真面目に取り締まろうとしているようには見えない。
実は今の日本では、水原氏と同様の、いやもしかするとそれ以上に深刻な問題を抱えるギャンブル依存症の人が大勢いたとしても、まったく不思議ではないのだ。
自身がギャンブル依存症に苦しんだ経験を持ち、自らが代表を務める「ギャンブル依存症問題を考える会」を通じて依存症者の相談に乗ったり、啓発活動を行っている田中紀子氏によれば、会に相談に来る人の8割近くが20代、30代の若者だという。ことにコロナ禍以降、ギャンブルにはまる人の若年化の傾向が顕著だそうだ。ここ数年の変化は、10年前に会を立ち上げた田中氏にとっても驚くほど急激だという。特に仮想的に行われるオンラインカジノは、海外の事業者が規制の緩い日本をターゲットにしているため、これにはまる人が急増していると田中氏は指摘する。
ギャンブル依存症は治療が必要な病気だ。自分はそんなものに罹るはずはないと思っている人が、ちょっとしたきっかけでやめられない状態となり、負けをギャンブルで取り返そうとしている間に雪だるま式に借金が膨れ上がる。そして早晩、生活に支障をきたすようになるが、その問題を誰にも相談できないで、一人で抱えている場合が多い。そもそも自分自身がギャンブル依存症であることを認識できない場合が多いのだという。借金で追い込まれた挙げ句、犯罪に手を染め、それが表沙汰になった時、初めてその人がギャンブル依存症に苦しんでいたことが表面化する。アメリカ精神医学会の診断基準DSM5では「ギャンブル障害」、WHOが出している国際疾病分類ICD10では「病的賭博」という用語が使われる。
政府は2016年に成立させた統合型リゾート推進法によるカジノ解禁に合わせ2018年にギャンブル等依存症対策基本法を制定しているが、同法は毎年5月14日から20日までの1週間を「ギャンブル等依存症問題啓発週間」と定めている。しかし、つい最近、水原氏のギャンブル横領事件があれだけ大きく報道されたにもかかわらず、恐らく先週1週間が法が定めるギャンブル依存症の啓発週間だったことを知る人はほとんどいないだろう。啓発週間の存在を伝える報道や、実際に啓発を目的とする報道は数少なかった。田中氏は政府のギャンブル依存症対策は予算も不十分で、とても本気で取り組んでいるとは思えないと、怒りを露わにする。
そもそもギャンブルは公営競技だけで関係する省庁が農水省、経産省、国交省と複数にまたがり、さらにスポーツくじtotoは文科省、パチンコ・パチスロは風営法の警察庁と多岐にわたり、それぞれが縄張り化しているため、政府としての一体的な取り組みが行われにくい。現状では日本政府がオンラインカジノに対する規制を強化する方向性はまったく見られず、逆にスポーツベットという名の新たなスポーツ賭博を推進する団体が活動を活発化させているのが実情だ。
田中氏は近年、若者の人口が減っているとか、若者の貧困化が問題視されているにもかかわらず、若者をより貧困にさせ社会から排除することにつながるギャンブルが完全に野放しになっている日本の状況は、どう考えてもおかしいと語る。若者をギャンブル依存症から守るために今こそ対策が必要だと訴える田中紀子氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。
後半はこちら→so43832505
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>ここまで劣化してしまった自民党にはもはや日本を任せられない/村上誠一郎氏(自民党衆院議員)
自民党内で最後に残った『良識派』を自認する村上誠一郎衆院議員がずっと恐れていたことが、今自民党に、そして日本の政治に起きている。
村上氏はこれまで派閥文化を壊滅させた小選挙区制の導入や集団的自衛権の行使を可能にする安保法制、特定秘密保護法、そしてアベノミクスなど、その時々の政権の目玉政策にことごとく反対してきた。非業の死を遂げた安倍元首相の国葬にも反対し、同氏を「財政、金融、外交をボロボロにし、官僚機構まで壊して、旧統一教会に選挙まで手伝わせた国賊」とまで酷評して、党の執行部から厳しい懲戒処分を受けたこともある。しかし、村上氏は持論を曲げなかった。それはそれらの政策に代表される政策路線が、保守政党としての自民党にとって明らかに間違ったものであることを確信していたからだ。
その村上氏は、自民党は今なお間違った方向に進んでいると嘆く。
今回、裏金問題や巨額の政策活動費の使途不明問題、そして事もあろうに官房機密費まで選挙資金に転用していたとの指摘まで出始め、補欠選挙の結果を見るまでもなく自民党政治に対する国民の不信感がピークに達している。にもかかわらず岸田政権はどこ吹く風といった体で、国民の神経をさらに逆撫でしている体たらくだ。
自民党は17日、政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出した。より厳しい規制強化を求める公明党との協議が決裂した結果、自民党は「大甘」の改正案を単独で提出せざるを得なかった。その自民党案は一見、公開基準の厳格化やデジタル化など「やっている感」を出すための文言が並ぶが、中身は事実上ゼロ回答に近い。裏金の温床となった複数の政治団体間の資金移動も禁止されず、二階幹事長が5年間で50億円近い党費を受け取りながら何に使ったかがまったくわからない政策活動費問題もほぼ手つかずのままだ。デジタル化も、ウェブ上で公開される政治資金収支報告書が検索やソート(並び替え)が可能なデータ化を意味しているのかどうか不明で、単にウェブ公開を義務づけるというお茶濁しに終わる可能性も排除できない。
これは政治資金の出先や使途を不透明なままにしておくことが自民党政治にとっては命綱となるため、それを断ち切ることは不可能ということなのか。それとも、自民党の「与党ぼけ」が行くところまで行ってしまった結果、もはや国民の怒りをまともに感じ取ることができなくなってしまった結果なのか。
村上氏は、かつて自民党は党内に様々な意見があり、党幹部に異論を唱えることも許されていたが、今は党幹部の方針に異を唱えることができなくなってしまったという。その理由として、党の執行部に権限を集中させることになった小選挙区制の導入、執行部に逆らった議員は平気で落選させられることを目の当たりにした郵政選挙、そして政策の議論の場を提供し、若い議員の教育の場としても機能していた派閥の弱体化の3つを挙げる。
小選挙区なら政治家本人に実力がなくても党の支持率が高ければ容易に当選することができる。そうして自身の政治信条や信念を持たず、党幹部の意向だけ気にする政治家がたくさん当選するようになり、更に党幹部に権力が集中していった。
また、郵政選挙で小泉首相が党の方針に反対する議員に公認を与えず、刺客まで放った結果、多くの議員が落選の辛酸を舐めた。それ以来、党の方針にあからさまに異論を唱える議員がいなくなった。村上氏は例外中の例外と言っていい。
かつて三角大福中と言われる5派閥が鎬を削っていた時代、派閥は候補者のリクルートの場でもあり、議員の教育の場でもあり、また政策論争の場でもあった。それは中選挙区制の下では自民党議員同士が競争しなければならないためで、党内には緊張感がみなぎっていた。しかし小選挙区制になると自民党同士で競わなくていいため、党内野党の役割を果たしていた派閥は意味をなさなくなってしまった。
中選挙区制については、政策上の差異のない同じ政党の候補者が互いに競わなければならなくなるため、政策論争ではなくサービス合戦が横行することになり、それが腐敗や癒着の温床となるとして、選挙制度が現在の小選挙区制を中心とした制度に変更になった。しかし、そもそもアングロサクソンの国々が歴史的な伝統の上に作り出した小選挙区という選挙制度が本当に日本に合っているのか、小選挙区制に変えることで、それまで大切にしてきた選挙や政治に関わる日本の財産が失われたりはしないのかといった議論は明らかに不十分だった。現に、小選挙区制になるまで衆院選の投票率は常に60%を超えていたが、小選挙区の導入以来、民主党が政権を取った2009年の衆院選以外はすべて投票率は50%台の前半に沈んでいる。短絡的な考えで選挙制度を変更したことで、日本の政治は明らかに劣化してしまった。
また、派閥制度を壊すのであれば、それまで派閥が担ってきた機能の中で必要なものを誰がどう代替するのかも考えておく必要があったが、その議論も明らかに不十分だった。
結果として劣化に次ぐ劣化によって、もはや自浄能力さえも失った自民党には、今日の日本が直面する喫緊の課題の解決は到底期待できそうもない。しかし、現状で野党にその役割を期待できるかと問われれば甚だ心許ないところがあることも否定できない。そもそも野党は、日本がこのような大きな国難に直面するのをよそ目に、一枚岩になる交渉すら難航している有り様だ。
村上氏は戦後、吉田茂首相が石橋湛山などの民間人を大臣に起用した例などを引き合いに出した上で、日本は今、与野党や議員籍の有無を問わずに政策に通じた優秀な人材を集めて挙国一致の救国内閣を作らなければならない状況を迎えているのではないかと問う。
国民政党だったはずの自民党はなぜこうも変質してしまったのか、どこに分岐点があったのか、地に落ちた国民の信頼を回復し、日本の政治を立て直すために今、何をしなければならないのかなどについて、衆院議員の村上誠一郎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43804359
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>ここまで劣化してしまった自民党にはもはや日本を任せられない/村上誠一郎氏(自民党衆院議員)
自民党内で最後に残った『良識派』を自認する村上誠一郎衆院議員がずっと恐れていたことが、今自民党に、そして日本の政治に起きている。
村上氏はこれまで派閥文化を壊滅させた小選挙区制の導入や集団的自衛権の行使を可能にする安保法制、特定秘密保護法、そしてアベノミクスなど、その時々の政権の目玉政策にことごとく反対してきた。非業の死を遂げた安倍元首相の国葬にも反対し、同氏を「財政、金融、外交をボロボロにし、官僚機構まで壊して、旧統一教会に選挙まで手伝わせた国賊」とまで酷評して、党の執行部から厳しい懲戒処分を受けたこともある。しかし、村上氏は持論を曲げなかった。それはそれらの政策に代表される政策路線が、保守政党としての自民党にとって明らかに間違ったものであることを確信していたからだ。
その村上氏は、自民党は今なお間違った方向に進んでいると嘆く。
今回、裏金問題や巨額の政策活動費の使途不明問題、そして事もあろうに官房機密費まで選挙資金に転用していたとの指摘まで出始め、補欠選挙の結果を見るまでもなく自民党政治に対する国民の不信感がピークに達している。にもかかわらず岸田政権はどこ吹く風といった体で、国民の神経をさらに逆撫でしている体たらくだ。
自民党は17日、政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出した。より厳しい規制強化を求める公明党との協議が決裂した結果、自民党は「大甘」の改正案を単独で提出せざるを得なかった。その自民党案は一見、公開基準の厳格化やデジタル化など「やっている感」を出すための文言が並ぶが、中身は事実上ゼロ回答に近い。裏金の温床となった複数の政治団体間の資金移動も禁止されず、二階幹事長が5年間で50億円近い党費を受け取りながら何に使ったかがまったくわからない政策活動費問題もほぼ手つかずのままだ。デジタル化も、ウェブ上で公開される政治資金収支報告書が検索やソート(並び替え)が可能なデータ化を意味しているのかどうか不明で、単にウェブ公開を義務づけるというお茶濁しに終わる可能性も排除できない。
これは政治資金の出先や使途を不透明なままにしておくことが自民党政治にとっては命綱となるため、それを断ち切ることは不可能ということなのか。それとも、自民党の「与党ぼけ」が行くところまで行ってしまった結果、もはや国民の怒りをまともに感じ取ることができなくなってしまった結果なのか。
村上氏は、かつて自民党は党内に様々な意見があり、党幹部に異論を唱えることも許されていたが、今は党幹部の方針に異を唱えることができなくなってしまったという。その理由として、党の執行部に権限を集中させることになった小選挙区制の導入、執行部に逆らった議員は平気で落選させられることを目の当たりにした郵政選挙、そして政策の議論の場を提供し、若い議員の教育の場としても機能していた派閥の弱体化の3つを挙げる。
小選挙区なら政治家本人に実力がなくても党の支持率が高ければ容易に当選することができる。そうして自身の政治信条や信念を持たず、党幹部の意向だけ気にする政治家がたくさん当選するようになり、更に党幹部に権力が集中していった。
また、郵政選挙で小泉首相が党の方針に反対する議員に公認を与えず、刺客まで放った結果、多くの議員が落選の辛酸を舐めた。それ以来、党の方針にあからさまに異論を唱える議員がいなくなった。村上氏は例外中の例外と言っていい。
かつて三角大福中と言われる5派閥が鎬を削っていた時代、派閥は候補者のリクルートの場でもあり、議員の教育の場でもあり、また政策論争の場でもあった。それは中選挙区制の下では自民党議員同士が競争しなければならないためで、党内には緊張感がみなぎっていた。しかし小選挙区制になると自民党同士で競わなくていいため、党内野党の役割を果たしていた派閥は意味をなさなくなってしまった。
中選挙区制については、政策上の差異のない同じ政党の候補者が互いに競わなければならなくなるため、政策論争ではなくサービス合戦が横行することになり、それが腐敗や癒着の温床となるとして、選挙制度が現在の小選挙区制を中心とした制度に変更になった。しかし、そもそもアングロサクソンの国々が歴史的な伝統の上に作り出した小選挙区という選挙制度が本当に日本に合っているのか、小選挙区制に変えることで、それまで大切にしてきた選挙や政治に関わる日本の財産が失われたりはしないのかといった議論は明らかに不十分だった。現に、小選挙区制になるまで衆院選の投票率は常に60%を超えていたが、小選挙区の導入以来、民主党が政権を取った2009年の衆院選以外はすべて投票率は50%台の前半に沈んでいる。短絡的な考えで選挙制度を変更したことで、日本の政治は明らかに劣化してしまった。
また、派閥制度を壊すのであれば、それまで派閥が担ってきた機能の中で必要なものを誰がどう代替するのかも考えておく必要があったが、その議論も明らかに不十分だった。
結果として劣化に次ぐ劣化によって、もはや自浄能力さえも失った自民党には、今日の日本が直面する喫緊の課題の解決は到底期待できそうもない。しかし、現状で野党にその役割を期待できるかと問われれば甚だ心許ないところがあることも否定できない。そもそも野党は、日本がこのような大きな国難に直面するのをよそ目に、一枚岩になる交渉すら難航している有り様だ。
村上氏は戦後、吉田茂首相が石橋湛山などの民間人を大臣に起用した例などを引き合いに出した上で、日本は今、与野党や議員籍の有無を問わずに政策に通じた優秀な人材を集めて挙国一致の救国内閣を作らなければならない状況を迎えているのではないかと問う。
国民政党だったはずの自民党はなぜこうも変質してしまったのか、どこに分岐点があったのか、地に落ちた国民の信頼を回復し、日本の政治を立て直すために今、何をしなければならないのかなどについて、衆院議員の村上誠一郎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43804432
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか/松永和紀氏(科学ジャーナリスト)
そもそも健康食品とは何なのか。実はこの問いには誰も答えられない。なぜならば、そもそも健康食品には法的な定義など存在しないからだ。
