マイリスト 琴葉聖戦
グラビデ さんの公開マイリスト ま、うちらが戦った方が早いんやけどな。
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【聖戦の系譜】#49(終)琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38986301 mylist/68640421 最初からsm37026283「本当に行ってしまわれるんですね……」シアルフィ領の平原でセリスは言った。琴葉姉妹は初めてこの世界に降り立った時と同じ場所にいる。見渡す限りのなだらかな草原はかつて見た風景と少しも変わりがない。どこまでも草木が生い茂り牧歌的な風景が広がっている。この間まで戦争をしていたなんてことはどこか遠い世界の話のようにさえ思えてくる。自然にとって人間の営みなどは無縁にいつまでも悠久の時が流れていくのだろうと二人は思った。「ああ、元気でなセリス」「ユリアちゃんとラナちゃんといつまでも仲良くね」セリスは何かを言いかけて、しかし口には出さなかった。最初から別れは決まっていたのだ。わずかな逡巡の末、代わりに微笑みを浮かべる。「……あなたたちも、お元気で」茜と葵はうなずいた。「準備はいいか」レヴィンが魔道書に触れながら言った。「せやな、頼むでレヴィン。いや……んー、なんて呼べばええんや?」「ふっ、レヴィンでいいさ。これがレヴィンとしての最後の役目となる」――この後は私も消えるだけさ。茜と葵の足元に魔法陣が浮かび上がる。膨大な魔力の奔流を感じる。足元から風が巻き起こり二人は思わずスカートを抑えた。魔法陣から光の柱が立ちのぼり目を眩ませる。茜は手に温かいものが触れるのを感じてそっと握り返した。葵には見なくても姉の浮かべている表情が分かった。激しい風に負けて二人の髪飾りが髪から離れて飛ばされていく。「さよなら――ユグドラル」光が収まった時、後に残ったのは草むらの上に仲良く重なって落ちた赤と青の髪留めだけだった。二人が本当に元の世界へ帰れたかどうかはわからないので忘れてください。琴葉スウィートホームmylist/68236991
29:49|2021年07月07日 06:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#48琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38979197 mylist/68640421 次 sm38993755ヴェルトマー城の最奥、玉座の間。激しい攻防の末にセリスがマンフロイを倒した。袈裟斬りにされた亡骸の前でセリスは肩で大きく息をしていた。「よくやった、セリス」レヴィンがねぎらいの言葉をかける。レヴィン自身もマンフロイに何か思うところがあるのか一瞥しただけで踵を返す。「これでユリアの暗黒魔法も解けるだろう。だがユリアを説得できるのはお前だけだ。ユリウスとユリア……父親は違うとは言え兄妹であるお前にしかできないことだ。急ぐぞ」セリスもうなずいて出て行こうとする。だが琴葉姉妹はその時何かがかすかに動く気配を感じた。この感覚はずいぶん久しぶりだ。かつて呪いの屋敷で異形の者たちと剣を交えた頃によく感じたもの。――殺気だ。葵と茜が振り向いて剣を振るうのは同時だった。二振りの銀閃が奔る。死んだはずのマンフロイが背を向けたセリスに放った暗黒魔法を葵が切り裂き、茜の剣がマンフロイの首と胴体に別れを告げさせた。セリスとレヴィンが気付いて振り返った時にはもうすべてが終わっていた。琴葉姉妹は足元に転がってきたマンフロイの表情が驚愕から諦観に変わるのを見た。「残念だったね。ぎんのけんは幽霊だろうと斬るんだよ」「死んだふりは悪の常套手段や。うちらが敵地で油断するとでも思ったか」「……初めて見た時からわしの計画が阻むとしたらお主ら二人じゃと気付いておったわ。わしは……間違っていなかった……」そう言い残してマンフロイの死体は消えた。煙が消えた後の様に最初から何もなかったような錯覚さえ覚える。「……マンフロイは死んでなかったのか」セリスは呟いた。「ありがとう二人とも。ぼくが至らないばかりに」「もう済んだことなんやからくよくよしとらんでさっさとユリアを迎えに行くでセリスお兄ちゃん。兄と姉ってのは妹を迎えに行ってやるもんなんやからな!」「ありがとうアカネ。アオイも……」「ふふっ、ユリアちゃんに会ったらクッキーたくさん食べてもらおうねッ!」茜と葵に背中を叩かれながらセリスは城を後にしたのだった。クッキーを口に詰め込まれるユリアはいなかったと思うので忘れてください。
11:41|2021年07月05日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#47琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38975589 mylist/68640421 次 sm38986301「ユリアが操られている?」琴葉茜は入ってきた情報に頭に血が上るのを感じた。マンフロイの仕業に違いない。暗黒魔法を使って手ごまにしたのだろう。あの男の好きそうなことだ。「ロプト教団……イード神殿で彼らの境遇を知って憐れみを覚えたことはあるけど……マンフロイ、やつだけは許せない」セリスが悔しそうに手を握りしめた。レヴィンが何かを思い出すように目を閉じる。「迫害されたロプト教徒の歴史がマンフロイという巨悪を生み出したのだ。アルヴィスが求めた誰もが公平な世界というのはロプト帝国の末裔でも自由に外を出歩ける世界でもあった。それで満足しておけばいいものを、しかしマンフロイの憎しみは飽き足らずに復讐へと向かった。今のロプト教団が人々を虐殺するのは虐殺されたことがあるからなのだ。お前の剣にはそれを斬るだけの覚悟はあるか」レヴィンの深く冷たい瞳から目をそらさずにセリスは答えた。「ぼくは、最初はぼくが立ち上がればみんなが救われると思ったから剣を取った。でもトラキアで誰のために戦ってるのかわからなくなったこともあった。だけど今はぼくだから助けることができる人々がいるから戦ってるんだ」――ぼくはマンフロイを斬るよ。そしてユリアを救い出す。セリスとレヴィンのやり取りの横で葵はイード砂漠でのことを思い出していた。「そういえば私たちを助けてくれたサラちゃんもロプトの末裔なんだよね。今何してるのかな」「サラならこないだリーフと一緒にいるとこ見たな。おじいさまを近くに感じるから『ご挨拶』に行きたいとか言ってたで。魔道書撫でながら」「……そのおじいさまがどんな人か知らないけど孫娘にそこまで嫌われるってちょっと同情しちゃうかも」なんて幕間はなかったと思うので忘れてください。
