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<福島報告>9割が帰還困難区域となった大熊町の苦悩
東京電力福島第一原発がある福島県大熊町は昨年12月の警戒区域の再編により、町は3つの区域に見直された。住民の居住地域の9割以上が、年間積算線量50ミリシーベルトを超え、5年間は戻ることが困難とされる「帰還困難区域」に指定された。
現在、大熊町民は約8,200人が県内で、約3,100人が県外で避難生活を送っている。昨年9月実施の第1回住民意向調査では、「戻りたい」が11%、「判断がつかない」41.9%、「戻らない」45.6%という意向だった。今年1月実施の第2回住民意向調査(速報版)では、「戻りたい」は11%、「判断がつかない」43.5%、「戻らない」42.3%と、「判断がつかない」が微増、「戻らない」が微減したが、やはり4割以上が戻らないことをすでに決めていることが分かった。「戻らない」「判断がつかない」の主な理由は、多い順に「(自宅に)カビが多く発生している」53.4%、「(自宅に)動物等が侵入」45.5%、「地震による破損」45.4%、「屋内放射線量が高い」39.7%、「雨漏り」37.2%など(複数回答)となっている。
今、大熊町の住民は、原発事故と長期避難に伴う土地や建物、家具や家財の損害に対する財物賠償と、精神的損害賠償を東電に求めている。住民側には東電の回答が生活再建につながるような賠償額ではないという不満がある。紛争和解仲介機関である損害賠償紛争審査会(能見善久会長)は賠償の対象や内容、基準の最終指針について今月中にも決定する予定だが、それ前に、6月22日、福島市内で県内の被災自治体首長からの意見聴取を実施した。
このなかで大熊町の渡辺利綱町長は、避難の長期化を考慮した賠償の必要性、帰還困難区域の除染の目途が立たないことによる精神的苦痛(いつ帰れるのか、帰れないのかといった不安)への賠償、盗難事件続発問題、一時帰宅しても家財等が放射能汚染のため持ち出せない問題などを訴えた。
さらに意見聴取会に出席したほとんどの首長が訴えたのが、民法上で3年とされる損害賠償請求権の時効の延長だ。今年5月29日には原子力賠償特例法が成立、この中で国の「原子力損害賠償紛争解決センター」に和解の仲介(ADR=裁判外紛争手続き)を申し出ている場合に関しては、3年の時効にかかわらず提訴できることが認められた。しかし、複雑で難しく時間がかかる賠償請求手続きの前に、高齢者や障がい者、あるいは外国人などで日本語が読めない人、震災後に離婚した人など、被災後の生活がより困難でより賠償が必要な人ほど賠償を受けられないまま、時効を迎えてしまう危険性もある。
福島第一原発直近の自治体として、深刻な放射能汚染にさらされた大熊町の現状と課題について、現地取材映像を交えながら、医療ジャーナリストの藍原寛子氏が報告する。
<福島報告>ふくしま集団疎開裁判・「由々しき事態」だが「避難を求める権利なし」の不可解な判決
福島県郡山市の児童、生徒が市に対して裁判所を通じて集団疎開を求めていた問題で、仙台高裁は4月24日、「現在、ただちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとは認めがたい」などとして、訴えを却下する決定を出した。
これは郡山市の10人小中学生が年1ミリシーベルトを超える地域では教育活動を行わず、年1ミリシーベルト以下での教育活動(疎開)を求めていた仮処分申請に対する即時抗告。2011年6月、郡山市の14人の小中学生が仮処分申請を行ったが、同12月、福島地裁郡山支部がこれを却下したため、申立人側が即時抗告していた。
抗告人の弁護人の柳原敏夫弁護士は同日、都内で記者会見し、「裁判所は決定の前半で『児童生徒の被ばくの危険、晩発性健康被害とともに、集団疎開を被ばく回避として考慮すべき』としたが、その後に『避難を求める権利もなく、郡山市は避難させる義務もない』としている。ロジックが分からず、理解できる内容ではない」と却下を批判。今後、起訴命令申立書により民事訴訟を起こすことも可能だが、その点については今後協議して決めたいとしている。