その一方で、ほとんど効果がないばかりか実際には人体に有害になり得る商品が、「健康食品」の名で日々、大量に売られている。
紅麹を使ったサプリメントによる中毒は、これまでに5人が死亡し270人もの入院者を出す、未曽有の食害事件となっている。医療機関の受診者も1,541人にのぼり、海外でも影響が出ているという。
小林製薬の紅麹コレステヘルプの中毒については、現時点ではまだ原因が特定されていない。しかし、食品安全に詳しい識者の多くが、健康食品産業が野放図に膨張する中で、今回のような事故が起きるのは時間の問題だったと口を揃える。
繰り返すが、そもそも「健康食品」には法律上の定義がない。人が口から摂取するものとしては医薬品と食品があるが、両者は異なる法律によって厳格に区別されていて、認可の基準も大きく異なる。薬機法(旧薬事法)によって厳しく管理されている医薬品と異なり、食品は法的には認可を必要としない。錠剤のサプリメントなどは素人目には限りなく薬に近い存在に見えるかもしれないが、法的にはあくまで食品だ。今回問題となっている小林製薬の紅麹を使ったサプリメントも、医薬品ではなく食品だ。なので今回の事故は薬害ではなく、食害もしくは食中毒ということになる。
食品を売るためには認可などを必要としないが、その分、通常の食品は健康効果を謳うことが薬機法によって禁じられている。ところが1980年代以降の世界的な健康ブームの高まりの中、日本でも特定の食品に健康上の効果を表示して売り出したいという業界からの強い要請があがるようになった。それを受けて政府はまず1991年に食品の中に「特定保健用食品」というカテゴリーを設け、一定の基準を満たした食品については、健康上の効果を謳うことができるようになった。いわゆるトクホである。
トクホというカテゴリーが設けられたことで、許可を得た食品は健康上の効果を謳うことが可能になったが、トクホの認定を受けるためには通常10年の年月と億単位のコストがかかるとされ、そのハードルは決して低いものではなかった。現実的には大手企業でなければトクホの認定を取得することは困難だった。
しかし、2015年に規制緩和を旗印に掲げる安倍政権の下、アベノミクスの一環として新たな食品のカテゴリーとして「機能性表示食品」というものが導入された。これはトクホよりも遥かに簡単な手続きでメーカーが健康食品の効果を謳うことを可能にする制度で、企業がガイドラインに則って効果や安全性を確認し、書類を消費者庁に提出すれば、機能性表示食品となり製品の健康上の効果を謳えるというもの。届け出された書類については消費者庁は形式的な確認しか行わず、よってその内容にも責任を負わない。
機能性表示食品制度の導入によって、国の審査を通過する必要があるトクホに比べて企業は遥かに簡単に商品の健康上の効果を謳えるようになり、これによって売り上げも爆発的に伸びたため、機能性表示食品が市場に溢れるようになった。1991年に導入されたトクホが33年間で1,054件しか認められていないのに対し、機能性表示食品の件数は導入から僅か9年間で6,752件にのぼっている。機能性表示食品制度の導入によって、トクホではとても手が届かなかった中小企業でも健康食品市場への参入が可能になったのだ。
小林製薬の紅麹コレステヘルプもラベルで大きく「悪玉コレステロールを下げる」「L/H比を下げる」と謳っているが、これはこの商品が機能性表示食品としての届け出をしているから許されたものだった。
しかし、機能性表示食品の制度が導入された当初から、科学的な根拠のない健康効果を謳う商品が乱造され、いずれはそれが健康被害を生む可能性があることが懸念されていた。機能性表示食品の届け出をするためには、一応その効果の根拠となる論文を添付しなければならないことになっているが、何とその論文がどの程度権威や信頼性のあるものなのかは問われていないのだ。
科学的な根拠が希薄で、生産管理についても国は一切関与していないが、それでも商品のラベルには大々的に健康上の効果を謳うことができる。多くの消費者は当然それを信じ込み、中には毎日その「食品」を一生懸命に摂り続ける人もいるだろう。今回の紅麹食害はそうした中で起きた、いわば起きるべくして起きた健康食品の食害事件だったのだ。
科学ジャーナリストの松永和紀氏は、食品の特定の成分を抽出してそれをサプリメントの形で摂ることのリスクを強調する。栄養は食品として他のものと一緒にバランスよく摂ることによって効果が生まれるものが多い。食品の特定の成分を抽出・濃縮して摂取すれば、より高い効果が期待できるという性格のものではない。ましてやサプリメントは毎日摂取されることが多いため、特定の物質だけを過剰摂取することになりやすく、健康上のリスクが懸念されると言う。
紅麹コレステヘルプによる食害が起きるべくして起きた事件だと言われる理由は何なのか。そもそも健康食品とは何で、なぜ十分な科学的エビデンスに基づかない効果を謳った商品がこれだけ大量に売られているのか。健康食品ブームを引き起こした健康に対する不安はどこから来ているのかなどについて、松永和紀氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。(松永氏より、今回の番組内の氏の発言は所属する組織の見解を示すものではなく松永氏のジャーナリストとしての見解であることを付記してほしい旨の申し入れがありましたので、ここに追記いたします。)
前半はこちら→so43776101
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか/松永和紀氏(科学ジャーナリスト)
そもそも健康食品とは何なのか。実はこの問いには誰も答えられない。なぜならば、そもそも健康食品には法的な定義など存在しないからだ。
その一方で、ほとんど効果がないばかりか実際には人体に有害になり得る商品が、「健康食品」の名で日々、大量に売られている。
紅麹を使ったサプリメントによる中毒は、これまでに5人が死亡し270人もの入院者を出す、未曽有の食害事件となっている。医療機関の受診者も1,541人にのぼり、海外でも影響が出ているという。
小林製薬の紅麹コレステヘルプの中毒については、現時点ではまだ原因が特定されていない。しかし、食品安全に詳しい識者の多くが、健康食品産業が野放図に膨張する中で、今回のような事故が起きるのは時間の問題だったと口を揃える。
繰り返すが、そもそも「健康食品」には法律上の定義がない。人が口から摂取するものとしては医薬品と食品があるが、両者は異なる法律によって厳格に区別されていて、認可の基準も大きく異なる。薬機法(旧薬事法)によって厳しく管理されている医薬品と異なり、食品は法的には認可を必要としない。錠剤のサプリメントなどは素人目には限りなく薬に近い存在に見えるかもしれないが、法的にはあくまで食品だ。今回問題となっている小林製薬の紅麹を使ったサプリメントも、医薬品ではなく食品だ。なので今回の事故は薬害ではなく、食害もしくは食中毒ということになる。
食品を売るためには認可などを必要としないが、その分、通常の食品は健康効果を謳うことが薬機法によって禁じられている。ところが1980年代以降の世界的な健康ブームの高まりの中、日本でも特定の食品に健康上の効果を表示して売り出したいという業界からの強い要請があがるようになった。それを受けて政府はまず1991年に食品の中に「特定保健用食品」というカテゴリーを設け、一定の基準を満たした食品については、健康上の効果を謳うことができるようになった。いわゆるトクホである。
トクホというカテゴリーが設けられたことで、許可を得た食品は健康上の効果を謳うことが可能になったが、トクホの認定を受けるためには通常10年の年月と億単位のコストがかかるとされ、そのハードルは決して低いものではなかった。現実的には大手企業でなければトクホの認定を取得することは困難だった。
しかし、2015年に規制緩和を旗印に掲げる安倍政権の下、アベノミクスの一環として新たな食品のカテゴリーとして「機能性表示食品」というものが導入された。これはトクホよりも遥かに簡単な手続きでメーカーが健康食品の効果を謳うことを可能にする制度で、企業がガイドラインに則って効果や安全性を確認し、書類を消費者庁に提出すれば、機能性表示食品となり製品の健康上の効果を謳えるというもの。届け出された書類については消費者庁は形式的な確認しか行わず、よってその内容にも責任を負わない。
機能性表示食品制度の導入によって、国の審査を通過する必要があるトクホに比べて企業は遥かに簡単に商品の健康上の効果を謳えるようになり、これによって売り上げも爆発的に伸びたため、機能性表示食品が市場に溢れるようになった。1991年に導入されたトクホが33年間で1,054件しか認められていないのに対し、機能性表示食品の件数は導入から僅か9年間で6,752件にのぼっている。機能性表示食品制度の導入によって、トクホではとても手が届かなかった中小企業でも健康食品市場への参入が可能になったのだ。
小林製薬の紅麹コレステヘルプもラベルで大きく「悪玉コレステロールを下げる」「L/H比を下げる」と謳っているが、これはこの商品が機能性表示食品としての届け出をしているから許されたものだった。
しかし、機能性表示食品の制度が導入された当初から、科学的な根拠のない健康効果を謳う商品が乱造され、いずれはそれが健康被害を生む可能性があることが懸念されていた。機能性表示食品の届け出をするためには、一応その効果の根拠となる論文を添付しなければならないことになっているが、何とその論文がどの程度権威や信頼性のあるものなのかは問われていないのだ。
科学的な根拠が希薄で、生産管理についても国は一切関与していないが、それでも商品のラベルには大々的に健康上の効果を謳うことができる。多くの消費者は当然それを信じ込み、中には毎日その「食品」を一生懸命に摂り続ける人もいるだろう。今回の紅麹食害はそうした中で起きた、いわば起きるべくして起きた健康食品の食害事件だったのだ。
科学ジャーナリストの松永和紀氏は、食品の特定の成分を抽出してそれをサプリメントの形で摂ることのリスクを強調する。栄養は食品として他のものと一緒にバランスよく摂ることによって効果が生まれるものが多い。食品の特定の成分を抽出・濃縮して摂取すれば、より高い効果が期待できるという性格のものではない。ましてやサプリメントは毎日摂取されることが多いため、特定の物質だけを過剰摂取することになりやすく、健康上のリスクが懸念されると言う。
紅麹コレステヘルプによる食害が起きるべくして起きた事件だと言われる理由は何なのか。そもそも健康食品とは何で、なぜ十分な科学的エビデンスに基づかない効果を謳った商品がこれだけ大量に売られているのか。健康食品ブームを引き起こした健康に対する不安はどこから来ているのかなどについて、松永和紀氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。(松永氏より、今回の番組内の氏の発言は所属する組織の見解を示すものではなく松永氏のジャーナリストとしての見解であることを付記してほしい旨の申し入れがありましたので、ここに追記いたします。)
後半はこちら→so43776271
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<マル激・後半>今こそ日本を立て直すための「プランB」を実現しよう/吉見俊哉氏(国学院大学観光まちづくり学部教授、東京大学名誉教授)
日本では戦後一貫して自民党が「プランA」の担い手だった。そして自民党政治が限界を迎えた今、日本を立て直すための「プランB」を実現するための好機が訪れているのではないか。
衆院の補選で自民党が3連敗した。裏金スキャンダルの影響が指摘されるが、そもそも今回の裏金問題は日本における過去十数年の政治の実態が、党の支持基盤が細る一方の自民党が億単位の裏金を駆使して辛うじて選挙に勝利し権力を維持してきた歴史だったことを露わにしていると見るべきだろう。ゴールデンウィーク明けから本格化する政治資金規正法改正案の審議でも、自民党は何があっても億単位のおカネを選挙や政治活動に自由に使える裏金を作れる仕組みや、内訳を一切明らかにしなくてもいい、事実上の政党の「官房機密費」の役割を果たしている政策活動費だけは、決して手放そうとしない。裏金なくして自民党政治は成り立たないからだ。
今回の補選の結果が自民党政治の終焉を意味するのか、あるいはこれまでのように自民党に一時的に「お灸をすえる」程度のもので終わるのかは、未知数だ。しかし、仮に何らかの方法で自民党が党勢を回復させたとしても、それだけでは日本が抱える大問題には何の解決策にもならない。
日本がかつて戦後の焼け野原からの奇跡的な復興を果たし、ほんの短い間とは言え世界に冠たる経済大国になることを可能にした「プランA」に代わる「プランB」を打ち出せない限り、30年を超える日本の低迷は今後も続くことが不可避だ。ある意味で、日本のプランAと自民党政治は表裏一体の関係にあった。だから、自民党政治が続く限り日本はプランAからプランBへの転換は困難だった。しかし、自民党政治が限界を露呈している今、プランAと決別し政治、経済、社会のあらゆる分野における国の運営を新しいプランに基づくものに転換するチャンスが訪れている。
しかし、日本にとってのプランBとは何なのかを考えるためには、まずそもそも日本が今まだその線上に乗っているプランAとは何だったのか、そしてなぜある時期までプランAは機能し、いつ頃からどのような理由でプランAは機能しなくなったのか。そして、何よりもなぜ日本はここまでプランBを打ち出すことができないのかを、まずは厳しく検証しなければならない。
その検証と反省の上に立ち、21世紀の日本にとってのプランBとはどのようなものでなければならないのか、そしてそれを実現するために、われわれは何をどう変えなければならないのかなどを考える必要があるだろう。
はっきりしていることは、プランAが一時期非常にうまく機能し、世界から「エコノミック・ミラクル」とまで称賛されるような復興と高度経済成長を果たせた最大の理由は、空前の人口ボーナスと内政と経済活動に集中することが許される特殊な国際情勢があったからだ。そして、その前提がほぼすべて崩れている今、プランAがうまくいかないのは当たり前のことだった。
社会学者でまちづくりの専門家でもある吉見俊哉・国学院大学教授は、戦後復興のプランAは1980年代の中曽根民活あたりから始まった新自由主義路線により、プランA1からプランA2へと表面的には姿を変えたが、いずれもその核心は量的な成長・拡大を志向した途上国モデルに過ぎなかったと言う。それを前提に吉見氏は、プランBの核心は自ずと成長・拡大モデルを捨てることになると指摘する。そしてその象徴として吉見氏は東京一極集中を挙げる。すべてを東京に集中させれば効率はよくなるが、満員電車や住宅事情や空洞化した人間関係を見るまでもなく、その分、人々の生活から豊かさや人間性は失われる。そして、その東京の出生率が極端に低いため、東京に人が集まれば集まるほど人口減少に拍車がかかる。効率を追求する中で、社会全体を高速化しなければならないという強迫観念から脱却することが、プランBの中で重要なウエイトを占めることになると吉見氏は言う。
また、日本にとってのプランBは、プランAのように霞が関のエリート官僚が勝手に作成し、それを上意下達していくものでは機能しない。社会が複雑化し、利害関係が複雑に絡み合う今日、意思決定の方向性を上意下達型から内発型にしない限り、プランBがどんなに立派な内容であったとしても、それが心情的に市民から受け入れられることはないだろう。つまりプランBはその中身の妥当性も問われるが、同時にその決め方や政策が実行される際のベクトルが重要な要素を占めることになる。
