ウロコ板でゲレンデに挑んだ人間の末路 あの日、彼はただ、雪の上を歩きたかっただけなんだ。 ウロコ板という、山の静けさと対話するための道具を履き、 ゲレンデという文明の象徴に、なぜか正面から挑んでしまった。 最初の数メートルは、まだ夢を見ていた。 「案外いけるじゃん」 「ウロコでも滑れるんじゃん」 そんな根拠のない自信が、彼の背中を押していた。 しかしゲレンデは知っている。 “お前はここに来る道具じゃない” と。 斜度が少し増した瞬間、 ウロコは静かに、しかし確実に裏切った。 止まらない。 曲がらない。 制動という概念が存在しない。 彼は悟った。 「あ、これもう歩く道具じゃなくて、ただの細長い罰ゲームだ」 そして転倒。 前へ。 横へ。 時には意味不明な方向へ。 重力と摩擦とウロコの気まぐれが、彼の身体を三次元的に翻弄する。 周囲のスキーヤーは振り返る。 「なんだあれ…」 「ウロコで来てる…?」 「勇者か…?」 そんな視線が突き刺さる。 だが彼は立ち上がる。 何度でも。 なぜなら、ウロコ板は彼にこう囁くからだ。 「歩け。お前は歩くために生まれた」 そして彼は気づく。 ゲレンデの真ん中で、ただひたすら“歩く”という、 誰もやらない、誰も求めていない、 しかし妙に尊い行為をしている自分に。 最後には笑っていた。 転んで、滑って、止まれなくて、 それでも雪の上に自分の足跡を刻んだことが嬉しかった。 末路は悲劇じゃない。 ただの、ちょっと誇らしい冬の冒険だった。