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<マル激・前半>裏金が作り放題の政治資金規正法の大穴を埋めなければならない /上脇博之氏(神戸学院大学法学部教授)、郷原信郎氏(弁護士、元検事)
政界を揺るがしてきた一連の裏金疑獄は、これから最も重要な局面を迎える。そもそも不正を引き起こした法律上、制度上の原因を探り、必要となる法改正をめぐる議論が国会で始まったからだ。
今回の裏金問題は元々、神戸学院大学の上脇博之教授が赤旗の取材を受けた際に、自民党の各派閥が政治資金パーティの収入を正しく報告書に記載していないことを知り、自らも調査を発展させた上で刑事告発したことが全ての発端だった。東京地検特捜部が捜査に着手すると、単なる派閥によるパーティ券収入の不記載や虚偽記載にとどまらず、多額の裏金が議員に還流されていたことがわかり、一大スキャンダルに発展していった。
その上脇氏は、現行の政治資金規正法に基づいて政治家や派閥、政党、政治団体などが提出している政治資金収支報告書は、その中身をチェックすることがとても困難なことを、自らの経験に基づいて強調する。総数にして数百万ページはあろうかという収支報告書はウェブ上で閲覧が可能になっているが、一つ一つのページがデータ化されていないPDF形式で公開されているため、検索をかけたりソート(並び替え)などができない。驚いたことに現行制度の下では、政治資金規正法が守られているかどうかをチェックするためには、数十万から数百万ページはある報告書を一枚ずつ手繰っていくしかないのだ。
上脇氏は膨大な時間をかけて、報道などで各派閥のパーティ券を大量に買っていそうな政治団体の支出と、パーティ券を売っている派閥の収入を突き合わせることで、辛うじて4,000万円あまりの記載漏れがあることを突き止め、これが今回の刑事告発につながった。しかし、赤旗による地道な調査報道と上脇氏による刑事告発がなければ、今も当たり前のように還流や裏金作りが粛々と行われていたことになる。実際、パーティ券の売り上げの還流による裏金作りは少なくとも2005年には始まっていたことが、共同通信によって報道されている。
また、収支報告書は監督する権限を与えられた省庁や第三者機関が存在しないため、実際は報告内容が正確かどうかを誰もチェックしていない状態にあるというのも驚きだ。法律に基づいてどんな規制が設けられていようが、更にその規制をどれだけ強化しようが、最終的にそれが遵守されているかどうかを誰もチェックしていないし、したくてもそれが物理的に困難ということでは、そのような法律は法の体を成していないと言わざるを得ない。これは「ザル法」だとか「抜け穴」だとか以前の問題だ。
他にも現行の政治資金規正法に基づく制度の中で、「最低でもこれだけは変えなければならない」ことを列挙したものが、上脇氏が理事を務める公益財団法人政治資金センターとビデオニュース・ドットコムの人気番組『ディスクロージャー・アンド・ディスカバリー』の司会を務める三木由希子が理事長を務める情報公開クリアリングハウスから「政治にかかわる資金の透明性確保を求める意見書」という形で公開されているが、その内容を見ると、これまで政治資金規正法がいかにザル法だったかを痛感せずにはいられない。
その上で、政治資金の野放図な実態を熟知している上脇氏は、事実上の企業・団体献金の抜け穴となっている政治資金パーティも禁止すべきだし、政党交付金も廃止すべきだと主張する。企業・団体献金そのものには賛否両論があるが、上脇氏が問題にするのは、企業は政治資金収支報告書の提出義務がないため、受け取った派閥や政治団体側が正直にパーティ券収入を報告しない限り、その実態を知る術がないことだ。どこかの企業が記載義務が生じる20万円以上のパーティ券を買っていても、あるいは150万円の上限を超えて購入していても、受け取った側がそれを記載せずにすべて裏金に回していても誰にもわからないことになる。
また政党交付金については、そもそも政治資金の規律を全く守れない政党や政治家に100億円単位の交付金を渡すことは、「盗人に追い銭」であり「依存症患者に麻薬を渡すようなもの」に他ならないからだ。
検事時代に政治家の裏金問題を捜査した経験を持つ弁護士の郷原信郎氏は、今回有権者の期待とは裏腹に裏金を貰っていた議員の摘発が3人にとどまった理由を、「政治資金規正法の真ん中に空いた大穴のため」と説明する。複数の政治団体を持っている政治家が、裏金をどの団体に入れたのかを明確にしない限り、検察は「起訴状が書けない」という刑事訴訟法上の問題が生じる。そのため政治家が政治資金の受け皿として使える団体を一つに限定するなどの法改正が必須だと指摘する。