11:51|2021年07月04日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#46琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38970449 mylist/68640421 次sm38979197ドズルを制圧した翌日、祝杯を浴びて二日酔いで重たい頭を引きずる琴葉姉妹を出迎えたのはレヴィンだった。ひどい表情の二人を見ても眉一つ動かさずに言った。「必要なエーギルが溜まった」その一言に茜と葵はスッと頭が冷えていくのを感じた。元の世界へ帰る手段ができたのだ。背中でついて来いと語るレヴィンの後ろを歩きながら二人は顔を見合わせるのだった。ドズル城の一室、誰も使っていない客間に陣取ると中央に置かれたテーブルの上に魔道書を乗せる。かつて見たレヴィンが作り上げたという特別なワープの魔法だ。表紙には前にはなかった複雑な魔法陣が浮かび上がり薄く発光している。以前見た時よりも存在感も増しているように感じる。レヴィンがソファーに座ったので二人も同じように対面に座った。「結論から言うとエーギルは溜まったがまだ完成ではない。あと一つ、光と闇の魔力が必要だ」レヴィンはそう切り出した。「光と闇……ナーガとロプトウスの魔力だ。この二つが激突する時に発生する魔力の衝撃をこの中に取り込み発動の口火にする。一度きりのつもりで作ったためこのようなものになったが本来なら空気中の、」「ちょ、ちょっとまって。詳しい仕様なんて聞いてもわからんからええわ。とにかくナーガとロプトウスがぶつかる必要があるってことなんやな?」茜が一人で話し始めたレヴィンを遮って言った。葵が膝の上で手を握りこむ。「……ユリアちゃんとユリウス皇子が戦う必要があるということですね」葵が顔を上げるとレヴィンの冷たいまなざしが突き刺さる。「そうだ」葵は唇を噛んだ。元の世界には帰りたい、しかし自分はユリアにユリウスと戦えと言えるだろうか。双子の兄と。もし自分が姉と戦えと言われたらどうだろうか。想像しただけで体が震えてくる。それを感じ取ったのか茜が手を伸ばして葵の手の上に重ねた。たったそれだけで葵はどんなに怖くても進むことができる。レヴィンは目を閉じて嘆息するように言った。「私にもできないことはある。私には人間たちの心は動かせない。だからあとは――」――お前たち次第だ。ヨハルヴァに絡み酒する琴葉姉妹はいなかったと思うので忘れてください。
12:20|2021年07月03日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#45琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38966293 mylist/68640421 次sm38975589エッダ軍との激しい戦いが行われている頃、琴葉姉妹は後方となるシアルフィで見知った顔を見つけた。スカサハとラナだ。ラナに腕を引っ張られながらうなだれているスカサハを見て、茜は何かあったのかと眉根を寄せた。「どったんや二人とも。これからエッダ攻略やろ?」そう問われてもスカサハは悔しそうに手を握りしめるだけだ。ラナがあきれた様にため息をついた。「セリス様に叱られて下がってきたんです。戦い方に余裕がなさすぎて危ないって」そう聞いて茜はなるほどな、とうなずいた。スカサハはきっと連れ去られたユリアのことが心配で無茶な戦い方をしていたのだろう。それをセリスにたしなめられたのだ。「スカサハ君は心配なんだね、ユリアちゃんが」葵が茜が思っていたことを口に出した。すみません、と小さな返事が返ってくる。その様子にラナが腰に手を当てて頬を膨らませて言った。「私だってセリス様が心配だわ。セリス様のこと好きだもの。だからこそ信じてるの。セリス様ならどんな戦いも必ず勝ってくださるって。それにこう言ってくれたこともあったの。ラナがいるから恐れずに前に出れるんだよって。だから私は後ろで自信をもって自分の役目を果たせるのよ」惚気るラナの隣で葵がスカサハの頭を優しくなでる。「ユリアちゃんのことを心配なのはわかるけど、ユリアちゃんだってスカサハくんのことが心配だと思うよ。あなたに何かあったらユリアちゃんだって悲しむよ。だから無茶はしないでね」ラナと葵に囲まれたスカサハを見て茜はこの姿をユリアに見せてやりたいと思った。お前のことをこんなに想ってくれる相手がいるんやでと伝えてやりたかった。愛する者同士が引き裂かれる悲しみはもうこりごりだ。「もしさらわれたのが私だったらセリス様も取り乱してくださったのかしら」「はは、ラナはさらわれそうになっても杖で殴れば負けないだろ」笑顔を取り戻したスカサハに殴りかかるラナを見て茜はそう思った。スカユリを広めようとする琴葉姉妹はいないと思うので忘れてください。