そうして考えていくと、まだまだお上意識が強く、変に国や社会の意思決定に参加するよりも、「任せてブーたれる」方が楽だと考える人が多数を占める今日の日本で、プランBを策定し実行することは決して容易ではないかもしれない。しかし、それなくして日本の再興があり得ない以上、どこかでわれわれは必ずその問題と向き合わなければならなくなる。そして、それが早ければ早いほど、痛みが少なくて済むことは言うまでもない。
日本はなぜプランBを打ち出せないのか、そもそもプランAとは何だったのか、プランAを支えていた前提条件とは何か、それがなくなった今、日本に必要なプランBとはどのようなものなのかなどについて、国学院大学観光まちづくり学部教授の吉見俊哉氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43745961
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<マル激・前半>今こそ日本を立て直すための「プランB」を実現しよう/吉見俊哉氏(国学院大学観光まちづくり学部教授、東京大学名誉教授)
日本では戦後一貫して自民党が「プランA」の担い手だった。そして自民党政治が限界を迎えた今、日本を立て直すための「プランB」を実現するための好機が訪れているのではないか。
衆院の補選で自民党が3連敗した。裏金スキャンダルの影響が指摘されるが、そもそも今回の裏金問題は日本における過去十数年の政治の実態が、党の支持基盤が細る一方の自民党が億単位の裏金を駆使して辛うじて選挙に勝利し権力を維持してきた歴史だったことを露わにしていると見るべきだろう。ゴールデンウィーク明けから本格化する政治資金規正法改正案の審議でも、自民党は何があっても億単位のおカネを選挙や政治活動に自由に使える裏金を作れる仕組みや、内訳を一切明らかにしなくてもいい、事実上の政党の「官房機密費」の役割を果たしている政策活動費だけは、決して手放そうとしない。裏金なくして自民党政治は成り立たないからだ。
今回の補選の結果が自民党政治の終焉を意味するのか、あるいはこれまでのように自民党に一時的に「お灸をすえる」程度のもので終わるのかは、未知数だ。しかし、仮に何らかの方法で自民党が党勢を回復させたとしても、それだけでは日本が抱える大問題には何の解決策にもならない。
日本がかつて戦後の焼け野原からの奇跡的な復興を果たし、ほんの短い間とは言え世界に冠たる経済大国になることを可能にした「プランA」に代わる「プランB」を打ち出せない限り、30年を超える日本の低迷は今後も続くことが不可避だ。ある意味で、日本のプランAと自民党政治は表裏一体の関係にあった。だから、自民党政治が続く限り日本はプランAからプランBへの転換は困難だった。しかし、自民党政治が限界を露呈している今、プランAと決別し政治、経済、社会のあらゆる分野における国の運営を新しいプランに基づくものに転換するチャンスが訪れている。
しかし、日本にとってのプランBとは何なのかを考えるためには、まずそもそも日本が今まだその線上に乗っているプランAとは何だったのか、そしてなぜある時期までプランAは機能し、いつ頃からどのような理由でプランAは機能しなくなったのか。そして、何よりもなぜ日本はここまでプランBを打ち出すことができないのかを、まずは厳しく検証しなければならない。
その検証と反省の上に立ち、21世紀の日本にとってのプランBとはどのようなものでなければならないのか、そしてそれを実現するために、われわれは何をどう変えなければならないのかなどを考える必要があるだろう。
はっきりしていることは、プランAが一時期非常にうまく機能し、世界から「エコノミック・ミラクル」とまで称賛されるような復興と高度経済成長を果たせた最大の理由は、空前の人口ボーナスと内政と経済活動に集中することが許される特殊な国際情勢があったからだ。そして、その前提がほぼすべて崩れている今、プランAがうまくいかないのは当たり前のことだった。
社会学者でまちづくりの専門家でもある吉見俊哉・国学院大学教授は、戦後復興のプランAは1980年代の中曽根民活あたりから始まった新自由主義路線により、プランA1からプランA2へと表面的には姿を変えたが、いずれもその核心は量的な成長・拡大を志向した途上国モデルに過ぎなかったと言う。それを前提に吉見氏は、プランBの核心は自ずと成長・拡大モデルを捨てることになると指摘する。そしてその象徴として吉見氏は東京一極集中を挙げる。すべてを東京に集中させれば効率はよくなるが、満員電車や住宅事情や空洞化した人間関係を見るまでもなく、その分、人々の生活から豊かさや人間性は失われる。そして、その東京の出生率が極端に低いため、東京に人が集まれば集まるほど人口減少に拍車がかかる。効率を追求する中で、社会全体を高速化しなければならないという強迫観念から脱却することが、プランBの中で重要なウエイトを占めることになると吉見氏は言う。
また、日本にとってのプランBは、プランAのように霞が関のエリート官僚が勝手に作成し、それを上意下達していくものでは機能しない。社会が複雑化し、利害関係が複雑に絡み合う今日、意思決定の方向性を上意下達型から内発型にしない限り、プランBがどんなに立派な内容であったとしても、それが心情的に市民から受け入れられることはないだろう。つまりプランBはその中身の妥当性も問われるが、同時にその決め方や政策が実行される際のベクトルが重要な要素を占めることになる。
そうして考えていくと、まだまだお上意識が強く、変に国や社会の意思決定に参加するよりも、「任せてブーたれる」方が楽だと考える人が多数を占める今日の日本で、プランBを策定し実行することは決して容易ではないかもしれない。しかし、それなくして日本の再興があり得ない以上、どこかでわれわれは必ずその問題と向き合わなければならなくなる。そして、それが早ければ早いほど、痛みが少なくて済むことは言うまでもない。
日本はなぜプランBを打ち出せないのか、そもそもプランAとは何だったのか、プランAを支えていた前提条件とは何か、それがなくなった今、日本に必要なプランBとはどのようなものなのかなどについて、国学院大学観光まちづくり学部教授の吉見俊哉氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43746114
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>本来は厳格なはずの日本の政治資金規正法の下で政治とカネの問題が後を絶たない理由/孫斉庸氏(立教大学法学部准教授)
問題は法律そのものではなく、法の運用と意図的に作られた抜け穴にある。
未曾有の政治不信を引き起こしている裏金問題を受けて、国会で政治資金規正法の改正審議が始まった。しかし、残念ながら不祥事の当事者である自民党は、本気で実効性のある改正を行う気はさらさらないようだ。
そもそもここまで自民党から出てきている案は、おおよそ政治不信を払拭できるような踏み込んだものではない。しかも、与党内で公明党と調整した上で提出することになる与党案をゴールデンウィーク明けまで引き延ばしてしまった。これは4月28日の3補選の前に法案を出し渋ったからだろう。これでは、有権者を納得させられるような厳しい改正案を出す気がさらさらないことを、法案提出の前に宣言しているようなものだ。
政治とカネの問題は日本のみならず、多くの国が頭を悩ませてきた問題だ。政治活動が選挙運動や政策立案などに一定の資金を必要とする一方で、一歩まちがえば、カネは政治腐敗を生んだり、政策を歪めるような癒着といった、民主主義の屋台骨を揺るがすような問題を引き起こす可能性を孕んでいるからだ。かと思えばアメリカのように、政党や政治家に寄付をすることは国民の「政治意思の表明」という意味で表現の自由という憲法上の権利として保護されなければならないと考えられている国もある。
日本は今国会で政治資金規正法の改正を審議することになる。何ら実効性のない自民党案は論外としても、この審議は有権者として注視する必要がある。それは、いたずらに政治資金に対する規制を厳しくしても、政治とカネの問題の根本的な解決方法にならないことが明らかだからだ。
政治学者で立教大学法学部准教授の孫斉庸氏は各国の政治資金規制を、企業献金が認められているか、どこまで報告・公開を課しているかなど40以上のカテゴリーで詳細に比較した上で、それぞれの国の政治資金規制の厳格さをランク付けしている。それによると、実は日本の政治資金規正法は国際的に見ても厳しい部類に入るのだという。例えば、スイスやスウェーデンなど民主主義が成熟していると見られる国の多くでは、政治家個人への企業・団体献金が認められていたり、収支報告の公開義務さえない国もある。
興味深いのは、日本よりも政治資金に対する規制が厳しい国はメキシコやチリ、ポーランドなど過去に政治腐敗が指摘されたり汚職事件が多く起きている、いわばまだ民主主義が成熟していない国が多い。孫氏は政治資金規制が厳しいということは、法律を厳しくしなければ有権者の政治不信を払拭することができないような政治が行われていたり、過去に汚職や疑獄などが頻発していることの反映であり、これは必ずしも誇れることではないと指摘する。
確かに日本では政治家個人への企業・団体献金は禁止されているし、一定額以上の寄付に対しては寄付者の公開義務も課されている。民主政の国々、とりわけ北ヨーロッパの国々の中には、この程度の制限すらない国が多い。どうやら日本の政治とカネ問題の本質は法律の条文にあるのではなく、本来は制限されているはずの政治資金に多くの抜け穴があったり、実際にカネが物を言う選挙や政治が行われているところに根本的な問題があると言えそうだ。
日本の政治資金規正法は1948年の制定以来、過去に主に9回の改正を繰り返してきた。孫氏はそのたびにほぼ今回と同じような問題が指摘されてきたが、結果的に自民党は本質的な問題を解決せずに、弥縫策で切り抜けてきたと語る。
例えば、企業献金は仮に認めるにしてもその出と入をガラス張りにしなければ、経済政策が歪められる恐れがあることは誰にでもわかることだ。しかし、過去の自民党の政治とカネ問題はほぼ例外なく企業や業界団体からの違法献金だった。今回のパーティ券裏金問題も、そもそも政治資金パーティ自体が企業献金の抜け穴として作用しているものだ。自民党は企業献金が問題になるたびに、これを「企業・団体献金」などと呼ぶことで労働組合などからの献金と並立させたり、「赤旗」のような政党の機関誌からの収入もその範疇に入れるべきなどと主張することによって、野党や世論を揺さぶることで結果的に企業献金を生き残らせることに成功してきた。
国際的には日本は政治家個人への企業や団体からの献金は禁止されているため、OECD加盟国の中でも政治資金規制が「厳しい国」に分類されているが、実際は政党や政党支部への企業献金は1億円まで認められていることに加え、政治資金パーティのパーティ券購入という、一見最もらしいが明らかに脱法的な寄付行為によって、企業献金が政党のみならず政治家個人にも渡っていたことが、今回の裏金スキャンダルで白日の下に晒された。二階幹事長に党から5年間で50億円近い資金が流れていたことが明らかになっているが、政党から政治家個人への寄付や政治団体間の資金移動に制限はなく、しかもその資金が「政策活動費」の名目で全く使途を明らかにされないまま闇から闇へ消えている。このようなことが許されている国が、先進国の中でも政治資金規制が「厳しい部類に入る」などということがあり得るわけがない。
つまり、今日本が集中すべきは、いらずらに政治資金規正法を厳格化するのではなく、今ある制度の下で多くの政治家が当たり前のように使っている「抜け穴」を一つ一つしっかりと埋めていくことだ。さもなくば、このままでは日本は、「世界で最も厳しい政治資金規制がありながら、もっとも政治が腐敗している国」という不名誉な称号が与えられることになりかねない。
抜け穴については、先週のマル激でもご紹介している通り、上脇博之・神戸学院大学教授が理事を務める政治資金センターと、ビデオニュース・ドットコムで「ディスクロージャー・アンド・ディスカバリー」の司会を務める三木由希子氏の情報公開クリアリングハウスが共同で提出した意見書にある17項目の改正・修正が最低でも必要だ。これはいずれも制度そのものの改正ではなく、現行法の運用の改善やより高度な透明化(ガラス張り化)を求めるもので、仮にこの改正をすべて行っても、日本の政治資金規制の厳しさランキングが今よりあがることはないだろう。
有権者は形ばかりの厳格化に騙されてはならない。繰り返すが、必要なのは厳格化ではなく、今ある制度の下で堂々とまかり通っている抜け穴を一つ一つ埋めていくことなのだ。
孫氏は今の政治不信は日本にとっては大きなチャンスにもなり得ると、期待を込めて指摘する。日本、とりわけ万年与党たる自民党は、ここまで政治資金スキャンダルが起きるたびに意図的に抜け穴を残したまま弥縫策で誤魔化してきたが、ここにきていよいよそれが誤魔化しきれなくなっている。これを奇貨とすることで日本が、例えばAIを活用した政治資金収支報告書のデジタルデータ化を導入するなどして、世界の各国の模範となるような優れた、そして透明性の担保された政治資金規制を確立することは十分に可能だと孫氏は言う。そして、その成否はわれわれ有権者にかかっている。
国際的に見て政治資金規制が厳しいはずの日本で政治腐敗が止まらないのはなぜなのか、なぜあからさまな抜け穴が放置され続けてきたのか、誰が政治資金の透明化を阻んできたのか、日本の政治が有権者の信頼を取り戻すためにはどのような政治資金制度の改正が求められているのかなどについて、立教大学法学部准教授の孫斉庸氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43713936
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>本来は厳格なはずの日本の政治資金規正法の下で政治とカネの問題が後を絶たない理由/孫斉庸氏(立教大学法学部准教授)
問題は法律そのものではなく、法の運用と意図的に作られた抜け穴にある。
未曾有の政治不信を引き起こしている裏金問題を受けて、国会で政治資金規正法の改正審議が始まった。しかし、残念ながら不祥事の当事者である自民党は、本気で実効性のある改正を行う気はさらさらないようだ。
そもそもここまで自民党から出てきている案は、おおよそ政治不信を払拭できるような踏み込んだものではない。しかも、与党内で公明党と調整した上で提出することになる与党案をゴールデンウィーク明けまで引き延ばしてしまった。これは4月28日の3補選の前に法案を出し渋ったからだろう。これでは、有権者を納得させられるような厳しい改正案を出す気がさらさらないことを、法案提出の前に宣言しているようなものだ。
政治とカネの問題は日本のみならず、多くの国が頭を悩ませてきた問題だ。政治活動が選挙運動や政策立案などに一定の資金を必要とする一方で、一歩まちがえば、カネは政治腐敗を生んだり、政策を歪めるような癒着といった、民主主義の屋台骨を揺るがすような問題を引き起こす可能性を孕んでいるからだ。かと思えばアメリカのように、政党や政治家に寄付をすることは国民の「政治意思の表明」という意味で表現の自由という憲法上の権利として保護されなければならないと考えられている国もある。
日本は今国会で政治資金規正法の改正を審議することになる。何ら実効性のない自民党案は論外としても、この審議は有権者として注視する必要がある。それは、いたずらに政治資金に対する規制を厳しくしても、政治とカネの問題の根本的な解決方法にならないことが明らかだからだ。
政治学者で立教大学法学部准教授の孫斉庸氏は各国の政治資金規制を、企業献金が認められているか、どこまで報告・公開を課しているかなど40以上のカテゴリーで詳細に比較した上で、それぞれの国の政治資金規制の厳格さをランク付けしている。それによると、実は日本の政治資金規正法は国際的に見ても厳しい部類に入るのだという。例えば、スイスやスウェーデンなど民主主義が成熟していると見られる国の多くでは、政治家個人への企業・団体献金が認められていたり、収支報告の公開義務さえない国もある。