国会では政治資金規正法の改正案の審議が始まろうとしているが、これまで与党側が出してきた改革案はあまりにもいい加減なものばかりだ。有権者がよほどしっかりしなければ、「私たちはこれからも裏金作りに勤しみます」と宣言されているような改革案でお茶を濁されて終わってしまいかねない。
政治資金規正法はその第一条で、政治を国民の「不断の監視と批判の下」に置くことがその目的であると宣言しているが、上脇氏や郷原氏が提唱する法律の改正案はいずれもそれを実現するためには不可欠なものばかりだ。現行の法律は不断の監視はおろか、まったく監視ができない代物になっている以上、抜本的な改正が待ったなしだ。一刻も早く「金のための政治」を終わらせ、国民のために働く政治を取り戻すためには、有権者のわれわれ一人ひとりが、まずは現行制度の問題点を知ることで、デタラメな改革案に騙されないようにすることではないか。
今回の自民党裏金問題の発端となった告発をした上脇氏と、弁護士の郷原氏、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が、日本の政治に先進国として当たり前の透明性を持たせるために最低限必要となる施策とは何かを議論した。
後半はこちら→so43683908
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>裏金が作り放題の政治資金規正法の大穴を埋めなければならない /上脇博之氏(神戸学院大学法学部教授)、郷原信郎氏(弁護士、元検事)
政界を揺るがしてきた一連の裏金疑獄は、これから最も重要な局面を迎える。そもそも不正を引き起こした法律上、制度上の原因を探り、必要となる法改正をめぐる議論が国会で始まったからだ。
今回の裏金問題は元々、神戸学院大学の上脇博之教授が赤旗の取材を受けた際に、自民党の各派閥が政治資金パーティの収入を正しく報告書に記載していないことを知り、自らも調査を発展させた上で刑事告発したことが全ての発端だった。東京地検特捜部が捜査に着手すると、単なる派閥によるパーティ券収入の不記載や虚偽記載にとどまらず、多額の裏金が議員に還流されていたことがわかり、一大スキャンダルに発展していった。
その上脇氏は、現行の政治資金規正法に基づいて政治家や派閥、政党、政治団体などが提出している政治資金収支報告書は、その中身をチェックすることがとても困難なことを、自らの経験に基づいて強調する。総数にして数百万ページはあろうかという収支報告書はウェブ上で閲覧が可能になっているが、一つ一つのページがデータ化されていないPDF形式で公開されているため、検索をかけたりソート(並び替え)などができない。驚いたことに現行制度の下では、政治資金規正法が守られているかどうかをチェックするためには、数十万から数百万ページはある報告書を一枚ずつ手繰っていくしかないのだ。
上脇氏は膨大な時間をかけて、報道などで各派閥のパーティ券を大量に買っていそうな政治団体の支出と、パーティ券を売っている派閥の収入を突き合わせることで、辛うじて4,000万円あまりの記載漏れがあることを突き止め、これが今回の刑事告発につながった。しかし、赤旗による地道な調査報道と上脇氏による刑事告発がなければ、今も当たり前のように還流や裏金作りが粛々と行われていたことになる。実際、パーティ券の売り上げの還流による裏金作りは少なくとも2005年には始まっていたことが、共同通信によって報道されている。
また、収支報告書は監督する権限を与えられた省庁や第三者機関が存在しないため、実際は報告内容が正確かどうかを誰もチェックしていない状態にあるというのも驚きだ。法律に基づいてどんな規制が設けられていようが、更にその規制をどれだけ強化しようが、最終的にそれが遵守されているかどうかを誰もチェックしていないし、したくてもそれが物理的に困難ということでは、そのような法律は法の体を成していないと言わざるを得ない。これは「ザル法」だとか「抜け穴」だとか以前の問題だ。
他にも現行の政治資金規正法に基づく制度の中で、「最低でもこれだけは変えなければならない」ことを列挙したものが、上脇氏が理事を務める公益財団法人政治資金センターとビデオニュース・ドットコムの人気番組『ディスクロージャー・アンド・ディスカバリー』の司会を務める三木由希子が理事長を務める情報公開クリアリングハウスから「政治にかかわる資金の透明性確保を求める意見書」という形で公開されているが、その内容を見ると、これまで政治資金規正法がいかにザル法だったかを痛感せずにはいられない。