10:13|2021年07月02日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#44琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38802259 mylist/68640421 次sm38970449琴葉姉妹はシアルフィ城の一室にいた。激戦の末皇帝アルヴィスを倒しようやく奪還することができたシアルフィ。その城内は恐ろしいほどに清掃が行き届きすぐにでも機能するように書類は整えられていた。まるで最初から明け渡すことを想定していたように。――いや。「明け渡すつもりだったのでしょうね、アルヴィス卿は」かつての主人が座っていた部屋……執務室の机をそっと指でなぞりながらオイフェが言った。「ここに来るまでは私はアルヴィス卿に対する憎しみは生涯消えることはないと思っていました。シグルド様に対する仕打ちを思い起こす度に臓腑がひっくり返るかと思うほどでしたから。憎悪の炎はファラの炎よりも熱いとかつての私は信じていました。セリス様の前でそんな姿を見せるわけにもいかなかったのですが」葵はオイフェの背後で一人頷いた。同じ気持ちだ、と思った。アルヴィスが倒れた後城内に残っていた兵は一様に投降し無駄な血は流れなかった。パルマーク司祭から渡されたティルフィング、引き渡すための準備が行き届いた城、自身の死をもって懺悔とした彼にはもう哀れみしか抱いてはいない。アルヴィスもまた哀れな犠牲者なのだ。そんなことを考えていると茜がすたすたと壁際を歩いていき、窓を勢いよく開け放った。「やっぱ閉め切ってると気分までじめじめしてあかんわ」その様子に葵とオイフェはあっけにとられた。だが窓から入り込む懐かしい風に心が洗われていくのを確かに感じた。「そういやうちらはまだ言っとらんかったやろ」いたずらっぽい笑みを浮かべて茜は振り返った。何の事だろうと思っていると茜が微笑みを浮かべて言った。「おかえり、オイフェ」オイフェの顔が一瞬ゆがんだ後、堪える様に唇を結ぶが、耐えきれず涙があふれる。「――ただいま、シアルフィ城」というヒロインムーブする茜ちゃんはいなかったと思うので忘れてください。
10:55|2021年07月01日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#43琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38774229 mylist/68640421 次sm38966293琴葉茜はミレトス城の厨房に立っていた。今まさにシアルフィへの街道を埋め尽くしている帝国軍との戦いの最中だというのに暢気なことやで、と独り言ちつつもその動きは淀みない。すぐそばで葵が発起人というかこんなことをする原因になった相手に講義をしていた。「いいパティちゃん、お弁当というのはね、見た目とかバランスとか大事なことはたくさんあるけど――結局一番大事なのはボリュームだよ」弁当。そう、弁当だ。好きな人に手作りのお弁当を渡したいというなんとも乙女な願いを葵が断るはずがないのだ。戦線から置いて行かれたパティがいつものなりを潜めて照れながらも琴葉姉妹に教えを乞いに来た時からこうなることは決まっていた。帝国との最終決戦が始まればこんな時間も取ることはできなくなるだろう。やるからには手を抜くわけにはいかない。幸いミレトスは海産物も取れるため茜の得意料理が作れるのだ。殻をむき背ワタを取り塩を振る。卵を溶き小麦粉片栗粉を混ぜ、それに漬けたらパン粉を纏わせ170℃の油で揚げる。たとえ異世界でも食材が変わってもうまいことには変わりがない至高の一品。それがエビフライ。キャベツのようなものを刻みそこに立てかける様に乗せ、最後にタルタルを添えれば完成だ。「できたでー」パティが見たことのない料理に目を輝かせながら口に運ぶと揚げたての衣が心地よいサクサクとした音を立てる。やっぱエビフライは世界一やな、と茜が考えていると葵が次は自分の番だと張り切りながら袖をまくった。「メインディッシュの後はデザートだよね! チョコミントアイスっていう世界一おいしいデザートを作ってあげるね! こないだブリザーの魔道書っていう珍しいものが手に入ってね――」という一幕はなかったと思うので忘れてください。
11:04|2021年05月28日 18:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#42琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38760341 mylist/68640421 次sm38802259ミレトスを進軍する中、琴葉姉妹は本隊から外れたところで物憂げに木陰に佇む少女を見かけた。長い銀髪を赤いリボンで二つにくくった特徴的な髪形は戦場でなくても非常に目立つ。フリージの魔道士ティニーだ。「どったん? お昼食べ損ねたりしたんか」茜が軽い調子で話しかけるとティニーは曖昧な笑みを浮かべた。「あはは……はい、そんなところですね」そう言って顔を伏せてしまった。それを見て葵が茜の脇腹を頬を膨らませて突く。「ティニーちゃん、悩みがあったら何でも言ってね。相談に乗るから」琴葉姉妹はそれだけ言って彼女から離れてため息をついた。もともと戦いには向かない心優しい少女だ。トラキアでブルームやイシュタル、クロノス城ではヒルダと親族相手に何度も命がけの戦いをしてきたのだ。それにここから先は帝国本土での戦いになる。兄アーサーから聞いた話ではシレジアから母親ともどもフリージに連れ去られた後は裏切者として想像を絶する生活を強いられてきたという。それでも育った城に、共に過ごした人々に向けて魔法を向けることになるのだ。ナーバスになるのも無理はない。「なんとか支えてやりたいとこなんやけどなぁ」茜が自分の無力を嘆いていると隣で葵が小さく声を上げた。口を両手で覆い頬をほんのりと赤く染めている。その視線の先にはティニーともう一人、緑色の髪をした好青年が何やら話していた。「おん? ありゃセティか。珍しい組み合わ……」そこから先は茜は言葉を紡げなかった。セティがティニーを抱きしめているのが目に入ったからだ。「……なんや、ちゃんと支えてやるやつおるやんけ。ほら葵、邪魔にならんうちに退散するで」愛する人がいるならきっとティニーはもう大丈夫だ。一人ではつらいだけでも二人ならきっと乗り越えられるだろう。ニヒルな笑みを浮かべて鼻を鳴らすと、茜は騒がしい葵を引っ張って先を急ぐことにした。「あーん、セティニーッ! 二人ともそういうこととは奥手だと思ってたのにもうこんな関係になってたなんて! ああぁーッ! 待っておねーちゃんッ! わたしにもっと糖分を補給させてッ! 愛の蜜でわたしを砂糖菓子に作り替えてぇーッ!!」という一幕はなかったと思うので忘れてください。
