エアグルーヴ先輩奥さんマン

エアグルーヴ先輩奥さんマン

 トレーナー・デビルマンはある朝、なにやら胸騒ぐ夢がつづいて目覚めると、ベッドの中の自分が一匹のばかでかいテントウムシに変わっていることに気がついた。ーーそのとき、玄関口でベルが鳴った。客の挨拶を耳にしただけで、デビルマンにはそれが誰だかわかったーーエアグルーヴが自分でやってきたのである。なんの因果でデビルマンだけが、よりによって、ちょっとサボればすぐ疑いをかけるようなエアグルーヴを担当するめぐりあわせになったのだろう。「おはよう、トレーナー」とエアグルーヴが親しげに言葉をはさんで、呼びかけた。「いますぐ、まいります」とデビルマンはゆっくりと慎重に言い、一言も会話を聞きもらすまいと、身じろぎもしなかった。「おい、貴様」と今度はエアグルーヴが一段と声を高めて呼びかけた、「いったいどうしたんだ。貴様は自分の部屋にバリケードを築いて、ただイエスかノーとしか返事をせず、それにーーこれは事のついでに申し及ぶが、ーー職務上のさまざまな義務を前代未聞のやり口でサボっている。私はここでエアグルーヴの名において述べるが、まったく真面目な話、貴様の現状のハッキリした説明を要求したい。このたわけが。貴様はおとなしい賢明な人間だとばかり思っていたが、どうやらだしぬけに、奇妙な気まぐれをひけらかし始めるつもりらしいな。」「ほら、聞いてみろ」と隣室でエアグルーヴが言った、「鍵をまわしてるぞ」それはデビルマンにとって、大きな励ましの声だった。 わき目をふる暇もなく、なおも彼が厄介な運動に粉骨砕身していると、まず、エアグルーヴの「ああっ!」という大きな叫び声が聞こえ、それからエアグルーヴの姿も目に入ったが、ドア寄りにいたエアグルーヴは、あんぐりあけた口を手で押さえながら、目に見えない力にたえず押しまくられているかのように、じわじわ後ずさりしていった。 デビルマンが最初の一言を切りだそうとするや、エアグルーヴはくるりと背をむけてしまったものの、蔑むように唇をとがらせ、すくめた肩ごしに振りかえって、デビルマンから目はそらさなかった。エアグルーヴはちっともじっとはしておらず、デビルマンに目をやりながら、さながらこの部屋を退去してはならぬという秘密の禁足令でもあるかのごとく、こっそりとドアの方へ、ゆっくり少しずつ移動していった。ようやく玄関ホールぎわにたどりつくと、最後にエアグルーヴはいきなりの早業を見せて、居間から足を引き抜いたのだったが、はたから見ると、それはまるで、靴底に火が点いて慌てふためいているかのようだったのではなかろうか。―――――――――――――――――――――――――――ごめんな、こんな形でしか俺は君に愛を伝えられないんだ。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm38976591