その上で、政治資金の野放図な実態を熟知している上脇氏は、事実上の企業・団体献金の抜け穴となっている政治資金パーティも禁止すべきだし、政党交付金も廃止すべきだと主張する。企業・団体献金そのものには賛否両論があるが、上脇氏が問題にするのは、企業は政治資金収支報告書の提出義務がないため、受け取った派閥や政治団体側が正直にパーティ券収入を報告しない限り、その実態を知る術がないことだ。どこかの企業が記載義務が生じる20万円以上のパーティ券を買っていても、あるいは150万円の上限を超えて購入していても、受け取った側がそれを記載せずにすべて裏金に回していても誰にもわからないことになる。
また政党交付金については、そもそも政治資金の規律を全く守れない政党や政治家に100億円単位の交付金を渡すことは、「盗人に追い銭」であり「依存症患者に麻薬を渡すようなもの」に他ならないからだ。
検事時代に政治家の裏金問題を捜査した経験を持つ弁護士の郷原信郎氏は、今回有権者の期待とは裏腹に裏金を貰っていた議員の摘発が3人にとどまった理由を、「政治資金規正法の真ん中に空いた大穴のため」と説明する。複数の政治団体を持っている政治家が、裏金をどの団体に入れたのかを明確にしない限り、検察は「起訴状が書けない」という刑事訴訟法上の問題が生じる。そのため政治家が政治資金の受け皿として使える団体を一つに限定するなどの法改正が必須だと指摘する。
国会では政治資金規正法の改正案の審議が始まろうとしているが、これまで与党側が出してきた改革案はあまりにもいい加減なものばかりだ。有権者がよほどしっかりしなければ、「私たちはこれからも裏金作りに勤しみます」と宣言されているような改革案でお茶を濁されて終わってしまいかねない。
政治資金規正法はその第一条で、政治を国民の「不断の監視と批判の下」に置くことがその目的であると宣言しているが、上脇氏や郷原氏が提唱する法律の改正案はいずれもそれを実現するためには不可欠なものばかりだ。現行の法律は不断の監視はおろか、まったく監視ができない代物になっている以上、抜本的な改正が待ったなしだ。一刻も早く「金のための政治」を終わらせ、国民のために働く政治を取り戻すためには、有権者のわれわれ一人ひとりが、まずは現行制度の問題点を知ることで、デタラメな改革案に騙されないようにすることではないか。
今回の自民党裏金問題の発端となった告発をした上脇氏と、弁護士の郷原氏、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が、日本の政治に先進国として当たり前の透明性を持たせるために最低限必要となる施策とは何かを議論した。
前半はこちら→so43684512
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>5金スペシャル・あなたはそのサプリの中身を知っていますか/田村忠司氏(ヘルシーパス代表取締役社長)
多くの人が飲んでいるサプリメント。日本では少なくとも20歳以上の人口の3割以上の人がサプリを利用しているそうだ。しかもその市場は年々拡大しており、今やサプリメントを含む健康食品市場の規模は1兆円とも2兆円とも言われている。しかし、日常的に身体に取り込んでいるものであるにもかかわらず、ことサプリに関してはどういうわけかその中身やリスクについて正しい知識を持って飲んでいる人は意外に少ない。
小林製薬の紅麹食害事件では、問題となったサプリメントが機能性表示食品の届け出をしていたことから、機能性表示食品制度の見直しがしきりと取り沙汰されていて、政府は5月31日、被害報告の義務付けを含む対応方針を取りまとめている。確かに機能性表示食品という制度は、消費者に対する実態以上の権威付けになっているという意味で問題が多いが、かといってサプリの中には必ずしも機能性表示食品のお墨付きを得ていないものも多い。実際、サプリを飲んでいる人の多くは、それが機能性表示食品としての届け出がされているかどうかには必ずしもこだわっていないようにも見える。どちらかというと、有名人などが語る広告文句に乗せられて買っている人や、場合によっては効くかどうかは度外視して、自身の生活スタイルに対する免罪符や気休めとして飲んでいる人が多いのではないか。
医療機関に特化したサプリメントを製造販売している「ヘルシーパス」社長の田村忠司氏は、現在市場に出回っているサプリには問題が多すぎると指摘する。まず、ほとんどのサプリは、有効成分は1%程度しか含まれておらず、残る99%は添加物であることを認識する必要がある。わざわざお金を払って添加物を買っているのだ。さらに、サプリに含まれている栄養素には科学的根拠が希薄だったり効果が怪しいものも多い。また、実際に表示されている分量の有効成分が含まれているかどうかも、確認のしようがない。