10:41|2021年05月22日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#41琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38073234 mylist/68640421 次sm38774229ユリアがさらわれた。その事実はすぐにセリス軍幹部に広まった。取り繕おうと表情を硬くしたセリスも瞳の奥に悔しさをにじませる。その横でスカサハは隠すことなく暗黒教団に怒りを表し壁に拳を叩きつけていた。「……スカサハくんはよくユリアちゃんの護衛をしていたんだよね」葵がそれを見て悲しそうにつぶやいた。「セリスちゃんとのお買い物に出かけるのを見送って……その隙を狙われたんだって」「……そか」茜は拳を握った。セリスもスカサハもやりきれない想いだろう。どちらかが悪いのではない、悪いのは暗黒教団なのだ。まさか街の中で白昼堂々仕掛けてくるとは。――いい度胸やないか。ユリアに指一本でも触れて見ろ。エーギルの一片も残らんくらいにブチのめしてやるで。「でもなんでユリアちゃんなんだろう」葵が顎に軽く手を当てて言った。「人質だとしてもユリアちゃんを狙う理由がわからない。シャナンくんやオイフェが捕らわれたなら解放軍の士気を下げるにも効果的だろうけど出自の分からないユリアちゃんをなぜ……?」茜も壁にもたれて考えてみることにした。男のシャナンよりユリアの方が与しやすいから? 魔道士だから? それならラナやティニーのほうが反乱軍や帝国貴族の娘として利用価値があるのではないか。あるいは自分たちの知らない何かがユリアにはあるのだろうか。ずっと目を背けて来た事実を受け止めなければいけない時が来たのかもしれない。光の魔道書を自在に操る記憶喪失の少女ユリア。もしも光の魔道書を扱えるのが『血筋』によるものだったら。見覚えのある銀髪が『彼女』から受け継がれたものだったら。もしすべてが茜の考える悪い想像に当てはまるとしたら……事態は最悪だ。「……とにかく急ぐしかないで」もしも自分が暗黒教団側だったなら、間違いなくユリアは即刻処刑に違いないのだから。セリユリのデートがなくなってもお姉ちゃんとのデートを強行した葵ちゃんはいたかもしれないので忘れてください。
10:33|2021年05月19日 21:30:00 投稿
【聖戦の系譜】#40琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38046907 mylist/68640421 次sm38760341琴葉茜は剣に付いた血のりを振り払った。振り返れば同じように葵が顔を上げるところだった。「怪我はないか葵」「かすり傷だから平気。ライブの杖もあるからね」葵はそう言って腰から下げていた杖を使おうとして手を止めた。「自分には使えないんだったった。てへ」「ほれ使ってやるから貸してな」茜が葵に向けて杖を振ると淡い光が葵を包み込み傷を癒す。「こうやってみんなも道具の貸し借りできれば楽なのにな」「不思議だよね。変なしきたり」「借りパクが起こらんのはええのかもしれんけど……」トラキアでの決戦からグランベルへ取って返した解放軍はミレトスへ進軍した。トラキア半島と接続する都市ペルルークを帝国の支配から解放するために戦い、大方は片付けたはずだ。だが取り戻そうとする帝国の増援と市街地に残った敵勢力の掃討戦は一筋縄ではいかなかった。帝国の物量作戦に本隊をぶつけざるを得ず、暗黒教団は降伏することを知らない。市民に扮したダークマージの不意打ちにはほとほと手を焼かされた。今もこうして奇襲を返り討ちにしたところだ。敵味方がはっきりと分かれる野戦よりも市街戦のほうがずっと気が滅入るものだ。あやしいやつは斬ってみるというわけにもいかない。茜はため息をついた。「……ミレトスは自由で何でもあるとこやって聞いてたんやけどな」かつてシグルドとともにいた頃に聞いた話だ。ミレトスの商人は世界中の品を扱う。きっと見たこともない面白いものもあるだろう、と。異世界の珍品なんて興味を惹かれないわけがなかった。「来ることができたらゆっくり見て回ろうって約束したのにね」葵の表情も暗い。この戦いが終わればまた活気が戻るのだろうか。頭を振って茜は剣をしまうと見回りを再開した。中古屋を通さない闇取引をする琴葉姉妹はいないと思うので忘れてください。
10:12|2021年01月04日 21:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#39琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm38016634 mylist/68640421 次sm38073234琴葉姉妹はトラキア王国について地元の有志から話を聞いていた。作物が取れない枯れた土地に戦後の復興に利用できるものはないか知りたかったからだ。少なくとも葵は鉱物資源と飛竜という特殊な生き物は商売に使えるだろうと踏んでいる。地元の有志といってもリーフやセティについてきたレジスタンスで元々は山賊や荒くれだったものもいる。城の守備を任されているヨハルヴァも含めて今、琴葉姉妹は斧を持った男たちに囲まれているのだった。「なんか蛮族の頭にでもなった気分やで。どっちかっていうとうちらお姫様ポジションやと思うんやけどなぁ」「おいおい俺を蛮族なんかと一緒にしてくれちゃ困るぜ。こう見えてれっきとしたした聖戦士の末裔なんだからな」「わしだって元々は山賊じゃったが今は帝国から世界を救う正義の義勇軍だぞ」ヨハルヴァとバンダナを巻いた大男が茜に詰め寄る。「わかったわかった、うちが悪かった。でもこのままやとお前らまた山賊に戻らんとあかんのやろ。荒れた土地を耕すのも簡単やないで」葵が押し黙った男に向けて人差し指を立る。「私たちにはやせた土地でも育つ作物に心当たりがあるからね。アグストリアに本社がある琴葉商会に私たちは伝手があるから」帝国の圧政下でもしぶとく生き残っていた琴葉商会は今やその流通網を大陸中に広げていた。帝国ですら琴葉商会なしでは経済活動に支障をきたすほどだろう。「トラキアが裕福な土地になれば私たちにも利益があるから。戦争さえ終わればきっとトラキアは空前の発展を遂げると思うよ。だってここに住む人たちはみんな団結できたんだから。私たちにもその手伝いをさせてほしいの」「なんだよ、お前たち変な姉妹だと思ってたけどいいとこあるじゃねぇか。ま、俺のラクチェには及ばないけどな」「ラクチェこの間シャナンとデートしてたけどヨハルヴァのもんやったんかー知らんかったなぁ」「なんだとッ!?」という一幕はなかったと思うので忘れてください。