興味深いのは、日本よりも政治資金に対する規制が厳しい国はメキシコやチリ、ポーランドなど過去に政治腐敗が指摘されたり汚職事件が多く起きている、いわばまだ民主主義が成熟していない国が多い。孫氏は政治資金規制が厳しいということは、法律を厳しくしなければ有権者の政治不信を払拭することができないような政治が行われていたり、過去に汚職や疑獄などが頻発していることの反映であり、これは必ずしも誇れることではないと指摘する。
確かに日本では政治家個人への企業・団体献金は禁止されているし、一定額以上の寄付に対しては寄付者の公開義務も課されている。民主政の国々、とりわけ北ヨーロッパの国々の中には、この程度の制限すらない国が多い。どうやら日本の政治とカネ問題の本質は法律の条文にあるのではなく、本来は制限されているはずの政治資金に多くの抜け穴があったり、実際にカネが物を言う選挙や政治が行われているところに根本的な問題があると言えそうだ。
日本の政治資金規正法は1948年の制定以来、過去に主に9回の改正を繰り返してきた。孫氏はそのたびにほぼ今回と同じような問題が指摘されてきたが、結果的に自民党は本質的な問題を解決せずに、弥縫策で切り抜けてきたと語る。
例えば、企業献金は仮に認めるにしてもその出と入をガラス張りにしなければ、経済政策が歪められる恐れがあることは誰にでもわかることだ。しかし、過去の自民党の政治とカネ問題はほぼ例外なく企業や業界団体からの違法献金だった。今回のパーティ券裏金問題も、そもそも政治資金パーティ自体が企業献金の抜け穴として作用しているものだ。自民党は企業献金が問題になるたびに、これを「企業・団体献金」などと呼ぶことで労働組合などからの献金と並立させたり、「赤旗」のような政党の機関誌からの収入もその範疇に入れるべきなどと主張することによって、野党や世論を揺さぶることで結果的に企業献金を生き残らせることに成功してきた。
国際的には日本は政治家個人への企業や団体からの献金は禁止されているため、OECD加盟国の中でも政治資金規制が「厳しい国」に分類されているが、実際は政党や政党支部への企業献金は1億円まで認められていることに加え、政治資金パーティのパーティ券購入という、一見最もらしいが明らかに脱法的な寄付行為によって、企業献金が政党のみならず政治家個人にも渡っていたことが、今回の裏金スキャンダルで白日の下に晒された。二階幹事長に党から5年間で50億円近い資金が流れていたことが明らかになっているが、政党から政治家個人への寄付や政治団体間の資金移動に制限はなく、しかもその資金が「政策活動費」の名目で全く使途を明らかにされないまま闇から闇へ消えている。このようなことが許されている国が、先進国の中でも政治資金規制が「厳しい部類に入る」などということがあり得るわけがない。
つまり、今日本が集中すべきは、いたずらに政治資金規正法を厳格化するのではなく、今ある制度の下で多くの政治家が当たり前のように使っている「抜け穴」を一つ一つしっかりと埋めていくことだ。さもなくば、このままでは日本は、「世界で最も厳しい政治資金規制がありながら、もっとも政治が腐敗している国」という不名誉な称号が与えられることになりかねない。
抜け穴については、先週のマル激でもご紹介している通り、上脇博之・神戸学院大学教授が理事を務める政治資金センターと、ビデオニュース・ドットコムで「ディスクロージャー・アンド・ディスカバリー」の司会を務める三木由希子氏の情報公開クリアリングハウスが共同で提出した意見書にある17項目の改正・修正が最低でも必要だ。これはいずれも制度そのものの改正ではなく、現行法の運用の改善やより高度な透明化(ガラス張り化)を求めるもので、仮にこの改正をすべて行っても、日本の政治資金規制の厳しさランキングが今よりあがることはないだろう。
有権者は形ばかりの厳格化に騙されてはならない。繰り返すが、必要なのは厳格化ではなく、今ある制度の下で堂々とまかり通っている抜け穴を一つ一つ埋めていくことなのだ。
孫氏は今の政治不信は日本にとっては大きなチャンスにもなり得ると、期待を込めて指摘する。日本、とりわけ万年与党たる自民党は、ここまで政治資金スキャンダルが起きるたびに意図的に抜け穴を残したまま弥縫策で誤魔化してきたが、ここにきていよいよそれが誤魔化しきれなくなっている。これを奇貨とすることで日本が、例えばAIを活用した政治資金収支報告書のデジタルデータ化を導入するなどして、世界の各国の模範となるような優れた、そして透明性の担保された政治資金規制を確立することは十分に可能だと孫氏は言う。そして、その成否はわれわれ有権者にかかっている。
国際的に見て政治資金規制が厳しいはずの日本で政治腐敗が止まらないのはなぜなのか、なぜあからさまな抜け穴が放置され続けてきたのか、誰が政治資金の透明化を阻んできたのか、日本の政治が有権者の信頼を取り戻すためにはどのような政治資金制度の改正が求められているのかなどについて、立教大学法学部准教授の孫斉庸氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43714382
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<マル激・前半>NATOの拡大で変わる欧州の安全保障と日本が考えるべきこと/遠藤乾氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
昨年のフィンランドに続き、スウェーデンが今年3月7日、NATO(北大西洋条約機構)に加盟した。200年以上も非同盟中立を守ってきたスウェーデンの方針転換はヨーロッパの安全保障のあり方を根底から変えるかもしれない。
元々ロシアのプーチン大統領にとって、ウクライナへの軍事侵攻はNATO東方拡大への対抗の意味合いを持っていた。しかし、結果的に侵攻によってNATOが益々拡大することになった。遂にNATOという軍事同盟は、フィンランドの1,500キロに及ぶロシアとの国境を隔てて、ロシアと直接向き合うことになってしまった。
東京大学大学院法学政治学研究科教授でヨーロッパの安全保障に詳しい遠藤乾氏は、ロシアによるウクライナ侵攻がなければスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟することはなかったという意味では、ロシアのオウンゴールのようなものだという。その上で、ロシアと近接しながらこれまでNATOには加盟せずに「ノルディックバランス」を保ってきた両国が加盟に踏み切った最大の理由は、ウクライナに対するプーチンによる核の脅しだったという。核兵器の使用も辞さないプーチンの姿勢を目の当たりにして、もはやNATOの核の傘に入らなければ自国の安全を保てないとの確信を得たことが、NATOへの加盟を後押ししたと遠藤氏は指摘する。
結果的にスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟したことにより、バルト海はNATO加盟国に取り囲まれることになった。これまではEUには加盟してもNATOとは一定の距離を置いてきたスウェーデン、フィンランドの両国がNATOに加盟したことで、EUとNATOの版図がほぼ一致することになり、結果的に東西の境界がより鮮明になった。また、NATOという軍事同盟がNATOを脅威に感じるロシアと直接向き合うことになったことで、自ずと欧州の軍事的緊張は高まることが避けられない。
さらにここに来て大きな問題となっているのが、NATOの盟主であるアメリカが果たしてNATOにとどまり続けるかどうかが怪しくなっていることだ。11月の大統領選挙で実際に再選される可能性が出てきているトランプ前大統領は、度々NATOからの脱退も仄めかしてきた。NATOというアメリカを中心に形成された同盟体制が、スウェーデンとフィンランドの加盟でより盤石になったように見えても、アメリカが抜けてしまえば、すべての前提が崩れてしまう。
遠藤氏はアメリカ抜きのNATOで各国が足並みを揃えてロシアに太刀打ちすることは難しいだろうと語る。アメリカの動静次第では、欧州の安全保障が第二次大戦後もっとも視界不良な時代に突入する可能性が出てきているのだ。
一方で、今週、訪米中の岸田首相が米連邦議会で演説を行ったが、その中で首相は、日本がアメリカと肩を並べて世界秩序の維持に邁進する覚悟があると大見得を切った。また、日本はグローバルな秩序の維持にもアメリカと一緒になって取り組むとまで約束している。国賓待遇で歓待してくれているアメリカへのリップサービスの面があるにしても、いつ日本はそんなことを決めたのだろうか。そもそも憲法の制約がある中で、そんな空手形を切って大丈夫なのか。バイデン大統領から日本が最重要な同盟国などと持ち上げられて喜んでいる首相のはしゃぎ過ぎが心配だ。
欧州の安全保障も東アジアの安全保障も、結局のところ20世紀の大半で圧倒的な優位性を誇っていたアメリカの力が相対的に落ちているところに問題がある。そうした中で日本は引き続きアメリカ一辺倒の外交政策を続け、かつてアメリカが果たしてきた軍事的な役割を世界規模で肩代わりするところまでやるつもりなのか。その力が日本にあるのか。それが日本の真の国益に適うことなのか。今一度厳しく検証する必要があるだろう。
中立を保ってきた北欧諸国が軍事同盟に参加することで欧州の軍事バランスはどう変わるのか。「もしトラ」が実現しアメリカが再び極端な孤立主義路線に転じた時、欧州や日本の安全保障はどうなるのかなどについて、東京大学大学院法学政治学研究科教授の遠藤乾氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43655579
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<マル激・後半>NATOの拡大で変わる欧州の安全保障と日本が考えるべきこと/遠藤乾氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
昨年のフィンランドに続き、スウェーデンが今年3月7日、NATO(北大西洋条約機構)に加盟した。200年以上も非同盟中立を守ってきたスウェーデンの方針転換はヨーロッパの安全保障のあり方を根底から変えるかもしれない。
元々ロシアのプーチン大統領にとって、ウクライナへの軍事侵攻はNATO東方拡大への対抗の意味合いを持っていた。しかし、結果的に侵攻によってNATOが益々拡大することになった。遂にNATOという軍事同盟は、フィンランドの1,500キロに及ぶロシアとの国境を隔てて、ロシアと直接向き合うことになってしまった。
東京大学大学院法学政治学研究科教授でヨーロッパの安全保障に詳しい遠藤乾氏は、ロシアによるウクライナ侵攻がなければスウェーデン、フィンランドがNATOに加盟することはなかったという意味では、ロシアのオウンゴールのようなものだという。その上で、ロシアと近接しながらこれまでNATOには加盟せずに「ノルディックバランス」を保ってきた両国が加盟に踏み切った最大の理由は、ウクライナに対するプーチンによる核の脅しだったという。核兵器の使用も辞さないプーチンの姿勢を目の当たりにして、もはやNATOの核の傘に入らなければ自国の安全を保てないとの確信を得たことが、NATOへの加盟を後押ししたと遠藤氏は指摘する。
結果的にスウェーデンとフィンランドがNATOに加盟したことにより、バルト海はNATO加盟国に取り囲まれることになった。これまではEUには加盟してもNATOとは一定の距離を置いてきたスウェーデン、フィンランドの両国がNATOに加盟したことで、EUとNATOの版図がほぼ一致することになり、結果的に東西の境界がより鮮明になった。また、NATOという軍事同盟がNATOを脅威に感じるロシアと直接向き合うことになったことで、自ずと欧州の軍事的緊張は高まることが避けられない。
さらにここに来て大きな問題となっているのが、NATOの盟主であるアメリカが果たしてNATOにとどまり続けるかどうかが怪しくなっていることだ。11月の大統領選挙で実際に再選される可能性が出てきているトランプ前大統領は、度々NATOからの脱退も仄めかしてきた。NATOというアメリカを中心に形成された同盟体制が、スウェーデンとフィンランドの加盟でより盤石になったように見えても、アメリカが抜けてしまえば、すべての前提が崩れてしまう。
遠藤氏はアメリカ抜きのNATOで各国が足並みを揃えてロシアに太刀打ちすることは難しいだろうと語る。アメリカの動静次第では、欧州の安全保障が第二次大戦後もっとも視界不良な時代に突入する可能性が出てきているのだ。
一方で、今週、訪米中の岸田首相が米連邦議会で演説を行ったが、その中で首相は、日本がアメリカと肩を並べて世界秩序の維持に邁進する覚悟があると大見得を切った。また、日本はグローバルな秩序の維持にもアメリカと一緒になって取り組むとまで約束している。国賓待遇で歓待してくれているアメリカへのリップサービスの面があるにしても、いつ日本はそんなことを決めたのだろうか。そもそも憲法の制約がある中で、そんな空手形を切って大丈夫なのか。バイデン大統領から日本が最重要な同盟国などと持ち上げられて喜んでいる首相のはしゃぎ過ぎが心配だ。
欧州の安全保障も東アジアの安全保障も、結局のところ20世紀の大半で圧倒的な優位性を誇っていたアメリカの力が相対的に落ちているところに問題がある。そうした中で日本は引き続きアメリカ一辺倒の外交政策を続け、かつてアメリカが果たしてきた軍事的な役割を世界規模で肩代わりするところまでやるつもりなのか。その力が日本にあるのか。それが日本の真の国益に適うことなのか。今一度厳しく検証する必要があるだろう。
中立を保ってきた北欧諸国が軍事同盟に参加することで欧州の軍事バランスはどう変わるのか。「もしトラ」が実現しアメリカが再び極端な孤立主義路線に転じた時、欧州や日本の安全保障はどうなるのかなどについて、東京大学大学院法学政治学研究科教授の遠藤乾氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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<マル激・後半>現行の成年後見制度では認知症になった人の権利を守れない/佐藤彰一氏(弁護士、全国権利擁護支援ネットワーク顧問)
成年後見制度ができて四半世紀。数々の問題が指摘されてきたこの制度に、やっと見直しの動きが出てきた。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などが理由で判断能力が低下した人の財産管理などを代理人が行う仕組みで、2000年にスタートした。成年後見人になるためには特別な資格は必要なく、家族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などがなる場合が多い。また、その報酬は基本的には被後見人となる本人が負担する。
認知症によって判断能力が衰える人が増加し、後見制度の必要性が高まる一方で、現行の制度は課題が多く利用しにくいことが指摘されてきた。今年2月に法務大臣が見直しを法制審に諮問したのを受けて、今月から審議が始まる。
成年後見制度は、明治時代から続いてきた民法の禁治産制度を改正して2000年に始まった。禁治産は、判断能力がないとされた人に対して様々な行為を制限するもので、裁判所から禁治産者の宣告を受けると財産の管理能力がないとされ選挙権も与えられなかった。同年にスタートした介護保険が、サービスの利用を行政が措置する制度から、利用者が契約する制度と変わるのに合わせて、同様の考え方で現行の成年後見制度が作られたという経緯がある。