また、サプリによっては実際に表示されているだけの有効成分が含まれている場合もあるが、それを毎日摂取したり他の薬と併せて摂ることによって、アレルギーなど予期せぬ副作用が生じる場合もある。
東京都が毎年行っている健康食品の試買調査では、店頭で売られている44品目のうち26品目に、不適正な表示・広告が見られたという。インターネットの通信販売にいたっては、81品目中79品目に問題のある表示が見つかっている。
例えば、飲むだけで痩せるとか、膝の痛みが治るなどといった過大広告が蔓延する中、われわれ消費者は何に気をつければいいのか。田村氏は、まずサプリのパッケージをよく見て購入することが重要だと言う。パッケージの裏側を見れば、栄養素の種類や配合量、添加物の有無などほとんどの重要なことは分かるようになっている。実際、多くの人が表に書かれている効果の部分は見ていても、裏側の成分表示はほとんど見ていないのではないか。その意味では買う前にパッケージを確認することができないテレビショッピングでの購入は問題が多いと田村氏は警鐘を鳴らす。また、「医療機関向けサプリ」と謳っていながら一般向けに販売していたり、「ドクターズサプリ」と言いながら医師の関与なしに販売していないかについてもチェックする必要があるという。広告で平気で嘘をつくような会社が、製造過程でお金をかけてきちんと温度管理をしたり、不要な添加物を減らす努力をしているとは到底思えない。
たとえ無駄だとしても、サプリを飲むことで安心感や満足感が得られるなら、それはそれでいいではないかという議論もあるのかもしれない。プラシーボ効果というものもあり得る。しかし、その一方で、サプリには医薬品と変わらないほどの効果を持つ成分が含まれている場合もある。例えば、昨今問題になっている紅麹サプリについては、アメリカの医薬品にも使われているモナコリンKが含まれていて、実際にコレステロールを低減する効果が期待できると考えられているのだ。今回は死亡事故が起きたことでようやく社会も問題視するようになったが、死亡事故にまで至らない副作用が起きている事例は実際には多いはずだと田村氏は言う。
またメディアの責任も重大だ。地上波やBS、CSでひっきりなしに流れている健康食品やサプリのテレビショッピングは、売り上げの大半が放送局に電波料として入る仕組みになっているものが多く、放送局としてはサプリの問題を殊更に取り上げたくない事情がある。紙媒体でもサプリの広告出稿量は多く、メディア側の大人の事情として、死亡事故でも起きない限りあえてサプリの問題を取り上げようという動機は起きにくい。
サプリというのは、有効成分がほとんど入っていなかったり科学的根拠が希薄なため、ほとんど効かないものは効かないもので、そんな添加物の塊のようなものをメディアが喧伝し、消費者に年間兆円単位のおカネを費やさせていていいのかという問題もあるが、逆に効くものは効くもので、医師の指導なく服用することにはそれ相応の危険が伴う。
市場に出回るサプリの危険性や自分にとって効くサプリと効かないサプリの見分け方、われわれの多くがついついサプリを頼りたくなってしまう心理の背景にある不全感や焦燥感、孤独感などの正体について、ヘルシーパス代表取締役社長の田村忠司氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so43862135
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>現行の成年後見制度では認知症になった人の権利を守れない/佐藤彰一氏(弁護士、全国権利擁護支援ネットワーク顧問)
成年後見制度ができて四半世紀。数々の問題が指摘されてきたこの制度に、やっと見直しの動きが出てきた。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などが理由で判断能力が低下した人の財産管理などを代理人が行う仕組みで、2000年にスタートした。成年後見人になるためには特別な資格は必要なく、家族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などがなる場合が多い。また、その報酬は基本的には被後見人となる本人が負担する。
認知症によって判断能力が衰える人が増加し、後見制度の必要性が高まる一方で、現行の制度は課題が多く利用しにくいことが指摘されてきた。今年2月に法務大臣が見直しを法制審に諮問したのを受けて、今月から審議が始まる。