12:12|2020年12月31日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#38琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37997001 mylist/68640421 次sm38046907琴葉姉妹はミーズ城の外れで見知った顔を見つけた。森の近くに作られたベンチとテーブルが置かれただけの簡素な休憩所だ。人目に付かず静かで安らぐ場所だった。「ユリア、こんなとこで何しとるん?」銀髪の少女ユリアはゆっくりと顔を上げた。見れば手元には食べかけのパンが握られている。「わかった、昼飯が足りんかったからここで隠れて食ってるんやな!」「ち、違いますッ!」慌てて手を振った拍子に周りに集まっていた小鳥が驚いて一斉に飛びだった。それを見ながら茜はユリアもちゃんと大きい声も出せるんやなとどうでもいいことを思った。どうやら野鳥にえさを与えていたらしい。「ごめんね、邪魔しちゃったみたい」飛んで行った鳥たちを見送りながら葵が言った。ユリアは小さく頷いて返事をした。「はい、いえ……以前にもこうしていたような気がして」「鳥好きなんか。なんかこうしてみると貴族の令嬢にしか見えんよな」成り行きで同行することになった記憶喪失の少女。戦闘訓練など受けていない彼女が戦えているのは持ち前の高い魔力のおかげだ。光の魔道書であればどんなものでもまるで知っていたように扱うことができる。「ユリアはなんか昔のこと思い出せたか?」茜がそう聞くとユリアは考え込むようにうつむいた。「……私にはやらなくてはいけないことがあるはずなんです。でもそれが何なのかが思い出せません。思い出したいのに思い出したくない……」「無理せんでええんやで。時間はたっぷりあるんやから。思い出す時が来たら勝手に思い出すやろ。夏休みの宿題みたいに」考え込んでしまった彼女の背中をそっと撫でてやりながら茜は空を見上げた。解放軍は順調に大きくなりトラキアを破ったら次は帝国本国との戦いになるだろう。バーハラで倒れていたということは帝国の貴族の令嬢という可能性が高い。何より光の魔法を扱える銀髪という特徴には大きな心当たりがある。一体帝国内部では何が起こっているのだろうか。そして危惧していることが当たっているとしたら――ユリアは記憶を取り戻した時どちら側に付くのだろうか。という場面はないと思うので忘れて下さい。
10:40|2020年12月25日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#37琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37978861 mylist/68640421 次sm38016634琴葉姉妹は懐かしい顔を見つけた。「フィン!」「フィン君!」かつてキュアンに仕えていた騎士見習いは年月を経て歴戦の兵に姿を変えていた。以前から生真面目でほとんど笑うことがなかった彼だが今では表情の動かし方を忘れてしまったようにも見えた。「お久しぶりです」そう言った彼の後ろに金髪の女性がいたことに葵は気が付いた。一瞬ラケシスが戻って来たのかと目を見張ったが彼女とは別人だった。見た目が全く違う。長い金色の髪は緩やかなウェーブがかかっていてフィンと同じくらいの年齢くらいに見えた。落ち着いた雰囲気の女性剣士だ。控えめに言って美人だった。どこかで会ったことがある気がしたが剣士の知り合いに金髪はいない。「おん? なんやフィン取り込み中やったか」「いえ、お気になさらず。彼女は私とリーフ様がお世話になった方です」そういってエーヴェルという女性を紹介してくれた。各地を転々としながらフィアナ村というところで戦い始めたこと。帝国に捕まってマンスターに囚われていたこと。その話の途中で茜が首をかしげながら言った。「なーんか知り合いに似とるんよな。実は剣より弓の方が得意やったりせん?」フィンが目を閉じてゆっくり首を振った。「彼女には昔の記憶がないのです。自分の役目は終わったとこれからフィアナ村へ帰るので別れるところだったのです」「記憶喪失……」葵はエーヴェルの顔が嘘をついているようには見えなかったし、もし彼女が自分の知っているあの人であるならこんな嘘なんてつく理由がない。「……あの子たちに会わなくていいんですか」葵は自然とそう口にしていた。エーヴェルは一瞬目を見開いたがすぐに優しい表情に変わった。「もう私の役目は終わったのです。それにきっとこの戦いが終わる頃にはすべてを思い出せるような気がするのです。そうしたらきっと私からあの子たちに会いに行きたくなるでしょう」そう言って彼女は去って行った。その後ろ姿が見えなくなるまで三人はずっと立ち尽くしていた。「なあフィン、この後予定ないなら飲みに行かん? こういう時は飲むに限るで!」茜が体を伸ばしながら言った。「そうだね。私もフィン君の積もる話聞きたいなぁ」「いえ、私は……」フィンは遠慮するように手をあげかけたが二人の満面の笑みに屈した。「……わかりました」三人は顔が真っ赤になるまで飲み、探しに来たオイフェも巻き込んで朝まで酒場は騒がしかったという。という一幕はなかったと思うので忘れてください。