債務者となる郡山市は「本市の主張が受け入れられたと考えている。現在、郡山市は避難区域になっておらず、避難区域から避難してきた子どもたちが郡山市内の学校で学んでおり、妥当な決定」などとしている。
決定では、 低線量の放射線による生命、身体、健康に対する被害の発生が危惧され、由々しい事態の進行が懸念されるなど、郡山の子どもたちが置かれている窮状に理解を示していた。しかし、学校施設での教育活動の継続により直ちに生命身体の安全を侵害する危険は認められないとして、児童・生徒側の疎開の権利も、市側の疎開の責任も認めなかった。
今回の仙台高裁の決定について医療ジャーナリストの藍原寛子が報告する。
<福島報告>新たに2人の子どもに甲状腺がん見つかる・県民の健康情報は誰のものなのか
東電福島第1原発事故の影響を調べる福島県民健康管理調査検討会が2月13日、福島市で開かれ、18歳以下の子どもを対象に平成23年度に実施した甲状腺検査の第2次検査の結果が発表された。それによると、甲状腺がんと診断された子どもが新たに2人、甲状腺がんの疑いの子どもが7人あることがわかった。これまでの発表と合わせると、がんが3人、疑いが7人、合計10人の子どもの甲状腺に重大な異常が見つかったことになる。
子どもの甲状腺がんは、100万人に1人ないしは2人という極めてまれな病気だが、検査を受けた子どもの人数は38,114人(おもに原発に近い地域の居住者)。3人ががんと診断されたことは約12,000人に1人とかなり高い割合に上った。
この割合について、検討会座長の山下俊一福島県立医大副学長、委員の鈴木眞一・同大教授らは、会議や記者会見の中で、原発事故との因果関係について否定的な見解を示した。その理由として?甲状腺がんの進行は遅く、少なくても5~7年後であり、いま発見された腫瘍は原発事故前からできていた可能性がある?疑いを含めた10人に地域的な偏りがない(ある市町村に集中しているわけではない)?検査機器の精度が以前より高くなったため、従来なら後年に発見されていたがんが前倒しで(=早期に)発見された―などを挙げた。
しかし、10人が住んでいた地域の福島第一原発からの距離や推定被曝量などの情報は、「プライバシーの保護」(鈴木教授)を理由に開示されなかった。このため、両教授の見解に対する客観的な検証は事実上進んでいない。
ドイツでは2008年、稼動中の原発周辺で小児がんが増加しているという結果をまとめたKiKK(キック)スタディが報告され、政府もその結果を認めたことにより、社会的に脱原発の機運が盛り上がった背景がある。仮に今回の原発事故と10人の診断結果との間に因果関係はないとするなら、福島県民は子どもたちが原発からの恒常的な放射線等の影響を受ける環境にあったのかどうかを知る権利はあると考えられる。
子どもの甲状腺がんと県民健康管理調査の問題について、医療ジャーナリストの藍原寛子氏と神保哲生が議論した。
<福島報告>IAEA国際会議に福島の住民が反発
総選挙まっただ中の12月15日、日本政府とIAEA(国際原子力機関)による国際会議「原子力安全に関する福島閣僚会議」が原発事故の被災地である福島県郡山市で開催された。IAEA加盟120か国が参加した。福島県や福島県立医大、外務省が除染、放射線モニタリング、健康の3分野でIAEAの協力を受けることで合意。今後IAEAは福島県内に拠点を置いて、支援活動を展開する。
この国際会議は2011年5月、当時の菅直人首相が提唱。今年8月に佐藤雄平福島県知事がウィーンのIAEA本部を訪れ、天野之弥事務局長に福島への支援を要請して開催が決まった。表向きは原発震災に遭った福島県民への支援だが、実際には別の側面もあった。
会議に先立って、来日した各国の出席者は福島第一原発を視察したが、天野事務局長が「防護服は着ずに、マスクと手袋だけで回れるようになった」と話したことが報じられたり、日本産食品の試食会が開かれるなど、海外の出席者に安全性をアピールする内容も盛り込まれた。