成年後見制度は、明治時代から続いてきた民法の禁治産制度を改正して2000年に始まった。禁治産は、判断能力がないとされた人に対して様々な行為を制限するもので、裁判所から禁治産者の宣告を受けると財産の管理能力がないとされ選挙権も与えられなかった。同年にスタートした介護保険が、サービスの利用を行政が措置する制度から、利用者が契約する制度と変わるのに合わせて、同様の考え方で現行の成年後見制度が作られたという経緯がある。
しかし、例えば遺産分割などで認知症の当事者に一度後見人をつけると、亡くなるまで利用をやめることができないほか、その後の介護サービスの利用などについても後見人の判断が求められるなど、非常に煩雑で使い勝手が悪い制度となっていた。
さらに、成年後見人には包括的な取消権、代理権が与えられ、被後見人の意思がまったく考慮されなくなる問題も指摘されていた。一昨年、国連は、障害者権利委員会の総括所見として「意思決定を代行する制度を廃止する」観点から民法の改正を日本政府に勧告している。
弁護士で2月まで全国権利擁護支援ネットワークの代表を務めていた佐藤彰一氏は、判断能力の有無を他者が決めることができないという理由から、判断能力がないことを前提とするのではなく、「能力存在推定」を前提に被後見人の意思決定を支援する制度を考えるべきだと主張する。
そのためには、被後見人の意思決定をどう支援するかが重要となる。しかし、本人の意思をどう引き出すかや、状況や環境によって変化する本人の意思をどう捉えるべきかは簡単な問題ではない。そのためには被後見人の生活歴や暮らしぶりなどがある程度わかっていることが重要で、地域や暮らしの視点が求められる。佐藤氏は司法書士や弁護士といった第三者の成年後見人にその役割まで求めるのは困難だと語る。
今回の見直しの議論のなかで、後見人が本人に代わって意思決定をする現行制度から被後見人の意思決定を支援するという形に180度転換することができるのか、法改正も必要だが生活支援や地域づくりこそが重要だと主張する佐藤彰一氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
後半はこちら→so43627749
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>現行の成年後見制度では認知症になった人の権利を守れない/佐藤彰一氏(弁護士、全国権利擁護支援ネットワーク顧問)
成年後見制度ができて四半世紀。数々の問題が指摘されてきたこの制度に、やっと見直しの動きが出てきた。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などが理由で判断能力が低下した人の財産管理などを代理人が行う仕組みで、2000年にスタートした。成年後見人になるためには特別な資格は必要なく、家族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士などがなる場合が多い。また、その報酬は基本的には被後見人となる本人が負担する。
認知症によって判断能力が衰える人が増加し、後見制度の必要性が高まる一方で、現行の制度は課題が多く利用しにくいことが指摘されてきた。今年2月に法務大臣が見直しを法制審に諮問したのを受けて、今月から審議が始まる。
成年後見制度は、明治時代から続いてきた民法の禁治産制度を改正して2000年に始まった。禁治産は、判断能力がないとされた人に対して様々な行為を制限するもので、裁判所から禁治産者の宣告を受けると財産の管理能力がないとされ選挙権も与えられなかった。同年にスタートした介護保険が、サービスの利用を行政が措置する制度から、利用者が契約する制度と変わるのに合わせて、同様の考え方で現行の成年後見制度が作られたという経緯がある。
しかし、例えば遺産分割などで認知症の当事者に一度後見人をつけると、亡くなるまで利用をやめることができないほか、その後の介護サービスの利用などについても後見人の判断が求められるなど、非常に煩雑で使い勝手が悪い制度となっていた。
さらに、成年後見人には包括的な取消権、代理権が与えられ、被後見人の意思がまったく考慮されなくなる問題も指摘されていた。一昨年、国連は、障害者権利委員会の総括所見として「意思決定を代行する制度を廃止する」観点から民法の改正を日本政府に勧告している。
弁護士で2月まで全国権利擁護支援ネットワークの代表を務めていた佐藤彰一氏は、判断能力の有無を他者が決めることができないという理由から、判断能力がないことを前提とするのではなく、「能力存在推定」を前提に被後見人の意思決定を支援する制度を考えるべきだと主張する。