しかし、例えば遺産分割などで認知症の当事者に一度後見人をつけると、亡くなるまで利用をやめることができないほか、その後の介護サービスの利用などについても後見人の判断が求められるなど、非常に煩雑で使い勝手が悪い制度となっていた。
さらに、成年後見人には包括的な取消権、代理権が与えられ、被後見人の意思がまったく考慮されなくなる問題も指摘されていた。一昨年、国連は、障害者権利委員会の総括所見として「意思決定を代行する制度を廃止する」観点から民法の改正を日本政府に勧告している。
弁護士で2月まで全国権利擁護支援ネットワークの代表を務めていた佐藤彰一氏は、判断能力の有無を他者が決めることができないという理由から、判断能力がないことを前提とするのではなく、「能力存在推定」を前提に被後見人の意思決定を支援する制度を考えるべきだと主張する。
そのためには、被後見人の意思決定をどう支援するかが重要となる。しかし、本人の意思をどう引き出すかや、状況や環境によって変化する本人の意思をどう捉えるべきかは簡単な問題ではない。そのためには被後見人の生活歴や暮らしぶりなどがある程度わかっていることが重要で、地域や暮らしの視点が求められる。佐藤氏は司法書士や弁護士といった第三者の成年後見人にその役割まで求めるのは困難だと語る。
今回の見直しの議論のなかで、後見人が本人に代わって意思決定をする現行制度から被後見人の意思決定を支援するという形に180度転換することができるのか、法改正も必要だが生活支援や地域づくりこそが重要だと主張する佐藤彰一氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
前半はこちら→so43627747
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<マル激・前半>現行の成年後見制度では認知症になった人の権利を守れない/佐藤彰一氏(弁護士、全国権利擁護支援ネットワーク顧問)
成年後見制度ができて四半世紀。数々の問題が指摘されてきたこの制度に、やっと見直しの動きが出てきた。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などが理由で判断能力が低下した人の財産管理などを代理人が行う仕組みで、2000年にスタートした。成年後見人になるためには特別な資格は必要なく、家族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などがなる場合が多い。また、その報酬は基本的には被後見人となる本人が負担する。
認知症によって判断能力が衰える人が増加し、後見制度の必要性が高まる一方で、現行の制度は課題が多く利用しにくいことが指摘されてきた。今年2月に法務大臣が見直しを法制審に諮問したのを受けて、今月から審議が始まる。
成年後見制度は、明治時代から続いてきた民法の禁治産制度を改正して2000年に始まった。禁治産は、判断能力がないとされた人に対して様々な行為を制限するもので、裁判所から禁治産者の宣告を受けると財産の管理能力がないとされ選挙権も与えられなかった。同年にスタートした介護保険が、サービスの利用を行政が措置する制度から、利用者が契約する制度と変わるのに合わせて、同様の考え方で現行の成年後見制度が作られたという経緯がある。
しかし、例えば遺産分割などで認知症の当事者に一度後見人をつけると、亡くなるまで利用をやめることができないほか、その後の介護サービスの利用などについても後見人の判断が求められるなど、非常に煩雑で使い勝手が悪い制度となっていた。
さらに、成年後見人には包括的な取消権、代理権が与えられ、被後見人の意思がまったく考慮されなくなる問題も指摘されていた。一昨年、国連は、障害者権利委員会の総括所見として「意思決定を代行する制度を廃止する」観点から民法の改正を日本政府に勧告している。
弁護士で2月まで全国権利擁護支援ネットワークの代表を務めていた佐藤彰一氏は、判断能力の有無を他者が決めることができないという理由から、判断能力がないことを前提とするのではなく、「能力存在推定」を前提に被後見人の意思決定を支援する制度を考えるべきだと主張する。
そのためには、被後見人の意思決定をどう支援するかが重要となる。しかし、本人の意思をどう引き出すかや、状況や環境によって変化する本人の意思をどう捉えるべきかは簡単な問題ではない。そのためには被後見人の生活歴や暮らしぶりなどがある程度わかっていることが重要で、地域や暮らしの視点が求められる。佐藤氏は司法書士や弁護士といった第三者の成年後見人にその役割まで求めるのは困難だと語る。
今回の見直しの議論のなかで、後見人が本人に代わって意思決定をする現行制度から被後見人の意思決定を支援するという形に180度転換することができるのか、法改正も必要だが生活支援や地域づくりこそが重要だと主張する佐藤彰一氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
後半はこちら→so43627749
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<マル激・後半>5金スペシャル・急激すぎる経済成長が韓国にもたらした超競争社会と超少子化から日本が学ぶべきこと/金明中氏(ニッセイ基礎研究所上席研究員)
月の5回目の金曜日に特別企画を無料でお届けする5金スペシャル。今回の5金は通常の番組編成で、韓国の社会問題に詳しい金明中(キム ミョンジュン)氏をゲストに迎え、超のつく低出生率が世界に衝撃を与えている韓国社会に今、何が起きているのか、その背景にある過剰な競争社会はどのように形成されたのかなどについて議論した。
韓国の昨年の出生率は0.72。1人の女性が生涯に産む子どもの平均的な人数である合計特殊出生率は2.07で人口が維持されるとされる。出生率1.26の日本でも少子化は十分に待ったなしの危機的状況だが、先進国の中で出生率が唯一1を下回る韓国は日本よりもさらに状況は深刻だ。
この急速な少子化の原因の1つに韓国社会の過度に熾烈な競争があると金氏は指摘する。韓国は人口と就業者の50%以上が、面積で12%に過ぎない首都圏に集中しているのだが、良い仕事を得て成功するために首都圏に集まった若者たちの間の競争は熾烈を極める。その競争環境の下で若者達は競争に打ち勝つために、結婚や出産よりもキャリアでの成功を最優先しなければならない状態に置かれている。その結果、人口の集中するソウルの出生率が0.55と、とりわけ低くなっているのだ。
競争を勝ち抜いた成功者は高い年収を得て、結婚し家庭を持ち、子どもを作ることもできるが、それは全体のほんの一握りに過ぎず、大半の負け組にはそれができない。
競争に勝ち抜くと簡単に言うが、それは並大抵のことではない。金氏によると有名大学に入るためには学校とは別に多くの塾に通わなければならない。中には月に30万円以上もかけて、ありとあらゆる塾に通い、さらに少しでも内申書の内容をよくするために、深夜に水泳教室に通ったり、資格を取得するための塾に通っている人も多いのだという。こうなると、子どもを産んで育て、競争に勝ち抜くための費用を負担できる家庭は限られてくる。今や韓国では良い企業に就職できなければ結婚・出産はできないという感覚が社会の共通認識になっていると金氏は言う。これでは出生率が下がり続けるのも無理はない。
しかし、なぜ韓国はそのような状況に陥ってしまったのか。金氏は韓国の経済成長の過程に原因の少なくとも一端があると指摘する。韓国の戦後の発展は「圧縮成長」と言われるほど、日本の高度経済成長よりも更に短期間に急速な経済成長を実現した。金氏は、韓国が経済に力を入れすぎた結果、社会保障や福祉の整備がそれに追いつかず、それが結果的に格差を生む原因となっていると指摘する。加えて韓国は1997年のアジア通貨危機の際に経済破綻をきたしIMFからの支援を受けざるを得なくなった。IMFへの債務を返済するまでは事実上韓国は経済主権を失った状態にあり、その間、開発経済の世界では批判の多いIMF・世銀の構造調整プログラム(SAP)の下で、極度に新自由主義的な経済・社会的制度の改革を強いられた。
その結果、韓国は先進国でも希にみるような格差社会へと変質してしまった。韓国の相対的貧困率、とりわけ年金が未整備の時代に働き、韓国の経済成長を支えた高齢者の貧困率は約4割とOECDでは最も高い水準にある。
格差社会の現実を目の当たりにして、韓国では何とか勝ち組になろうと、誰もが必死で高学歴を得ようとする。韓国の大学進学率は7割を超え、日本の57.7%を遥かに凌ぐ。そしてその大学生たちは誰もが狭き門の大企業を目指すのだ。日本でも中小企業の生産性や賃金の低さが問題視されているが、韓国ではほんの一握りの大企業と中小企業の間の賃金や労働条件の格差が非常に大きい。そのため、若者たちは何とか大企業に入りたいがために、まずは有名大学に入った上で資格やTOEICのスコアを上げるなどのスペックを上げることに血眼になるのだという。
さらに韓国では貧困の固定化も問題となっている。以前は自分が頑張れば上に上がれる社会だと言われた。しかし今は生まれた家庭によって生活水準が固定化されている。有名大学に入るためには塾などで莫大な教育費がかかるため、裕福な家庭でなければ競争に勝ち抜くための教育を受けることが難しくなっているというのだ。
平均賃金で日本を抜き去り、1人当たりGDPでも間もなく日本を抜き去りそうな勢いで成長を続けながら、極度の少子化に直面する韓国が内包している深刻な矛盾とはどのようなものなのか。韓国ではなぜここまで競争が激しくなってしまったのか。過度に急激な経済成長が韓国にもたらした諸問題を、ある面では共通し、ある面では異なる問題を抱える日本に住むわれわれはどう考えるべきかなどについて、ニッセイ基礎研究所上席研究員の金明中氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43596830
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<マル激・前半>5金スペシャル・急激すぎる経済成長が韓国にもたらした超競争社会と超少子化から日本が学ぶべきこと/金明中氏(ニッセイ基礎研究所上席研究員)
月の5回目の金曜日に特別企画を無料でお届けする5金スペシャル。今回の5金は通常の番組編成で、韓国の社会問題に詳しい金明中(キム ミョンジュン)氏をゲストに迎え、超のつく低出生率が世界に衝撃を与えている韓国社会に今、何が起きているのか、その背景にある過剰な競争社会はどのように形成されたのかなどについて議論した。
韓国の昨年の出生率は0.72。1人の女性が生涯に産む子どもの平均的な人数である合計特殊出生率は2.07で人口が維持されるとされる。出生率1.26の日本でも少子化は十分に待ったなしの危機的状況だが、先進国の中で出生率が唯一1を下回る韓国は日本よりもさらに状況は深刻だ。
この急速な少子化の原因の1つに韓国社会の過度に熾烈な競争があると金氏は指摘する。韓国は人口と就業者の50%以上が、面積で12%に過ぎない首都圏に集中しているのだが、良い仕事を得て成功するために首都圏に集まった若者たちの間の競争は熾烈を極める。その競争環境の下で若者達は競争に打ち勝つために、結婚や出産よりもキャリアでの成功を最優先しなければならない状態に置かれている。その結果、人口の集中するソウルの出生率が0.55と、とりわけ低くなっているのだ。
競争を勝ち抜いた成功者は高い年収を得て、結婚し家庭を持ち、子どもを作ることもできるが、それは全体のほんの一握りに過ぎず、大半の負け組にはそれができない。
競争に勝ち抜くと簡単に言うが、それは並大抵のことではない。金氏によると有名大学に入るためには学校とは別に多くの塾に通わなければならない。中には月に30万円以上もかけて、ありとあらゆる塾に通い、さらに少しでも内申書の内容をよくするために、深夜に水泳教室に通ったり、資格を取得するための塾に通っている人も多いのだという。こうなると、子どもを産んで育て、競争に勝ち抜くための費用を負担できる家庭は限られてくる。今や韓国では良い企業に就職できなければ結婚・出産はできないという感覚が社会の共通認識になっていると金氏は言う。これでは出生率が下がり続けるのも無理はない。
しかし、なぜ韓国はそのような状況に陥ってしまったのか。金氏は韓国の経済成長の過程に原因の少なくとも一端があると指摘する。韓国の戦後の発展は「圧縮成長」と言われるほど、日本の高度経済成長よりも更に短期間に急速な経済成長を実現した。金氏は、韓国が経済に力を入れすぎた結果、社会保障や福祉の整備がそれに追いつかず、それが結果的に格差を生む原因となっていると指摘する。加えて韓国は1997年のアジア通貨危機の際に経済破綻をきたしIMFからの支援を受けざるを得なくなった。IMFへの債務を返済するまでは事実上韓国は経済主権を失った状態にあり、その間、開発経済の世界では批判の多いIMF・世銀の構造調整プログラム(SAP)の下で、極度に新自由主義的な経済・社会的制度の改革を強いられた。
その結果、韓国は先進国でも希にみるような格差社会へと変質してしまった。韓国の相対的貧困率、とりわけ年金が未整備の時代に働き、韓国の経済成長を支えた高齢者の貧困率は約4割とOECDでは最も高い水準にある。
格差社会の現実を目の当たりにして、韓国では何とか勝ち組になろうと、誰もが必死で高学歴を得ようとする。韓国の大学進学率は7割を超え、日本の57.7%を遥かに凌ぐ。そしてその大学生たちは誰もが狭き門の大企業を目指すのだ。日本でも中小企業の生産性や賃金の低さが問題視されているが、韓国ではほんの一握りの大企業と中小企業の間の賃金や労働条件の格差が非常に大きい。そのため、若者たちは何とか大企業に入りたいがために、まずは有名大学に入った上で資格やTOEICのスコアを上げるなどのスペックを上げることに血眼になるのだという。
さらに韓国では貧困の固定化も問題となっている。以前は自分が頑張れば上に上がれる社会だと言われた。しかし今は生まれた家庭によって生活水準が固定化されている。有名大学に入るためには塾などで莫大な教育費がかかるため、裕福な家庭でなければ競争に勝ち抜くための教育を受けることが難しくなっているというのだ。
平均賃金で日本を抜き去り、1人当たりGDPでも間もなく日本を抜き去りそうな勢いで成長を続けながら、極度の少子化に直面する韓国が内包している深刻な矛盾とはどのようなものなのか。韓国ではなぜここまで競争が激しくなってしまったのか。過度に急激な経済成長が韓国にもたらした諸問題を、ある面では共通し、ある面では異なる問題を抱える日本に住むわれわれはどう考えるべきかなどについて、ニッセイ基礎研究所上席研究員の金明中氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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<マル激・後半>いまや国民病となった花粉症が鳴らす人類への警鐘とわれわれはいかに向き合うか/小塩海平氏(東京農業大学国際食料情報学部教授)
スギ花粉の飛散がピークを迎える3月上旬から中旬にかけて、日本では花粉症もピークを迎えている。多くの日本人がこの時期になると、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状に苦しんでいる。国民の5割近くを毎年苦しめる花粉症は、もはや日本の国民病といっても過言ではないだろう。
しかも、パナソニックの試算によると、花粉症による労働力低下の経済的損失の総額は1日あたり約2,340億円にのぼるという。花粉が飛ぶシーズンが約2カ月続くことを考えると、日本では花粉症のせいで毎年10兆円を超える損失が生じていることになる。これは国家予算の約1割にのぼる規模だ。