福島県・福島県立医大・外務省とIAEAがそれぞれ取り交わした覚書の内容は、県民健康管理調査に関して、県民の個人情報保護やインフォームド・コンセント(説明と同意)の確認など不明確な点が多い。本来は県民の健康のために分析されるデータについて、どこまで第三者がチェックできるのか具体的な説明は行われていない。
もう一つの課題は、脱原発を決めた福島県が、「原子力の平和利用」を掲げるIAEAの協力を仰ぐことが、本当に県民の意思に沿っているのか議論の余地がある。原発に関する立場が異なる組織による協力関係は、「利益相反」の可能性もあるからだ。
会議には、今後、原発事業を導入したいアジアの新興国の代表、各国の電力会社の代表なども参加、新興国で電力不足が顕著になるなかで、「福島の安全が確認できれば、できるだけ早く自国に原発施設を建設したい」と考える出席者もいて、関係者による情報交換やロビー活動が盛んに行われた。
会場の外では、住民を中心として反原発を訴える人々による抗議活動が展開された。IAEAの活動をウォッチするグループ「フクシマ・アクション・プロジェクト」や、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの代表者らは、「福島原発事故はまだ終わっていない。事故を過小評価しないでほしい」「福島県内の原発を全て廃炉にするよう日本政府に働き掛けてほしい」「子どもや若者の被害の最小化に努めてほしい」などとする要請書をIAEA報道官に手渡した。
会議の映像を交えながら、神保哲生とジャーナリストの藍原寛子氏がレポートする。
<福島報告>誰のための放射線測定なのか・モニタリングポストの「誤表示」問題とその対応
福島県と近隣県に政府が設置した放射線の測定器で実際よりも低い数値が表示されていることがわかり、11月下旬から改修工事に取りかかった。
放射線測定のためのモニタリングポストは今年4月から、文科省が福島県を中心に675台設置した。無人で、電源は太陽光発電。測定数値は同省のホームページで公表する“監視システム”として公開されていた。ところが同省は11月7日、全ての測定器で1割ほど低い値を示していたとして、改修工事を行うことを発表した。原因は測定器の側に設置されたバッテリーの鉛が放射線を遮っていたとした。
改修工事は11月26日、福島県広野町の田の神地区集会場に設置された可搬型モニタリングポストで始められた。来年2月末までに順次行われ、改修費は約1億5千万円。放射線の検知器とバッテリーを離れたところに取り付け直すという。
設置から半年。測定値が低いことに疑問を持った地元自治体や住民から多数問い合わせが同省に入っていた。南相馬市やいわき市など地元自治体からも再検査や再調整の要請が出ていたが、同省の対応は遅れた。さらに、各ポスト毎にどのぐらい誤差があったのか、数値は公表せず、「ホームページ上で改修前後の数値を比較すればその差が分かる」と不親切な態度をとっており、4月にさかのぼって数値を修正する予定もないという。
国際環境NGOグリーンピース・ジャパンや琉球大学名誉教授の矢ケ崎克馬名誉教授らを中心とする市民グループの内部被曝問題研究会の測定チームは、文科省の発表前から、周辺の部品が放射線を遮ることやモニタリングポスト周辺の除染を行っていることなどにより、数値が過小に表示されていると指摘していた。賠償額を低く抑え、福島県外避難者を増やさないこと、原発を継続したいとの意図があったのではないかと不信感を募らせている。
取材したジャーナリストの藍原寛子氏は「モニタリングポストは車も人もほとんど通らない場所にが設置され、測定データの表示パネルも見えにくい方向に付いている。誰のためのモニタリングポストなのか。誤表示を認めず改修が遅れたことも問題。そもそもこれらのモニタリングポストは、現地の住民のためではなく、霞が関や永田町のためのものではないのか」と断ずる。
原発事故直後にSPEEDIのデータを公表しなかったことに続く文科省の失態について、福島をベースに活動するジャーナリストの藍原寛子氏が報告する。