そのためには、被後見人の意思決定をどう支援するかが重要となる。しかし、本人の意思をどう引き出すかや、状況や環境によって変化する本人の意思をどう捉えるべきかは簡単な問題ではない。そのためには被後見人の生活歴や暮らしぶりなどがある程度わかっていることが重要で、地域や暮らしの視点が求められる。佐藤氏は司法書士や弁護士といった第三者の成年後見人にその役割まで求めるのは困難だと語る。
今回の見直しの議論のなかで、後見人が本人に代わって意思決定をする現行制度から被後見人の意思決定を支援するという形に180度転換することができるのか、法改正も必要だが生活支援や地域づくりこそが重要だと主張する佐藤彰一氏と、社会学者の宮台真司、ジャーナリストの迫田朋子が議論した。
前半はこちら→so43627747
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>5金スペシャル・あなたはそのサプリの中身を知っていますか/田村忠司氏(ヘルシーパス代表取締役社長)
多くの人が飲んでいるサプリメント。日本では少なくとも20歳以上の人口の3割以上の人がサプリを利用しているそうだ。しかもその市場は年々拡大しており、今やサプリメントを含む健康食品市場の規模は1兆円とも2兆円とも言われている。しかし、日常的に身体に取り込んでいるものであるにもかかわらず、ことサプリに関してはどういうわけかその中身やリスクについて正しい知識を持って飲んでいる人は意外に少ない。
小林製薬の紅麹食害事件では、問題となったサプリメントが機能性表示食品の届け出をしていたことから、機能性表示食品制度の見直しがしきりと取り沙汰されていて、政府は5月31日、被害報告の義務付けを含む対応方針を取りまとめている。確かに機能性表示食品という制度は、消費者に対する実態以上の権威付けになっているという意味で問題が多いが、かといってサプリの中には必ずしも機能性表示食品のお墨付きを得ていないものも多い。実際、サプリを飲んでいる人の多くは、それが機能性表示食品としての届け出がされているかどうかには必ずしもこだわっていないようにも見える。どちらかというと、有名人などが語る広告文句に乗せられて買っている人や、場合によっては効くかどうかは度外視して、自身の生活スタイルに対する免罪符や気休めとして飲んでいる人が多いのではないか。
医療機関に特化したサプリメントを製造販売している「ヘルシーパス」社長の田村忠司氏は、現在市場に出回っているサプリには問題が多すぎると指摘する。まず、ほとんどのサプリは、有効成分は1%程度しか含まれておらず、残る99%は添加物であることを認識する必要がある。わざわざお金を払って添加物を買っているのだ。さらに、サプリに含まれている栄養素には科学的根拠が希薄だったり効果が怪しいものも多い。また、実際に表示されている分量の有効成分が含まれているかどうかも、確認のしようがない。
また、サプリによっては実際に表示されているだけの有効成分が含まれている場合もあるが、それを毎日摂取したり他の薬と併せて摂ることによって、アレルギーなど予期せぬ副作用が生じる場合もある。
東京都が毎年行っている健康食品の試買調査では、店頭で売られている44品目のうち26品目に、不適正な表示・広告が見られたという。インターネットの通信販売にいたっては、81品目中79品目に問題のある表示が見つかっている。
例えば、飲むだけで痩せるとか、膝の痛みが治るなどといった過大広告が蔓延する中、われわれ消費者は何に気をつければいいのか。田村氏は、まずサプリのパッケージをよく見て購入することが重要だと言う。パッケージの裏側を見れば、栄養素の種類や配合量、添加物の有無などほとんどの重要なことは分かるようになっている。実際、多くの人が表に書かれている効果の部分は見ていても、裏側の成分表示はほとんど見ていないのではないか。その意味では買う前にパッケージを確認することができないテレビショッピングでの購入は問題が多いと田村氏は警鐘を鳴らす。また、「医療機関向けサプリ」と謳っていながら一般向けに販売していたり、「ドクターズサプリ」と言いながら医師の関与なしに販売していないかについてもチェックする必要があるという。広告で平気で嘘をつくような会社が、製造過程でお金をかけてきちんと温度管理をしたり、不要な添加物を減らす努力をしているとは到底思えない。
