早春散歩(中原中也)

早春散歩(中原中也)

空は晴れてても、建物には蔭があるよ、春、早春は心なびかせ、それがまるで薄絹ででもあるやうにハンケチででもあるやうに我等の心を引千切りきれぎれにして風に散らせる私はもう、まるで過去がなかつたかのやうに少くとも通つてゐる人達の手前さうであるかの如くに感じ、風の中を吹き過ぎる異国人のやうな眼眸をして、確固たるものの如く、また隙間風にも消え去るものの如くさうしてこの淋しい心を抱いて、今年もまた春を迎へるものであることをゆるやかにも、茲に春は立返つたのであることを土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら僕は思ふ、思ふことにも慣れきつて僕は思ふ……

http://www.nicovideo.jp/watch/sm44601040