花粉症の原因となる植物としてはスギ、ヒノキ、ブタクサなど様々な種類があるが、日本人の花粉症の多くはスギ花粉によるものだ。戦争によって荒れ果てた日本の山林の復興を急いでいた政府や地方自治体は、戦後急増した住宅需要に対応するために植林事業に着手。その多くで成長が早いスギが選ばれたが、この時点ではまさか将来、これが花粉症の温床になるとはまったく考えられていなかった。実際、日本で花粉症が初めて確認されたのは1960年代に入ってからで、一般社会にその言葉が浸透したのは1980年代以降のことだ。
日本では1950年代から1970年代にかけて毎年30万ヘクタールを超える植林が行われたが、その大半はスギだった。しかし70年代、海外からの安価な輸入建材が入るようになり国産木材の需要が減ると、大量に植えられたスギは、間伐も伐採も行われないまま放置されるようになった。日本のいたるところで細長いスギの木が密生した放置林が散見されるのはこのためだ。
『花粉症と人類』の著者で、スギ花粉の飛散を抑制するための先駆的な研究を行っている東京農業大学の小塩海平教授は、花粉症とは単に医学的な問題ではなく、自然に対する行き過ぎた働きかけの結果、生態系がバランスを崩し、ある特定の植物が過剰に繁茂した結果生じている社会的、政治・経済的な問題だと指摘する。イギリスでは巨大な肉食の需要に応えるために農地開拓、とりわけ牧草地が急増した結果、夏場になるとヘイ・フィーバーと呼ばれる牧草の花粉症が全国的に発生するようになった。アメリカでは、西部開拓に伴い裸地や空き地が増えるとブタクサが繁茂し、深刻な花粉症を招いた。スギ花粉症が全国的に発生する日本の場合は、スギに偏った過度な植林とその後の管理不足が原因だった。このように花粉症は、多分に人災としての側面を持つ。
林野庁は花粉症の発生源対策として「3つの斧」というものを掲げている。それは「伐採して利用する」、「無花粉スギなどに植え替える」、「花粉を出させない」の3つだ。しかし、日本には現在約440万ヘクタールのスギ林があり、日本の林業従事者は4.4万人なので、1人あたり100ヘクタールのスギを伐採しなければならないことになる。ちなみに100メートル四方を意味する1へクタールには約900本のスギが植わっているため、計算上は花粉を出すタイプのスギを全て植え替えるためには軽く見積もっても100年以上の年月が必要になる。しかも、高さが10m以上の木を切るには5万円程度かかるのに対し、それを売っても1本3000円ほどにしかならない。スギを切れば切るほど損失が出ることになる。しかもそんな状態だから、林業従事者は年々減少を続け、高齢化も進んでいる。3つの斧のうちの1番目の「伐採して利用する」や2番目の「無花粉スギなどに植え替える」だけでは、とてもではないが今後更に悪化することが予想される花粉症の猛威には到底、太刀打ちできない。
そこで小塩氏は今、スギを植え替えることなく花粉を出させなくする技術の開発に乗り出した。まだ試験段階ではあるが、既に一定の成果を収めているという。スギの花粉は雄花から発生しているが、特定の物質をスギにかけると雄花が枯れ花粉が作れなくなるという性質を持つことが分かっている。これを利用すれば、スギの木自体を枯らすことなく、花粉の飛散だけを抑え込むことが可能になる。
小塩氏が色々な薬剤を試す中で、ある日サラダ油を試してみたところ、雄花だけが枯れてとても高い効果が見られた。とは言え、サラダ油を大量に撒けば水質汚染などにつながるので、サラダ油の中のどの成分が効果を上げているかを更に研究したところ、オレイン酸が含まれる分解性のある界面活性剤に行き着いた。小塩氏は天然油脂由来の界面活性剤をスクリーニングしてパルカットというスギ花粉飛散防止薬を開発し、それが2016年には農薬として登録された。オレイン酸は食品だが、大量に散布するためには農薬としての認可を得る必要があったからだ。
ただしこれをヘリコプターで撒くには膨大な予算が必要で、現在の林野庁の予算ではとてもではないが、実効性のある施策とはならない。年間10兆円は超えようかという経済的損失をもたらしている花粉症に対処するためには、林業を管轄する林野庁だけでなく経産省や厚労省、国交省や、はたまた受験生の負担軽減につながるという理由で文科省までを巻き込んで、省庁横断的に予算を確保すべきだと小塩氏は言う。
そもそも花粉症とは何なのか、なぜ花粉症は貴族病や文明病と呼ばれるのか、スギ花粉症は環境や生態バランスを置き去りにもっぱら経済成長を追い求めた日本にどのような警告を鳴らしているのかなどについて、小塩海平氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43531953
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>いまや国民病となった花粉症が鳴らす人類への警鐘とわれわれはいかに向き合うか/小塩海平氏(東京農業大学国際食料情報学部教授)
スギ花粉の飛散がピークを迎える3月上旬から中旬にかけて、日本では花粉症もピークを迎えている。多くの日本人がこの時期になると、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなどの症状に苦しんでいる。国民の5割近くを毎年苦しめる花粉症は、もはや日本の国民病といっても過言ではないだろう。
しかも、パナソニックの試算によると、花粉症による労働力低下の経済的損失の総額は1日あたり約2,340億円にのぼるという。花粉が飛ぶシーズンが約2カ月続くことを考えると、日本では花粉症のせいで毎年10兆円を超える損失が生じていることになる。これは国家予算の約1割にのぼる規模だ。
花粉症の原因となる植物としてはスギ、ヒノキ、ブタクサなど様々な種類があるが、日本人の花粉症の多くはスギ花粉によるものだ。戦争によって荒れ果てた日本の山林の復興を急いでいた政府や地方自治体は、戦後急増した住宅需要に対応するために植林事業に着手。その多くで成長が早いスギが選ばれたが、この時点ではまさか将来、これが花粉症の温床になるとはまったく考えられていなかった。実際、日本で花粉症が初めて確認されたのは1960年代に入ってからで、一般社会にその言葉が浸透したのは1980年代以降のことだ。
日本では1950年代から1970年代にかけて毎年30万ヘクタールを超える植林が行われたが、その大半はスギだった。しかし70年代、海外からの安価な輸入建材が入るようになり国産木材の需要が減ると、大量に植えられたスギは、間伐も伐採も行われないまま放置されるようになった。日本のいたるところで細長いスギの木が密生した放置林が散見されるのはこのためだ。
『花粉症と人類』の著者で、スギ花粉の飛散を抑制するための先駆的な研究を行っている東京農業大学の小塩海平教授は、花粉症とは単に医学的な問題ではなく、自然に対する行き過ぎた働きかけの結果、生態系がバランスを崩し、ある特定の植物が過剰に繁茂した結果生じている社会的、政治・経済的な問題だと指摘する。イギリスでは巨大な肉食の需要に応えるために農地開拓、とりわけ牧草地が急増した結果、夏場になるとヘイ・フィーバーと呼ばれる牧草の花粉症が全国的に発生するようになった。アメリカでは、西部開拓に伴い裸地や空き地が増えるとブタクサが繁茂し、深刻な花粉症を招いた。スギ花粉症が全国的に発生する日本の場合は、スギに偏った過度な植林とその後の管理不足が原因だった。このように花粉症は、多分に人災としての側面を持つ。
林野庁は花粉症の発生源対策として「3つの斧」というものを掲げている。それは「伐採して利用する」、「無花粉スギなどに植え替える」、「花粉を出させない」の3つだ。しかし、日本には現在約440万ヘクタールのスギ林があり、日本の林業従事者は4.4万人なので、1人あたり100ヘクタールのスギを伐採しなければならないことになる。ちなみに100メートル四方を意味する1へクタールには約900本のスギが植わっているため、計算上は花粉を出すタイプのスギを全て植え替えるためには軽く見積もっても100年以上の年月が必要になる。しかも、高さが10m以上の木を切るには5万円程度かかるのに対し、それを売っても1本3000円ほどにしかならない。スギを切れば切るほど損失が出ることになる。しかもそんな状態だから、林業従事者は年々減少を続け、高齢化も進んでいる。3つの斧のうちの1番目の「伐採して利用する」や2番目の「無花粉スギなどに植え替える」だけでは、とてもではないが今後更に悪化することが予想される花粉症の猛威には到底、太刀打ちできない。
そこで小塩氏は今、スギを植え替えることなく花粉を出させなくする技術の開発に乗り出した。まだ試験段階ではあるが、既に一定の成果を収めているという。スギの花粉は雄花から発生しているが、特定の物質をスギにかけると雄花が枯れ花粉が作れなくなるという性質を持つことが分かっている。これを利用すれば、スギの木自体を枯らすことなく、花粉の飛散だけを抑え込むことが可能になる。
小塩氏が色々な薬剤を試す中で、ある日サラダ油を試してみたところ、雄花だけが枯れてとても高い効果が見られた。とは言え、サラダ油を大量に撒けば水質汚染などにつながるので、サラダ油の中のどの成分が効果を上げているかを更に研究したところ、オレイン酸が含まれる分解性のある界面活性剤に行き着いた。小塩氏は天然油脂由来の界面活性剤をスクリーニングしてパルカットというスギ花粉飛散防止薬を開発し、それが2016年には農薬として登録された。オレイン酸は食品だが、大量に散布するためには農薬としての認可を得る必要があったからだ。
ただしこれをヘリコプターで撒くには膨大な予算が必要で、現在の林野庁の予算ではとてもではないが、実効性のある施策とはならない。年間10兆円は超えようかという経済的損失をもたらしている花粉症に対処するためには、林業を管轄する林野庁だけでなく経産省や厚労省、国交省や、はたまた受験生の負担軽減につながるという理由で文科省までを巻き込んで、省庁横断的に予算を確保すべきだと小塩氏は言う。
そもそも花粉症とは何なのか、なぜ花粉症は貴族病や文明病と呼ばれるのか、スギ花粉症は環境や生態バランスを置き去りにもっぱら経済成長を追い求めた日本にどのような警告を鳴らしているのかなどについて、小塩海平氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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<マル激・後半>被災者を置き去りにした「復興災害」を繰り返さないために/山下祐介氏(東京都立大学人文社会学部教授)
東日本大震災からこの3月で13年が経つが、被災地では今、「復興災害」とも呼ぶべき課題が表面化している。
確かに、高台移転した土地が整備されたり、津波から町を護るための防潮堤が作られるなど、一見復興は順調に進んでいるかのように見える。また、復興の過程で生活を再建できた人たちも多くいる。しかし、巨額の予算をかけて高台に造られた住宅地にはいまだ空き地が広がり、海を見ることができない巨大な防潮堤は人々から震災前の暮らしを奪っている。
何より問題なのは、復興計画に被災当事者の思いが込められていないことだ。復興計画の基本方針の中には必ずといっていいほど「被災者の声を聞く」という文言が含まれているが、実際それは形だけで自分たちの意見に耳を傾けてもらえていないと感じる被災者は多い。結果的に、復興計画は失敗だったと語る被災者もいる。
他の公共事業と同様に、大規模な復興計画は一度動き出したら止めることができない。目の前で進む大規模事業を目の当たりにして、自分たちが復興の過程から排除されたと感じる被災者も多い。
災害大国の日本では、これからも大規模な災害が続くことが避けられない。当事者を排除しない復興の在り方はどうあるべきかを今、考えておかないと、能登半島地震の復興でも、またその後の災害復興でも、同じ過ちを繰り返すことになりかねない。
宮城県石巻市雄勝町では、震災前に約4,000人いた住民が1,000人しか戻ってきていない。市の雄勝支所が主導し県が協力に推し進めた高台移転と巨大防潮堤建設という復興の方針に賛同できない住民は、早々に町外に移転せざるを得なかった。津波で18時間漂流した経験を持つ、雄勝町出身の阿部晃成氏は、「震災後に雄勝を離れた人は雄勝町民と見なされなくなり、復興の当事者ではないとされた」と語る。
巨大防潮堤は国を挙げての復興政策だった。2011年4月に発足した復興構想会議では、逃げる防災・減災という考え方が原則とされたが、同時期に始まった内閣府の中央防災会議での議論は、同じ被害を二度と起こさないためにハード面をどう整備するかが議題となった。安心・安全をどう実現するかが議論の中心となり、ひとびとの暮らしや生業といった話は置き去りになった。東京都立大学教授の山下祐介氏は、国策としての巨大防潮堤や高台移転にNOを突きつけることは、津波で甚大な被害を受けた多くの市町村にはとてもできないことだったと言う。そして、それに納得できない被災者がひとたび地域を離れれば、その被災者は復興の当事者と見なされなくなってしまったのだ。
一方、同じ宮城県でも雄勝町とは異なる経緯を辿った地域もある。気仙沼市本吉町大谷地区も当初は町のシンボルでもあった砂浜を全て埋める巨大防潮堤の計画を示された。津波で多くの犠牲者を出したこの町でも被災者の意見は分かれた。しかし住民たちは、防潮堤に対する賛否をいったん横に置き、まずは住民の意見の尊重と計画の一時停止を求める署名を行った。その後、何度も繰り返し話し合いを続けた末に、最終的には計画変更が実現した。砂浜は守られ、国道をかさ上げして防潮堤を兼ねることで陸側のどこからでも海が見える形となった。
大谷里海づくり検討委員会の事務局長として当時、住民や行政との調整を中心になって進めた三浦友幸氏は、「行政の当初の計画に対して住民が具体的な対案を出すまでにはかなり時間がかかった」と、行政が提示した復興案に歯向かうことがどれほど大変だったかを語る。
一口に被災者といっても意見は多様だ。東日本大震災の被災当事者たちは、復興のためにそれぞれにまちづくりの会を作り、議論を重ね、声をあげていた。被災地に入った多くの専門家たちもそれを支援したはずだった。それでも巨額な予算と安全な国土を望む声と復興を急かす世論などに押され、一度動き出した計画は個別の被災者の思いなど受け入れる余地もないまま進んでいった。
能登半島地震から2カ月が経ち、いまだ1万7,000戸で断水が続く中、一刻も早いインフラ復旧が最優先であることは言うまでもない。しかし、避難が長期化し、住民が物理的にばらばらにならざるを得ない中で、山下氏はこのままでは再び被災者が望む形の復興につながらないことを危惧する。さらに山下氏は石川県の復興対策本部が示した「創造的復興」という言葉にも疑問を呈す。復興の過程でこれまであった課題解決も図ろうとするこの考え方の背景には、過疎地は問題だらけなので切り捨てた方が良いといった発想が見て取れると山下氏は指摘する。被災地の人口減少や高齢化と、復興は本来は直接関係ないはずだ。
東日本大震災の被災当事者のインタビューも含め、能登半島地震の復興では同じことを繰り返さないためには何が必要なのかについて、『限界集落の真実』の著者でもあり過疎地の問題に詳しい東京都立大学教授の山下祐介氏と、ジャーナリストの迫田朋子、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43503179
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<マル激・前半>被災者を置き去りにした「復興災害」を繰り返さないために/山下祐介氏(東京都立大学人文社会学部教授)
東日本大震災からこの3月で13年が経つが、被災地では今、「復興災害」とも呼ぶべき課題が表面化している。
確かに、高台移転した土地が整備されたり、津波から町を護るための防潮堤が作られるなど、一見復興は順調に進んでいるかのように見える。また、復興の過程で生活を再建できた人たちも多くいる。しかし、巨額の予算をかけて高台に造られた住宅地にはいまだ空き地が広がり、海を見ることができない巨大な防潮堤は人々から震災前の暮らしを奪っている。