たとえ無駄だとしても、サプリを飲むことで安心感や満足感が得られるなら、それはそれでいいではないかという議論もあるのかもしれない。プラシーボ効果というものもあり得る。しかし、その一方で、サプリには医薬品と変わらないほどの効果を持つ成分が含まれている場合もある。例えば、昨今問題になっている紅麹サプリについては、アメリカの医薬品にも使われているモナコリンKが含まれていて、実際にコレステロールを低減する効果が期待できると考えられているのだ。今回は死亡事故が起きたことでようやく社会も問題視するようになったが、死亡事故にまで至らない副作用が起きている事例は実際には多いはずだと田村氏は言う。
またメディアの責任も重大だ。地上波やBS、CSでひっきりなしに流れている健康食品やサプリのテレビショッピングは、売り上げの大半が放送局に電波料として入る仕組みになっているものが多く、放送局としてはサプリの問題を殊更に取り上げたくない事情がある。紙媒体でもサプリの広告出稿量は多く、メディア側の大人の事情として、死亡事故でも起きない限りあえてサプリの問題を取り上げようという動機は起きにくい。
サプリというのは、有効成分がほとんど入っていなかったり科学的根拠が希薄なため、ほとんど効かないものは効かないもので、そんな添加物の塊のようなものをメディアが喧伝し、消費者に年間兆円単位のおカネを費やさせていていいのかという問題もあるが、逆に効くものは効くもので、医師の指導なく服用することにはそれ相応の危険が伴う。
市場に出回るサプリの危険性や自分にとって効くサプリと効かないサプリの見分け方、われわれの多くがついついサプリを頼りたくなってしまう心理の背景にある不全感や焦燥感、孤独感などの正体について、ヘルシーパス代表取締役社長の田村忠司氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so43862199
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>本来は厳格なはずの日本の政治資金規正法の下で政治とカネの問題が後を絶たない理由/孫斉庸氏(立教大学法学部准教授)
問題は法律そのものではなく、法の運用と意図的に作られた抜け穴にある。
未曾有の政治不信を引き起こしている裏金問題を受けて、国会で政治資金規正法の改正審議が始まった。しかし、残念ながら不祥事の当事者である自民党は、本気で実効性のある改正を行う気はさらさらないようだ。
そもそもここまで自民党から出てきている案は、おおよそ政治不信を払拭できるような踏み込んだものではない。しかも、与党内で公明党と調整した上で提出することになる与党案をゴールデンウィーク明けまで引き延ばしてしまった。これは4月28日の3補選の前に法案を出し渋ったからだろう。これでは、有権者を納得させられるような厳しい改正案を出す気がさらさらないことを、法案提出の前に宣言しているようなものだ。
政治とカネの問題は日本のみならず、多くの国が頭を悩ませてきた問題だ。政治活動が選挙運動や政策立案などに一定の資金を必要とする一方で、一歩まちがえば、カネは政治腐敗を生んだり、政策を歪めるような癒着といった、民主主義の屋台骨を揺るがすような問題を引き起こす可能性を孕んでいるからだ。かと思えばアメリカのように、政党や政治家に寄付をすることは国民の「政治意思の表明」という意味で表現の自由という憲法上の権利として保護されなければならないと考えられている国もある。
日本は今国会で政治資金規正法の改正を審議することになる。何ら実効性のない自民党案は論外としても、この審議は有権者として注視する必要がある。それは、いたずらに政治資金に対する規制を厳しくしても、政治とカネの問題の根本的な解決方法にならないことが明らかだからだ。
政治学者で立教大学法学部准教授の孫斉庸氏は各国の政治資金規制を、企業献金が認められているか、どこまで報告・公開を課しているかなど40以上のカテゴリーで詳細に比較した上で、それぞれの国の政治資金規制の厳格さをランク付けしている。それによると、実は日本の政治資金規正法は国際的に見ても厳しい部類に入るのだという。例えば、スイスやスウェーデンなど民主主義が成熟していると見られる国の多くでは、政治家個人への企業・団体献金が認められていたり、収支報告の公開義務さえない国もある。
興味深いのは、日本よりも政治資金に対する規制が厳しい国はメキシコやチリ、ポーランドなど過去に政治腐敗が指摘されたり汚職事件が多く起きている、いわばまだ民主主義が成熟していない国が多い。孫氏は政治資金規制が厳しいということは、法律を厳しくしなければ有権者の政治不信を払拭することができないような政治が行われていたり、過去に汚職や疑獄などが頻発していることの反映であり、これは必ずしも誇れることではないと指摘する。
