著作の中の「プロローグ」を音声動画で紹介させていただきます。--------------------------------------プロローグ:見えざる侵略の号砲天文十二年(一五四三年)秋。薩摩国の南端に浮かぶ孤島、種子島の門倉岬。どんよりとした鉛色の空の下、波の音だけが単調に響いていた浜辺の静寂は、天地を裂くような轟音によって無惨に打ち砕かれた。――ズドンッ!!空気を震わせる爆音とともに、硫黄の饐(す)えた臭いが白煙となって浜辺に立ち込める。煙が風に流されていくと、遥か数十歩先にある分厚い木の的が、中央から木端微塵に吹き飛んでいるのが見えた。「……おおおっ!」「見事な威力じゃ! 弓矢などとは比べ物にならん!」種子島時堯(たねがしまときたか)をはじめとする日本の武士たちは、目を血走らせ、興奮で全身を震わせた。彼らの視線の先には、異国の商人から手渡された、黒光りする奇妙な鉄の筒――「鉄砲(火縄銃)」があった。これさえあれば、隣国を出し抜き、血で血を洗う戦国の世を制することができる。武士たちはこの未知の殺戮兵器の威力にすっかり魂を奪われ、莫大な砂金を積んでこの「筒」を買い取る交渉を急いだ。彼らの頭の中は、いかにしてこの武器を自軍のものとし、敵の首を吹き飛ばすかという熱狂で満たされていた。だが、歓喜に沸く日本人たちを、沖に停泊する巨大な南蛮船の甲板から、ねっとりと見下ろす冷徹な視線があった。黒い外套を深く被ったその男の胸元には、銀色の十字架が鈍く光っている。イエズス会の先遣隊とも言うべき、神父であった。男は、浜辺で鉄砲の奪い合いに興じる日本の権力者たちを見て、口元に薄い嘲笑を浮かべた。(哀れなものだ。あの鉄の玩具が、己らの首を真綿で絞める縄になるとも知らずに……)神父にとって、鉄砲など最先端の兵器でも何でもない。閉ざされた極東の島国の扉をこじ開け、欲深い領主たちの心を絡め取るための、単なる「安っぽい撒き餌」に過ぎなかった。彼の目に映っているのは、武士たちの勇猛さではない。死を恐れず主君に命を捧げる、世界最高峰の「狂信的な傭兵」としての価値。そして、この豊かな島国に眠る無尽蔵の銀、さらには世界中に高く売れるであろう「奴隷」としての日本人の姿であった。(このジパングという国は、いま内乱の真っ只中にあるという。実に素晴らしい。我々はただ、大名どもに火縄銃と硝石を与え、互いに殺し合わせ、国力を徹底的に疲弊させればよいのだ)神父は手元のロザリオを指でなぞりながら、