「アメリカの近代戦艦のプロトタイプとなったノースカロライナの場合、主砲は42cm口径で大和より劣っており、高角砲も12cm連装10基と2基少なかったのは確かだ。これが後のアイオワ級まで踏襲されていた。中心部の対空兵装のハリネズミぶりは大和に良く似ているけど、しかしこれが実はアメリカの方が格段に優れていたんだ。」 「見た目には同じように見えるけど。」 「例えば、この高角砲は駆逐艦の主砲にも使われているけど、VT信管って言って、飛行機の爆音が極大となったところで爆発する仕掛けが開発されていた。しかも全部レーダー管制だから、いちいち狙わなくってもレーダーで方位を特定して、打ち上げていれば飛行機の方から罠に嵌るようになっていた。機銃も、日本の25mmに対して40mmボフォース砲が標準だった。日本の25mm機関砲では数発被弾したぐらいではなかなか落ちない飛行機も、この40㎜なら1発の被弾で打ち落とすことが出来た。更にGF6Fヘルキャットの迎撃機群とのコンビネーションで、日本の攻撃機はマリアナ沖海戦ではばったばったと打ち落とされたんだ。マリアナの七面鳥射ちなんて言われたらしい。そして,アメリカ最後の戦艦群であるアイオワ・クラスは32ノットまで高速化したんだ。」 「それってどういう意味があるの。」 「即ち,高速の空母群と行動を共にできたということさ。自分を充分に守れるハリネズミ兵装を,空母の護衛に使えたということだ。こうなると,一般的に軍艦は飛行機に弱いという変な思い込みを考え直さなければダメだということになる。現に,防御の貧弱な戦闘機と攻撃機しか開発しなかった日本は,米艦隊を攻撃してもさしたる被害を与えられずに全滅している。マリアナ沖がしかり,台湾沖が然り,勝った勝ったと言われている珊瑚海海戦や南太平洋海戦でも,確かにアメリカの正規空母をしとめているけれども,真珠湾以来の歴戦パイロットを大勢犠牲にしている。村田少佐や関少佐などの得がたい戦士がこの勝ち戦で死んじゃったんだ。」 「日本は航空攻撃の開拓者だったのに,やられた時の対策を考えていなかったから,逆に自分のオリジナル戦法にやられちゃったのね。防御を疎かにするってことは人命を尊重していないってことね。攻撃しか考えられない武士道とは本質的には滅びの美学なのね。」 「裕子も物事が分るようになってきたな。」