確かに日本では政治家個人への企業・団体献金は禁止されているし、一定額以上の寄付に対しては寄付者の公開義務も課されている。民主政の国々、とりわけ北ヨーロッパの国々の中には、この程度の制限すらない国が多い。どうやら日本の政治とカネ問題の本質は法律の条文にあるのではなく、本来は制限されているはずの政治資金に多くの抜け穴があったり、実際にカネが物を言う選挙や政治が行われているところに根本的な問題があると言えそうだ。
日本の政治資金規正法は1948年の制定以来、過去に主に9回の改正を繰り返してきた。孫氏はそのたびにほぼ今回と同じような問題が指摘されてきたが、結果的に自民党は本質的な問題を解決せずに、弥縫策で切り抜けてきたと語る。
例えば、企業献金は仮に認めるにしてもその出と入をガラス張りにしなければ、経済政策が歪められる恐れがあることは誰にでもわかることだ。しかし、過去の自民党の政治とカネ問題はほぼ例外なく企業や業界団体からの違法献金だった。今回のパーティ券裏金問題も、そもそも政治資金パーティ自体が企業献金の抜け穴として作用しているものだ。自民党は企業献金が問題になるたびに、これを「企業・団体献金」などと呼ぶことで労働組合などからの献金と並立させたり、「赤旗」のような政党の機関誌からの収入もその範疇に入れるべきなどと主張することによって、野党や世論を揺さぶることで結果的に企業献金を生き残らせることに成功してきた。
国際的には日本は政治家個人への企業や団体からの献金は禁止されているため、OECD加盟国の中でも政治資金規制が「厳しい国」に分類されているが、実際は政党や政党支部への企業献金は1億円まで認められていることに加え、政治資金パーティのパーティ券購入という、一見最もらしいが明らかに脱法的な寄付行為によって、企業献金が政党のみならず政治家個人にも渡っていたことが、今回の裏金スキャンダルで白日の下に晒された。二階幹事長に党から5年間で50億円近い資金が流れていたことが明らかになっているが、政党から政治家個人への寄付や政治団体間の資金移動に制限はなく、しかもその資金が「政策活動費」の名目で全く使途を明らかにされないまま闇から闇へ消えている。このようなことが許されている国が、先進国の中でも政治資金規制が「厳しい部類に入る」などということがあり得るわけがない。
つまり、今日本が集中すべきは、いらずらに政治資金規正法を厳格化するのではなく、今ある制度の下で多くの政治家が当たり前のように使っている「抜け穴」を一つ一つしっかりと埋めていくことだ。さもなくば、このままでは日本は、「世界で最も厳しい政治資金規制がありながら、もっとも政治が腐敗している国」という不名誉な称号が与えられることになりかねない。
抜け穴については、先週のマル激でもご紹介している通り、上脇博之・神戸学院大学教授が理事を務める政治資金センターと、ビデオニュース・ドットコムで「ディスクロージャー・アンド・ディスカバリー」の司会を務める三木由希子氏の情報公開クリアリングハウスが共同で提出した意見書にある17項目の改正・修正が最低でも必要だ。これはいずれも制度そのものの改正ではなく、現行法の運用の改善やより高度な透明化(ガラス張り化)を求めるもので、仮にこの改正をすべて行っても、日本の政治資金規制の厳しさランキングが今よりあがることはないだろう。
有権者は形ばかりの厳格化に騙されてはならない。繰り返すが、必要なのは厳格化ではなく、今ある制度の下で堂々とまかり通っている抜け穴を一つ一つ埋めていくことなのだ。
孫氏は今の政治不信は日本にとっては大きなチャンスにもなり得ると、期待を込めて指摘する。日本、とりわけ万年与党たる自民党は、ここまで政治資金スキャンダルが起きるたびに意図的に抜け穴を残したまま弥縫策で誤魔化してきたが、ここにきていよいよそれが誤魔化しきれなくなっている。これを奇貨とすることで日本が、例えばAIを活用した政治資金収支報告書のデジタルデータ化を導入するなどして、世界の各国の模範となるような優れた、そして透明性の担保された政治資金規制を確立することは十分に可能だと孫氏は言う。そして、その成否はわれわれ有権者にかかっている。
国際的に見て政治資金規制が厳しいはずの日本で政治腐敗が止まらないのはなぜなのか、なぜあからさまな抜け穴が放置され続けてきたのか、誰が政治資金の透明化を阻んできたのか、日本の政治が有権者の信頼を取り戻すためにはどのような政治資金制度の改正が求められているのかなどについて、立教大学法学部准教授の孫斉庸氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)