何より問題なのは、復興計画に被災当事者の思いが込められていないことだ。復興計画の基本方針の中には必ずといっていいほど「被災者の声を聞く」という文言が含まれているが、実際それは形だけで自分たちの意見に耳を傾けてもらえていないと感じる被災者は多い。結果的に、復興計画は失敗だったと語る被災者もいる。
他の公共事業と同様に、大規模な復興計画は一度動き出したら止めることができない。目の前で進む大規模事業を目の当たりにして、自分たちが復興の過程から排除されたと感じる被災者も多い。
災害大国の日本では、これからも大規模な災害が続くことが避けられない。当事者を排除しない復興の在り方はどうあるべきかを今、考えておかないと、能登半島地震の復興でも、またその後の災害復興でも、同じ過ちを繰り返すことになりかねない。
宮城県石巻市雄勝町では、震災前に約4,000人いた住民が1,000人しか戻ってきていない。市の雄勝支所が主導し県が協力に推し進めた高台移転と巨大防潮堤建設という復興の方針に賛同できない住民は、早々に町外に移転せざるを得なかった。津波で18時間漂流した経験を持つ、雄勝町出身の阿部晃成氏は、「震災後に雄勝を離れた人は雄勝町民と見なされなくなり、復興の当事者ではないとされた」と語る。
巨大防潮堤は国を挙げての復興政策だった。2011年4月に発足した復興構想会議では、逃げる防災・減災という考え方が原則とされたが、同時期に始まった内閣府の中央防災会議での議論は、同じ被害を二度と起こさないためにハード面をどう整備するかが議題となった。安心・安全をどう実現するかが議論の中心となり、ひとびとの暮らしや生業といった話は置き去りになった。東京都立大学教授の山下祐介氏は、国策としての巨大防潮堤や高台移転にNOを突きつけることは、津波で甚大な被害を受けた多くの市町村にはとてもできないことだったと言う。そして、それに納得できない被災者がひとたび地域を離れれば、その被災者は復興の当事者と見なされなくなってしまったのだ。
一方、同じ宮城県でも雄勝町とは異なる経緯を辿った地域もある。気仙沼市本吉町大谷地区も当初は町のシンボルでもあった砂浜を全て埋める巨大防潮堤の計画を示された。津波で多くの犠牲者を出したこの町でも被災者の意見は分かれた。しかし住民たちは、防潮堤に対する賛否をいったん横に置き、まずは住民の意見の尊重と計画の一時停止を求める署名を行った。その後、何度も繰り返し話し合いを続けた末に、最終的には計画変更が実現した。砂浜は守られ、国道をかさ上げして防潮堤を兼ねることで陸側のどこからでも海が見える形となった。
大谷里海づくり検討委員会の事務局長として当時、住民や行政との調整を中心になって進めた三浦友幸氏は、「行政の当初の計画に対して住民が具体的な対案を出すまでにはかなり時間がかかった」と、行政が提示した復興案に歯向かうことがどれほど大変だったかを語る。
一口に被災者といっても意見は多様だ。東日本大震災の被災当事者たちは、復興のためにそれぞれにまちづくりの会を作り、議論を重ね、声をあげていた。被災地に入った多くの専門家たちもそれを支援したはずだった。それでも巨額な予算と安全な国土を望む声と復興を急かす世論などに押され、一度動き出した計画は個別の被災者の思いなど受け入れる余地もないまま進んでいった。
能登半島地震から2カ月が経ち、いまだ1万7,000戸で断水が続く中、一刻も早いインフラ復旧が最優先であることは言うまでもない。しかし、避難が長期化し、住民が物理的にばらばらにならざるを得ない中で、山下氏はこのままでは再び被災者が望む形の復興につながらないことを危惧する。さらに山下氏は石川県の復興対策本部が示した「創造的復興」という言葉にも疑問を呈す。復興の過程でこれまであった課題解決も図ろうとするこの考え方の背景には、過疎地は問題だらけなので切り捨てた方が良いといった発想が見て取れると山下氏は指摘する。被災地の人口減少や高齢化と、復興は本来は直接関係ないはずだ。
東日本大震災の被災当事者のインタビューも含め、能登半島地震の復興では同じことを繰り返さないためには何が必要なのかについて、『限界集落の真実』の著者でもあり過疎地の問題に詳しい東京都立大学教授の山下祐介氏と、ジャーナリストの迫田朋子、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43503183
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<マル激・後半>5金スペシャル・壊れゆく日本を生き抜くためにはホームベースが必要だ
その月の5回目の金曜日に特別企画をお送りする5金スペシャル。今回は12月17日に東京・大井町「きゅりあん」で行われた「年末恒例マル激ライブ」の模様を無料放送する。
今回のマル激ライブでは、パーティ券裏金問題を入口に、もはや日本の政治や経済、社会の底が抜けているのは明らかなのだから、日本という沈みゆく船の中で他の人たちを踏み台にしながら少しでも上に行こうとするのではなく、この船がこれ以上沈まないように何をすればいいか、そして日本を再浮上させるために自分たちに何ができるかを一緒に考えていこうではないかという議論をした。
目下、永田町を揺るがしているパーティ券裏金問題では、メディアは相変わらず検察のリーク情報を垂れ流すことで、裏金をもらっていた政治家の名前や大物政治家の逮捕はあるのかといったワイドショー仕立ての人間ドラマに世間の耳目を集めようとしている。しかし、そもそもこの問題は、パーティ券の購入を通じた派閥や政治家への寄付が、本来は20年以上も前に禁止されていたはずの企業・団体献金の抜け穴になっている点、つまり裏金ではなく表金の方により重大な問題がある。
パーティ券の購入を通じて今も事実上、億単位の企業献金が可能となっており、それが日本が過去30年にわたり有効な経済政策や産業構造や社会構造の改革を実行することができなかったことと決して無関係ではないことを、われわれは今あたらめて再確認する必要があるだろう。日本では多額のパーティ券購入という寄付によって、ビジネスモデルが陳腐化し本来であれば退場すべき生産性の低い企業や業界の利益が手厚く保護され続けてきた。逆に言えば、それがなければ本来は営利団体である企業や業界の利益を代表する業界団体が、自民党やその派閥や有力政治家に億単位の寄付を行う理由などないのだ。
結果的に1995年に1人当たりGDPで主要先進国で1位まで登りつめ、文字通り経済大国となった日本は、その後30年間、停滞に次ぐ停滞を続け、遂にはG7の最下位はおろか、今や先進国の地位からも転げ落ちようかというところまで堕ちている。本来であれば人口減少を相殺するペースで生産性を上げていかなければ経済が縮小してしまうことが自明であったにもかかわらず、先進国では日本だけが陳腐化した非効率な産業構造や人口ボーナスがあった頃の高度経済成長時代の社会構造を引きずりつづけ、30年もの長きにわたり経済成長も賃金の上昇も実現できなかった。その一方で、人口減少の原因である少子化対策も、何ら有効な手を打てていない。
ここまで沈みかけた日本という大きな船を修理し、それを再浮上させるのは容易なことではない。しかし、幸か不幸か、たまたまこのような局面で生きる希有な運命を背負った今を生きる日本人にとって、船の中で少しでもいい座席を取ろうと奮闘することが、本当に有意義な生き方と言えるだろうか。日本という国を、せめてもう少し展望を持てる国にした上で、次の世代にバトンタッチする方がよくないだろうか。
しかし、1人では長くは戦えない。戦うためには仲間が必要だ。また、発進基地であり、帰還基地となるホームベースも必要だ。いつでも帰れると思える信頼できる仲間がいてホームベースがあればこそ、ホームベースの外で存分に闘うことができる。高度経済成長期に農村共同体に取って代わる形で登場した企業共同体は、小泉改革以降の数々の新自由主義的政策によって正規と非正規労働者に分断され、もはや崩壊状態にある。結果的に大半の日本人が何の共同体にも属さない、つまりホームベースを持たない中で日々暮らしている。教会やチャリティなどの地域の共同体が伝統的に存在しない日本では、個々人が能動的に共同体を作り、自らそこに参加しようとしなければ、ホームベースを持つことはできない。しかし、自分さえその気になれば、それは十分に可能だ。
2023年最後となるマル激では、なぜ日本が壊れ続けているのか、どうすればこの沈没を反転できるか、壊れゆく社会をいかに生き抜くかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43210941
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<マル激・後半>5金スペシャル映画特集+α ・ジャニーズを「サンクチュアリ」(聖域)化し、ジャニー喜多川を「怪物」にしたものとは/松谷創一郞氏(ジャーナリスト)
その月の5回目の金曜日に特別企画を無料でお送りする5金スペシャル。
3月以来3ヶ月ぶりとなる今回は、映画や芸能に詳しいジャーナリストの松谷創一郞氏をゲストに招き、5金恒例となった映画特集とジャニーズ性加害問題のダブルタイトルをお送りする。
取り上げる映画はずばり、現在ネットフリックスで配信中の『サンクチュアリ-聖域-』とカンヌでも話題となった是枝作品『怪物』の2つ。そして、それと同時に、ジャニーズ事務所の性加害問題とその背景にある日本の芸能界やスポーツ界に蔓延る人権無視の前時代的な風土とそれに平然と乗っかって商売をし続けるメディアの責任などを議論した。
BBCのドキュメンタリーをきっかけに表面化したジャニーズ事務所の性加害問題は、元ジャニーズ事務所社長の故ジャニー喜多川氏(本名・喜多川擴=2019年7月9日死去)が長年にわたりデビュー前の所属レッスン生(ジャニーズジュニア)に性的行為を繰り返していたというもの。本人が亡くなっていることもあり、また事件の内容から被害者にとっても被害を名乗り出ることに相当なリスクが伴うことから、未だ全貌は明らかになっていないが、被害者は数百人単位にのぼるともいわれ、しかもその大半が未成年だったという、前代未聞のセクハラ事件だ。
それにしてもなぜジャニーズ事務所が芸能界の中で「最大手にして異端」(松谷氏)という特異な地位を維持し、その中でジャニー氏による性加害が何十年にもわたり放置されてきたのだろうか。ジャニー氏によるセクハラ行為の噂はかなり以前から芸能界はもとよりその外にも漏れ伝わっており、ジャニーズ事務所と週刊文春との間で争われた名誉毀損裁判では、2004年に最高裁までがジャニー氏による性加害報道の「真実性」を認定していた。
松谷氏はジャニーズ事務所は時にはタレント引き上げや共演NGなどの間接的手法を使い、また時にはジャニー氏の姉でジャニーズ事務所名誉会長だった故メリー喜多川氏(本名・藤島メリー泰子=2021年8月14日死去)による強権的な手法を使ってメディアに圧力をかけることにより、ジャニーズ事務所を退所したタレントが芸能活動を継続することが困難になるような状況を作り出していたと指摘する。実際、2016年のSMAPの解散・独立騒ぎの後、ジャニーズ事務所を退所した香取慎吾、草彅剛、稲垣吾郎の3人は、それまで毎日のように出ていたテレビへの出演がぱったりなくなっていた。これは最終的には2019年にジャニーズ事務所が公正取引委員会から注意を受けている。
実はジャニーズ事務所は単に事務所を退所したタレントに対してだけでなく、ジャニーズ所属のタレントと競合する他事務所のタレントに対しても、同様の手法を使ってメディアに圧力をかけていたという。松谷氏によると、例えば沖縄出身のダンス・ボーカルグループDA PUMPはそれが理由で長らくテレビの音楽番組には出られない状況が続いていたそうだ。
公取から注意が出されたように、事務所をやめた人間がその業界で働けなくなるように圧力をかけるような行為は品位に欠けるばかりでなく、公正な競争を阻害するとして独占禁止法にも触れる。特にジャニーズ事務所は自らの影響力をそのような形であからさまに行使してきたとみられるが、ジャニーズ事務所以外でも芸能界では事務所を抜けたタレントがその後、長らく干されるというようなことは、これまで幾度となく繰り返されてきた。時にそれは露骨な圧力であったかもしれないし、また時にそれはメディア側の忖度によるものだったかもしれないが、いずれにしても事務所をやめたらその業界にいられなくなるというような慣習が放置されれば、事務所から嫌な行為を強要されたり無理難題をふっかけられても、タレントはそれを甘受せざるを得なくなる。
いやこのような慣習は芸能界だけでなく、スポーツ界にも蔓延る。ラグビーのトップリーグではつい数年前まで、選手の引き抜きを防ぐために、所属チームの承諾なくチームを移籍した選手は新しいチームで1年間試合に出さないというカルテルが存在していたし、プロ野球界にも日本でドラフトを拒否して他国に渡った選手は日本帰国後一定期間プレーできなくする「田沢ルール」なるものが存在していた。これらはそもそも職業選択の自由を奪う制度であると同時に、いずれも公正な競争を阻害するカルテルとして他の業界では禁止された独禁法違反に問われるものだが、日本では芸能やスポーツは社会的にも特別視されていたり、メディアと業界が一体化しているためにそうした問題が十分に批判に晒されなかったりしたために、そのような前時代的な制度や慣習が当たり前のように続いていた。
結局、昨今のジャニーズ問題も、そもそも社内で絶対的な権力を持つジャニー氏の逆鱗に触れれば、タレントとしてデビューするチャンスが潰えてしまうという恐れがあり、また性加害行為を嫌悪して事務所を退所しようものなら、少なくとも日本の芸能界で生きていくことがほとんど不可能になるという状況の下で、日々被害に晒されてきた練習生たちにとっての選択肢はジャニー氏のセクハラ行為を甘受するか、もしくはタレントになる夢を諦めるかの二択だったことになる。
その意味で今回の事件はまず事実関係を明らかにすることが必要だが、その上で、加害者側のジャニーズ事務所に然るべき責任を取らせると同時に、そのような事態を招いた業界の体質などにもきちんとメスを入れ、うみを出すことが必要ではないか。
日本の芸能界を長く取材し、日本の音楽産業や映画産業が直面する課題などを指摘している松谷創一郎氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
また、番組の後半では、前半のジャニーズ問題を引き継ぐ形で、映画『怪物』と『サンクチュアリ』を取り上げ、われわれの社会が共通のプラットフォームを失ったことにより、見る者の視座によって普通の人間が怪物に見えてしまう社会の構造の変化や、法と掟の違い、掟の世界が消えることでわれわれの社会の何が変わるのかなどを議論した。
前半はこちら→so42427118
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
精神科医・益田裕介氏出演! 『<宮台真司襲撃事件>を徹底深掘りする』(2023年3月16日放送・後半有料パート)ゲスト:益田裕介、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
今回は去年11月29日に発生した<宮台真司襲撃事件>を徹底深掘りします。
報道にある通り、3月9日警視庁は容疑者死亡のまま書類送検。
これで事件は幕を閉じることになり、犯人の動機も解明されない、
つまり、事件からなんの教訓も引き出せないことになってしまいます。
だが、逆に言えば、事件が終わった今だからこそ、語れる事件の詳細があり、
宮台氏も本配信で話せることは全部話すと語ってくれていますし、
その新しい情報も加味し、精神科医・益田祐介氏とともに事件を徹底深掘りします。
容疑者を犯行に駆り立てたものは何か?
