【断章二】 この世界では「死」は医学的現象として認められていない。生命活動は、愛情物質〈A.L.(Affection Level)〉によって維持されており、その摂取量が基準値を下回らない限り、細胞は老化も停止する。 この状態を保てば、理論上は永続的に生存が可能とされる。しかし、稀に〈A.L.〉の極端な欠乏によって、肉体が急速に崩壊する事例がある。政府はこれを《A.L.D.(Affection Lack Disorder)》------愛情欠乏症候群----と定義し、倫理上「自然死」ではなく「栄養管理の失敗」として処理している。A.L.D.の発症者は、公共データベースに登録され、再発防止のための調査対象となる。報道機関はこの現象を“愛情管理不備”として伝えるが、そこに哀悼の意は存在しない。死は異常であり、同時に見世物である。 発症の過程で本人に幻覚や強い幸福感が見られることが多く、この一時的な状態は“最終愛情錯覚(Terminal Affection Illusion)”と呼ばれる。死亡直前に笑みを浮かべる者が多いのは、この影響とされる。 本記録、初期症例の彼女のケースは、愛情欠乏が進行し完全老化に至った最初の例として扱われ、後に発症者を総称して“セレーナ症例”と呼ぶこともある。 断章二 https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:fe0878b3-a211-437d-9a37-bb7467ed7865