「笛吹沼と蛇喰見」「戸板かつぎ」

「笛吹沼と蛇喰見」「戸板かつぎ」

腕力自慢の健康ウスノロは犬語が話せない。身体検査の日、必ず雨だ。雨の日僕は学校へ行かない。空気が湿ってくればフトンの中では花火が上がる。毎日が祭りならいい。身体検査はしみったれた健康のお祭りなのだ。そんなものに付き合えない。僕の脳は薄く青ざめ、体重計の上で死刑宣告され、「なんだ、もうちょっと太らな駄目だ」先生が云う。僕の家に初めて家庭訪問に来て、今度は先生が青ざめ胸はへこむ。「この家はさぞや貧しい食生活をしているに違いない。あの子が太るはずがない」先生やっとわかっていただけましたか。もう一つ、「食生活と性生活は正比例する」。あなたはそう思ったのではありませんか。僕の父と母は、タクアンと菜っ葉のみそ汁、おかずが無い。前戯なし、陽の当らない寝室では正常位にもカビがはえるというものだ。ナワもロウソクも知らぬだろう。不倫の快楽が生む子は美しく、貧しい食生活と性生活から生まれた僕は、運動場を走り回る事がない。せめて犬語を覚えて、タクアンと菜っ葉のみそ汁に復讐してあげよう。身長、体重、座高、視力……保健室の中の拷問具は僕達の快楽と不安を照らし出す。どうせ一年に一度の事だ、がまんしよう。そう思って体重計から目をそらした時、もっと恥ずかしい来訪者に気付く。花も嵐もふみ超えて、吸血鬼は自衣でやってくる。勇気リンリンツベルクリン。自衣の吸血鬼は小心者だ。子供の血すら一人では吸えないらしく、女のアシスタントを連れている。それにひどく潔癖だ。血を吸う前に脱脂綿で消毒するなんて犠牲者に失礼ではないか。もっともこの吸血鬼は相手を選ばない。犠牲者は行儀よく一列に並んで順番を待っている。鳥肌になって。「丸尾!!」あぁ、僕の番が来た。こんな時犬語なんて何の役にもたたないね。ひんやりと脱脂綿の舌が腕をすべる。ああ、もうダメだ。痛みをそらす為、僕は必死で犬語をつぶやく。AHH、WHAAA、WOO、GOWWWW……僕の犬、いつも尻尾をふってるだけの、一度も怒った事のない犬。おまへはシソーノーローに悩んでいるね。おまへも菜っ葉のみそ汁かよ。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm43940537