事件の再発防止に必要なことは?
ひきこもり・ロスジェネ問題と事件とのかかわりは?
宗教問題との関係は?
事件が社会に与えた影響は?
etc…。
また、視聴者からの質問にも答えます。
精神科医・益田裕介×当事者/社会学者・宮台真司×宮台ゼミ生・ダースレイダー
という布陣での事件の深掘りは必見です。
●日時:3月16日(木)21時から生配信
●ゲスト:益田裕介 (精神科医・早稲田メンタルクリニック院長)
●出演:宮台真司(社会学者) ダースレイダー(ラッパー)
●司会:ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長)
『寺山修司を通して考える、日本とは何か?』(2023年2月23日放送・前半無料パート)ゲスト:佐井大紀、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
1967年2月9日、劇作家の寺山修司が構成を担当したTBSドキュメンタリー番組『日の丸』。
街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」といった、人々が普段考えないような本質に迫る挑発的な質問を、矢継ぎ早にインタビューしていくというもの。
放送直後から抗議が殺到、閣議でも問題視された曰くつきの番組である。
「国家」とは何かを追い続けていた寺山修司が、テレビという公共の電波を使った壮大な実験が『日の丸』だった。
当時、寺山は何を考えていたのか?
なぜ、テレビのタブーに触れる『日の丸』を制作したのか?
今回の配信ではまずは寺山修司に精通している宮台真司による寺山解説・寺山深掘りを行います。
そして、今回のゲストである若干28歳のTBSテレビディレクター佐井大紀は「現代に同じ質問をしたら、果たして?」という問いを立て映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』を初監督。
寺山の意志は受け継がれ、今一度我々に問いかけてくる“日の丸”とは、“国家”とは、そして“日本”とは?の答えを佐井×宮台×ダースレイダーで語りつくす。
●日時:2月23日(木・祝)20時から生配信
●ゲスト:佐井大紀(映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』監督)
●出演:宮台真司(社会学者) ダースレイダー(ラッパー)
●司会:ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長)
◆参考映画
『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』
映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』公式サイト 2月24日(金)より角川シネマ有楽町ほか全国公開!! (hinomaru-movie.com)
宮台真司×清春 スペシャル対談!!(2023年1月28日放送・フル)
2023年最初の『ジョー横溝チャンネル』は宮台真司氏と清春氏のスペシャル対談が実現!!
去年11月末に切り付け事件に遭った宮台真司氏だが、脅威のスピードで言論活動を再開し、暴力による言論弾圧には屈しないことを行動で示した。
その行動にリスペクトを払う清春氏のリクエストで実現したこのスペシャル対談!!
宮台氏の言論弾圧に屈しない言論人・知識人としての矜持、忖度なしの発言を続けながら、ロックミュージシャンとして30年以上第一線で活躍する清春氏の表現者としての矜持が交わる今回の対談は、言論人、アーティストはもちろん、タフな時代を生き抜くためにもとにかく多くの方に観てほしい。
●日時:1月28日(土) 21時30分から生配信
●出演:宮台真司(社会学者) 清春(ミュージシャン)
●司会:ジョー横溝
高田漣氏出演! 『“ギターというモノ/ギタリストというヒト“を通して社会と人を深掘りする!』(2023年1月26日放送・後半有料パート)ゲスト:高田漣、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
高田漣氏出演! 『“ギターというモノ/ギタリストというヒト“を通して社会と人を深掘りする!』(2023年1月26日放送・前半無料パート)ゲスト:高田漣、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
高田漣氏出演! 『“ギターというモノ/ギタリストというヒト“を通して社会と人を深掘りする!』(2023年1月26日放送・前半無料パート)ゲスト:高田漣、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
ゲストは音楽家・マルチ弦楽器奏者の高田漣氏。
今回は高田漣氏の初の著書『ギターというモノ/ギタリストというヒト』を参考テキストに配信。
先ずは高田漣さんによるギターにまつわるトークがあります。
が、それだけではありません。
ギター/ギタリストを媒介にして、社会と人の深層に迫る社会学・哲学へと展開します。
ギターだけではなく、人文学にも精通する高田漣氏。
楽器も演奏する社会学者・宮台真司氏。
楽器は演奏しないが日本屈指のラッパー・ダースレイダー氏。
この3人のセッションで今まで見えなかった社会と人の深層が見えてくる!?
『ギターというモノ/ギタリストというヒト』を未読でも、ギターについて詳しくなくても
楽しみ、理解して頂ける内容になると思います。
●日時:1月26日(木)21時から生配信
●ゲスト:高田漣(音楽家・マルチ弦楽器奏者)
●出演:宮台真司(社会学者) ダースレイダー(ラッパー)
●司会:ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長)
◆参考テキスト
高田漣著『ギターというモノ/ギタリストというヒト』(DU BOOKS)
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK345
精神科医・斎藤環氏出演! 『承認欲求、自傷的自己愛…今あるあるの感情を分析・深掘りする』(2023年1月12日放送・前半無料パート)ゲスト:斎藤環、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
ゲストは番組初登場となる精神科医・斎藤環氏。
SNS時代になってさらに顕著になった「イイね!が欲しい」に代表される承認欲求。
さらに斎藤氏によれば、「自分が嫌い」「自分のことを考えるのに忙しい」
「自分には生きている価値がない」「ブサイクだから異性にモテない」というような自傷的自己愛な人も増えているそうです。
承認欲求、自傷的自己愛…といった、今あるあるの感情を分析・深掘りします。
まずは、斎藤環氏に、承認欲求、自傷的自己愛などを精神科医の立場から解説・分析をしてもらいます。
こうした精神分析に明るくない人のためにも、基本的な解説(たとえば、自己愛って何?など…)もおこないます。
さらに、斎藤環氏の近著『「自傷的自己愛」の精神分析』では、
「この社会や文化といった背景要因ゆえに誰にでもおこる状態なのです」とも書かれており、
<社会>や<文化>にも注目して人々の感情を深掘りします。
いわく、社会と人々の感情の変遷や、現在の社会的状況の分析・その社会的状況と人々の感情の関係なども深掘りしてゆく予定です。
ということは…承認欲求、自傷的自己愛な人も、<感情と社会との関係>がわかることで、さらに楽になることがたくさんあるのではないでしょうか?
自覚症状がある方だけではなく、家庭、友人、職場にそういう人がいる方にも是非観ていただきたいです。
カウンセリングの枠を超え、“自己”と“社会”を見つめなおすきっかけにもなると思います。
●日時:1月12日(木)21時から生配信
●ゲスト:斎藤環(医学博士・精神科医)
●出演:宮台真司(社会学者) ダースレイダー(ラッパー)
●司会:ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長)
■参考図書:斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析』(角川新書)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000016/
<マル激・前半>5金スペシャル・戦争とテロを乗り越えて仲間とともに生き抜くために
2022年最後となるマル激は、5回目の金曜日に特別企画を無料でお送りする5金スペシャル。今回は先週からスタジオに復帰した宮台真司とジャーナリストの神保哲生が、久しぶりの「2人マル激」で2022年を総括し2023年を展望した。
2022年はウクライナ戦争と安倍元首相の銃撃事件という、まさに「瓶のふた」が取れたような衝撃的な出来事によって規定される1年となってしまった。世界では20世紀の遺物であるかのように考えられてきた国民国家間の全面戦争が実際に起きたことで、これまでの秩序やグローバル化に対する盲信が根底から揺らぐ一方で、日本では首相退任後も日本政界の最高権力者の座にとどまり続けていた元首相が、何と手製の銃によって暗殺されてしまった。2022年はどのような年として歴史に刻まれることになるのだろうか。
ただし、ウクライナ戦争にしても、安倍元首相の暗殺にしても、それが何を意味しているかについての合意がいまだに存在しない。ウクライナ戦争はロシアの独裁者であるプーチン大統領が独断で仕掛けた戦争であることは間違いないが、だとしてもそもそも彼が何のために、これほど多くの犠牲を生んでまで戦争を続けているのかを明確に説明できる人はおそらく誰もいない。マル激でもさまざまな専門家を招き、それこそNATOの東方拡大脅威説からロシア民族主義説にいたるまで何度かその説明を試みてはみたが、どの専門家からも明確な答えは得られなかった。
安倍氏の暗殺も、その意味が十分説明されたとは言い難い。犯人の動機に統一教会に対する恨みがあったことが判明すると、社会の関心は統一教会一色に染まった。確かに多くの被害者を生み続けてきた統一教会を放置してきたことは大問題だ。しかし、最高政治権力者の暗殺という歴史的な重大事件を統一教会問題だけで終わらせてしまってはならない。安倍氏は現在の日本が丸ごと乗っかっている「安倍政治」という一つの時代を作った人物でもあり、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更など、良くも悪くも安倍氏の元で日本は大きく歴史の舵を切っている。その安倍氏が突如として亡くなったことで、今日本には権力の空白が生じている。今後、その空白に何が入ってくるのかを、われわれは細心の注意を払ってウオッチしていかなければならない。
一歩まちがえば第三次世界大戦になりかねない戦争の意味や、最高権力者が暗殺されたことの意味ですら、合意形成が難しくなっているのだ。個々の政策や社会問題でコンセンサスを築いていくことは容易ではない。しかし、だとしても今の日本には説明がつかないことが多すぎる。なぜ未だに、解雇規制によって手厚く保護された正社員と使い捨ての非正規労働者なるものが存在しているのか。日本の子育て支援や教育支援の公共支出が先進国で最低レベルのままなのはなぜか。住民税の税金の5割が返礼品と運営費に消えてしまうふるさと納税なる制度が、未だに大手を振って存在しているのはなぜなのか。ありとあらゆる不条理を抱えながらなぜ日米地位協定は一切改正できないのか。アメリカから言われたら自動的に防衛費を倍増しそれを増税で賄うのか等々。これからもわれわれが問い続けていかなければならない課題は多い。
後半はこちら→so41583846
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
宮台真司氏復帰出演!『今こそ「宮台真司」を読もう!』』(2022年12月15日放送・後半有料パート)ゲスト:西田亮介、出演:宮台真司・ダースレイダー、司会:ジョー横溝
11月29日に発生した<宮台真司切り付け事件>で宮台さんのことを知ったという方もいたそうですが、
そうではないにしても、宮台さんの著書をきちんと読んでいる方は意外に少ないのかもしれません。
そこで、今回はゲスト・西田亮介さん(宮台ゼミ卒)と出演者・ダースレイダーさん(宮台ゼミ生)に
影響を受けた宮台真司本を紹介してもらいます。
さらに、宮台さん自身により、その本で主張していた思考・思想がその後(今回の事件も含めて)どう変化したのか?(あるいは変化していないのか?)
を語ってもらいます。
宮台真司の思考をキャッチアップするのに最高の機会になると思いますし、
世界、社会を見る解像度を上げる機会になると思います。
●日時:12月15日(木)21時から生配信
●ゲスト:西田亮介(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院准教授)
●出演:宮台真司(社会学者) ダースレイダー(ラッパー)
●司会:ジョー横溝(『君ニ問フ』編集長)