10:26|2020年12月21日 21:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#36琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37924247 mylist/68640421 次sm37997001セリス軍は破竹の勢いで進撃した。イザークを帝国の支配から取り戻しイードのダークマージを駆逐しトラキア半島のフリージ家を追い払ってマンスターまでその手を伸ばした。はじめは小さな勢力だった解放軍も地方の協力を得て今では城に入りきらないほどの集団になった。リーフとセティのレジスタンスも合流し士気も高い。マンスターを襲ったトラキア王国と事を構えることになったがどちらに勢いがあるかは明白だった。規模だけならシグルドたちよりもずっとでかいな、と琴葉茜は城の食堂で食事をしながら思った。「それでね、バッタバッタと敵を倒してるときに折れちゃったんだよ……風の剣が!」隣では葵が懐かしい話をしていた。こんな話をしていたからシグルドたちと過ごした日々を思い出したのだろう。「えーッ!? そんな話聞いたことなかったなぁ。お母様いつもシグルド様やアイラ様の話ばかりして自分のことは話さなかったから」フィーが口元を手で覆いつつも目を輝かせている。「む、アイラ母様はどんな人だったんだ」その横でラクチェがフィーに顔を近づけた。「えっとね、動いたと思ったら敵兵が倒れてたとか一振りで五回切ったとか冗談みたいな話ばかりだったけど……ラクチェを見ていたら嘘じゃなかったんだって思った」それを聞いて茜は思わず笑ってしまった。嘘みたいなほんとの話は大体面白い。「ラクチェちゃんのご両親のアイラさんとホリンさんはね、二人とも好きあってるのは分かりきってるのにお互い素直になれなくて……」葵がうっとりした顔で語りだしている。「ねね、アカネ! あたしの両親のことは知ってるの?」テーブルにパティが身を乗り出した。その青い純粋な目を見ていて茜は思った。シグルドたちよりもずっと距離が近いなと。貴族や騎士だとかめんどくさいこと抜きに気楽に話せることなんてあんまりなかったかもしれない。葵がこんなに生き生きと誰かと話してるところは見たことなかったかもしれない。茜はパティの頭をガシガシと撫でてやるとにやりと笑って言った。「もちろん知ってるで。あいつらはな……」無垢な子供たちにあることないこと吹き込む茜ちゃんはいないと思うので忘れてください。
11:17|2020年12月18日 09:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#35琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37907045 mylist/68640421 次sm37978861「お前がアレスか?」アレスは突然呼び止められて顔をしかめた。今までの経験上馴れ馴れしく呼びかけられてロクな目に合ったためしがない。舌打ちをしながらアレスは振り返った。無視してもよかったがその声にどこか体の奥底からむず痒いものを感じたのも事実だ。呼び止めた人物を確認してアレスは記憶の引っ掛かりを覚えずにはいられなかった。同じ顔をした二人の少女。違うのは服と髪の色だけ。それと妙な訛りのある言葉遣いだ。俺はこの二人とどこかで会ったことがある……?「うわ、エルトシャンそっくりやんけ!」「アレス、アレスーッ! おっきくなったねもぉーッ!」そう言って二人は弾丸のような速度で飛びついてきた。鳩尾に二人分の体重を受けてアレスは一瞬意識が飛んだ。受け身も取れず押し倒される。生身の体で鎧にぶつかったらただでは済まないだろう、とアレスは心配したが心配するべきはそちらではなかった。鎧が凹んでいる! 特注の漆黒の鎧が! 毎日寝る前に磨いているお気に入りの鎧なのにッ! ただでさえ武器の修理で金がないというのにッ!! そもそもなぜこの二人は無傷なんだ!! ――そんことよりもだ。「やめッ……やめろォーッ! こんなところリーンに見られたらマズイだろッ!」こんな姿を誰かに見られたら誤解を受けることは必至だ。声を荒げるとピンクと青の猛獣はそろって同じ方向へ指をさした。そこにはリーンが木陰からうらやましそうな目を向けているではないか。「リーンッ! これは誤解だ! 俺は無実だ! 助けてくれ!」リーンを指さしていた二つの手が息ぴったりに手招きをする。するとリーンは表情を輝かせ走ってきた。そして勢いをひとつまみも緩めることなくアレスに抱き着く。美少女三人に抱き着かれてアレスは心の底から泣きたくなった。やっぱりロクな目に合わないじゃないか、と。という一幕はたぶんなかったと思うので忘れてください。
10:43|2020年12月06日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#34琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37890795 mylist/68640421 次sm37924247「ちょ、ちょっとまって、作ったってこの魔道書を? お前が?」琴葉茜は差し出された分厚い魔道書に恐る恐る触れながら言った。地槍ゲイボルグ、聖弓イチイバル、風魔法フォルセティ、そして聖剣ティルフィング。かつて間近で見たことがある神器と同じ雰囲気を放っている。これをレヴィンが作ったというのか。茜の記憶にあるレヴィンなら飄々として気の利いた洒落でも言っておどけるところだろう。だが目の前の男は冗談を言っている様子もなく、かといって鼻にかけている様子もない。できるからやった、ただそれだけといった表情でしかなかった。「いきなりだったから驚いちゃったけど……ありがとうレヴィンさん」考え込む茜の横で葵が頭を下げた。そうだ。元の世界へ帰る手段ができたのだ。こんな戦争ばかりしている世界からなんてさっさとおさらばしてしまった方がいい。喜ぶところなのだ。この戦いが続けば自分はともかく、また葵を危ない目に合わせるかもしれない。それだけは嫌だ。それなのに。「……葵」茜が窺うように葵を見ると、葵はまるで分っていたように微笑んだ。「私はお姉ちゃんと同じ気持ちだよ」わかっているのだ。こんなところで投げ出すことなんてできないと。「ありがとなレヴィン。でもうちらはまだ帰らんで。あいつらの戦いが終わるまでは一緒に見届けてやる。そう決めたんや」茜がそう言い切ると葵も力強く頷いた。「そうか。どちらにしろすぐには帰ることはできないのだ。ゆっくりと支度と心の準備だけはしておくといい」レヴィンが魔道書をしまう。「どういう意味や?」話は終わりだというようにレヴィンは立ち上がり扉へ向かう。「この魔法の発動には大量のエーギルが必要なのだ。大きな戦争が始まって終わるくらいのエーギルだ。神器同士がぶつかり合うような大きな戦争のな……」聞こえなかったか? エーギルが足りないと言ったのだ。という茜ちゃんはいないので忘れてください。
