<マル激・前半>5金スペシャル・カシミール、パレスチナ、世界の紛争の根っこにあるもの/伊勢崎賢治氏(東京外国語大学大学院教授)

<マル激・前半>5金スペシャル・カシミール、パレスチナ、世界の紛争の根っこにあるもの/伊勢崎賢治氏(東京外国語大学大学院教授)

 5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回の5金では世界で起きている武力紛争について、関連映画を参照しながら考えた。 インド、パキスタンの国境付近に位置するカシミール地方は、1947年にインドとパキスタンがイギリスから独立して以来、常に二国間の紛争の種だった。カシミールは住民の大半こそイスラム教徒だが、10以上の言語が存在し、中央アジア、特にアフガニスタンとの地域的な共通性を持っているなど、多様な文化が混在している地域だ。現在のカシミール紛争は、この地を治めていたヒンドゥー教徒の藩王(マハラジャ)が、独立に際してインド、パキスタンのいずれに属するかを明確にせず中途半端な状態にあったところ、イスラム教徒のパシュトゥーン人勢力に侵攻を受け、あわててインド側に帰属することと引き換えに武力による保護を求めたことが発端となっている。その後、カシミールはインド、パキスタンの独立後も3次にわたる印パ戦争の舞台となり、局地的な武力衝突も後を絶たない。最近ではイスラム原理主義勢力がカシミールのパキスタン側に入り、自爆テロなども起きるようになってしまった。… ここで取り上げた映画『アルターフ 復讐の名のもとに』は、カシミールが舞台のインド映画だが、登場人物の背景を、カシミール情勢に照らして考えていくとまた違った見方が出来る作品だ。暴漢に家族を殺されたイスラム教徒の主人公は、事件の捜査を担当したヒンズー教徒の警察署長に引き取られて育てられていたが、ある日、その養父が自分の家族を殺した覆面の男だったことが分かり、復讐を誓ってテロを計画するという物語だが、そこにもカシミール情勢の複雑さが垣間見える。インド映画特有の踊りと音楽が取り入れられたアクション作品だが、登場人物の出自や立場をカシミール情勢と重ねて考えることで、また違った見方ができる作品でもある。 今回の5金スペシャルで取り上げたもう1つの映画は、パレスチナ人ラッパーの活動を取り上げたドキュメンタリー映画『自由と壁とヒップホップ』だ。パレスチナ人ヒップホップグループ「DAM」が、パレスチナ特有の困難や制約の中で活動する姿を追ったこの作品は、イスラエルとの対立構図だけではなく、パレスチナ人同士にも存在する互いの遠慮や差別、世代間の考え方の違いなどパレスチナ社会が抱える問題が描かれている。パレスチナ情勢は現在も短期間の停戦をはさみながら、イスラエル軍による空爆や、パレスチナ過激派によるテロが繰り返されているが、もはやユダヤ教とイスラム教の宗教対立という視点からだけでは捉えきれない複雑さが存在し、カシミールと同様に解決の糸口を見出すことが困難になっている。 その他、世界にはカシミールやパレスチナのような地域紛争が無数にある。冷戦が終わり、より豊かな世界が実現するはずだった21世紀になっても、紛争は一向に減らないばかりか、ますます増え続けている。なぜ紛争はなくならないのか。冷戦というイデオロギー対立が終結した今、世界の紛争の根本にあるものは何なのか。ゲストの伊勢崎賢治氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。後半はこちら→ so24356555

http://www.nicovideo.jp/watch/so24356550