10:42|2020年12月03日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#33琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37871387 mylist/68640421 次sm37907045「アカネとアオイか。久しぶりだな」リボーを制圧し本格的に帝国への反抗を始める最初の会議の場。そこで琴葉姉妹はレヴィンと17年ぶりに再会した。シャナンやオイフェの時のように何か込み上げるものがあると思ったのだが肩透かしを受けてしまった。レヴィンはたった一言だけですぐに話を進めだしたのだ。解放軍の盟主としてヘイムの血を引くセリスを筆頭に各地のレジスタンスをまとめ上げ力を付けてグランベルへ向かう。淡々と説明するレヴィンに同席したセリスもオイフェもどこか戸惑っていることが葵にはわかった。17年の歳月がレヴィンを変えたのだろう。それは理解できる。あれだけのことがあったのだ。人としての感情をどこかに置き忘れてしまったとしても不思議ではない。見た目はかつてのシレジアの王子レヴィンが相応に年を取ったように見える。だが葵には見た目が同じだけの別人にしか思えなかった。会議が終わりイード砂漠攻略へセリスたちが出撃のため会議室を後にし二人もそれに続こうとした。だがそこで二人はレヴィンに呼び止められた。もしかしたらレヴィンは気恥ずかしさから誰もいなくなるのを待ってたのかもしれない。そう葵は期待したがレヴィンは表情を変えることもなくただ一冊の魔道書を二人に見せただけだった。その魔導書は装丁こそシンプルだが目を離せなくなるような存在感があった。「……これは?」中を開くと魔法陣や古代文字でページは埋め尽くされている。この存在感を持つ物を葵は知っている。かつてシグルドたちが手に持ち戦場を駆けたものに気配が似すぎている。そう、これは。「ワープを多層展開できるように改良した魔道書だ。これがあればお前たちは元の世界へ帰ることができるだろう。用意するのに長い時間がかかってしまった」――神器ではないか。「私が創った」という超展開はなかったと思うので忘れてください。
11:27|2020年11月29日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#32琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37851028 mylist/68640421 次sm37890795琴葉姉妹はガネーシャ城内で懐かしい顔を見つけた。「オイフェ!」かつてはまだ少年から大人への途上にあったオイフェも今ではすっかり精悍な顔つきになり口元にはひげも蓄えている。有り体に言えば「もうすっかりおっさんやなオイフェ!」ということだった。「セリス様から聞いていましたが本当に変わっていないんですね」オイフェは最初こそ懐かしさに喉の奥を震わせていたが茜のつい昨日会ったかのように錯覚するほど打ち解けた態度に感動も霧散してどこかへいってしまった。生きているのかどうかもわからなかったのに17年振りに再会した空白を忘れさせる距離の詰め方はかつての主人に似た人を引き付ける力があるのだろうなと思った。「再会の記念にクッキーあげるね。はい、あーん」葵が懐から見たことのあるクッキーを取り出す。だがさすがにオイフェももういい大人である。あーんはないだろうと思った。やんわりと断ろうとすると茜が何かを企んでるような笑みを浮かべる。「なんやオイフェ、うちらのクッキーが食えないっていうんか。それじゃ大人になってどれくらい強くなったのか確かめてみんとあかんかもなぁ?」茜が腰の剣の柄を指先で叩く。葵は相変わらず張り付けたように変わらない笑みでクッキーを差し出してくる。オイフェはあきらめた。かつて軍議の時には毎回振舞われていたクッキーはまるで風味が劣化しておらず匂いに引き寄せられるように脳裏に思い出が浮かぶ。「……おいしいです。あの頃と同じ味のままです」オイフェがそういうと二人はそっくりな笑顔で言った。「腐ってはなさそうやな。問題なく食えそうでよかったで」「ありがとオイフェ。これからもよろしくね!」毒見に使われるオイフェはいなかったと思うので忘れてください。
9:59|2020年11月25日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#31琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37832956 mylist/68640421 次sm37871387琴葉姉妹は解放軍のアジトに案内された。ティルナノグの一画にある豪商の持ち家だという。遠目からでも目立つというのに帝国に潰されないのは袖の下が利いているのだろう。門の前で二人は見覚えのある文様を見つけた。「これ……」琴葉商会のエンブレムだった。17年前に会頭の葵が消えてもずっと存続していたのだ。二人が残したものが解放軍の助けになっていることに目頭が熱くなるのを抑えきれなかった。家に入りとある部屋の前でシャナンが中に声をかける。「セリス。客人だ」扉を開くと窓際にいる青年が振り返ったところだった。外からの日差しで葵には彼の顔がよく見えなかった。だがその雰囲気と面影は忘れもしない。「シグルド様……?」葵が呟いた言葉に青年は虚を突かれたような顔をしてシャナンを見た。その表情はまだあどけなさが残りシグルドほどの逞しさはない。それにシャナンはさっき何と言ったか。そうだ。確かに彼の名前を呼んでいた。「セリスちゃんなの?」「そうだけど、あなたたちは……いや、覚えがあります。とても懐かしい気持ちだ。ずっと昔にあなたたちに会ったことがある……」セリスはゆっくりと近づいて二人の手を取った。かつて抱き上げられるくらい小さかった彼はもう見上げないといけないほど背も伸びていた。握った手も大きくなっていたがずっと変わらないものもある。この温かさはたぶん昔と少しも変わっていない。「アカネ……アオイ……」葵はセリスのまなざしにディアドラを見た。彼を抱いたディアドラの横をよく一緒に歩いたものだ。隣で茜が涙をこらえているのが分かる。だけどそれももう限界だろう。葵も同じだったから。シグルドの声色に似た優しい声でセリスは言った。「おかえり」という話はなかったと思うので忘れてください。
10:51|2020年11月21日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#30琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37818037 mylist/68640421 次sm37851028イザークでは帝国の兵士が気まぐれに村から略奪を繰り返していた。その姿は蛮族以外の何ものでもない。それを目にしてラクチェは物陰に隠れて唇を噛んでいた。「私にもっと力があれば……」「駄目よラクチェ、私たちが動いたらセリス様に迷惑がかかっちゃう。まだ戦えるほどの準備はできてないんだから」ラクチェの袖をつかみながら黒髪の少女マナが言った。ラクチェも頭ではわかっている。帝国から人々を救うためには目の前の人々を見捨てなくてはいけないと。「だけど……ッ! もう見てられないッ!」そう言ってラクチェは剣を握って飛び出した。ラクチェは強かった。正規兵相手に大立ち回りをし何人も切り捨てた。だがそれも長くは続かなかった。悲鳴が聞こえて振り返るとマナが兵士に掴み上げられていた。その首には斧が当てられている。「武器を捨てな」ラクチェは己の迂闊さを呪った。剣を投げ捨てるとすぐに兵士に押さえつけられる。マナの言う通り戦うべきではなかったのだ。力を付けるまで逃げることが正解だったのだ。兵士の下卑た目つきを射殺さんばかりににらみつける。だがそこに翡翠色の輝きが飛び込んできた。直後兵士たちが一斉に倒れる。この輝きは見覚えがある。流星剣だ。光を追うと長い黒髪が重力に引かれゆっくりと落ちるところだった。「シャナン様ッ!」「ラクチェ、マナ、無事か」納刀しながらシャナンが振り返る。怖かったのだろうマナがラクチェに抱き着いてきた。ラクチェが安心してシャナンに礼を言おうと顔を上げると、そのシャナンの背後に斧を振り上げる兵士が見えた。どこかに隠れて隙を窺っていたのだ。シャナンはまだ気付いていない。「シャナン様ッ! 後ろ……!」しかしその言葉は届かなかった。遮ったのは桃色の髪と黒いワンピース、そして振るった剣の残像だ。あまりの速度に剣を抜く瞬間が見えなかった。「安心してな。みね打ちや」シャナンとラクチェの目の前で兵士は崩れ落ちた。この少女は誰だろうか。ラクチェがそう考えているとシャナンが何かを呟いた。その表情は今にも泣きそうでラクチェは今まで見たことがない。「アカネ……なのか?」「おん? どっかで会ったことあったっけか。すまん、ずっと寝てたからよく覚えとらんわ」「アカネ、私だ。ううん、ぼくだよ、シャナンだよ……!」という前日譚はなかったと思うので忘れてください。
10:42|2020年11月17日 20:00:45 投稿
【聖戦の系譜】#29琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37805143 mylist/68640421 次sm37832956琴葉姉妹は自分たちがひんやりと冷たい石室の中にいることに気が付いた。サラと名乗った少女に話を聞きながらおおよそ状況を理解しつつあった。バーハラの悲劇でシグルドたちを救えなかったこと。十年以上石になっていたこと。皇帝アルヴィスによって大陸は統一されたこと。そしてここがイード神殿地下にあるにあるロプトの祭壇の一室であること。「あたしが生まれた時にはあなたたちはもうここにいたんだもの。初めて見た時からずっと気になっていたの」そう言ってサラは茜と葵に近づきその髪に触れた。白く細い指の間から桃色と青色の髪が零れ落ちる。「どんな色をしてるんだろうって。見つめ合ってる姿がとても綺麗だったから」――ただそれだけ。そう言って彼女は微笑んだ。茜は葵の手を握ったまま呆然として動けなかった。「で、でも……」葵が体を震わせるように言った。「なんで助けてくれたの? あなたたちにとって私たちは敵なんじゃ……」その言葉にサラは初めて子供らしい笑みを浮かべて言った。「だってあたし、おじいさまきらいだもん」それから二人はサラの案内で誰にも見つかることなく神殿を出た。祭壇にはほかにも石像があったが彼らにはサラは興味を示さなかったらしい。「あっちへ行けばイザーク。こっちはトラキア」指をさしてサラが言った。茜と葵はどちらへ向かうかはすでに決めている。「うちらはイザークへセリスを助けに行くで。サラも一緒に来るか?」サラは首を振った。「あたしはトラキアに家出しちゃうつもり。向こうで誰かが助けを呼んでる声が聞こえるから」そう言ってさっさと砂漠へ歩きだしてしまった。軽装の少女一人で砂漠越えは無理やけどあいつなら何とかなりそうやな、と茜は思った。という幕間はなかったと思うので忘れてください。
11:08|2020年11月14日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#28琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37790319 mylist/68640421 次sm37818037「あ……起きた」琴葉葵は何か温かく柔らかいものの上に寝そべっていることを知覚した。ずっとしがみついていたいくらい気持ちいい。寝起きなのか意識がぼんやりとしてはっきりしない。鈍い痛みさえ感じる重い頭に手を当てて体を起こそうとしてようやく自分が茜を下敷きにしていることに気が付いた。「お、おねーちゃん!」慌てて飛び起きて葵はうなされる茜を揺さぶった。「あ……お、い?」茜も同じように意識を失っていたらしい。ずいぶん長い眠りだったように感じる。体の節々は石のように固まりまるでずっと同じ姿勢でいたかのように凝っている。体のあちこちを確認するように顔を動かすとすぐそばに誰かがいることに気付いた。小柄な少女だった。銀髪の長い髪をしたどことなくディアドラに似ている顔立ちだ。目を細めて興味深そうに葵と茜を観察している。手には不思議な光を放つ杖を持っていて魔力の残滓が揺蕩っていた。葵と目が合うと少女は小さく笑った。「ふーん……姉妹だったんだ」「あなたは……?」「あたしはサラ。でもあたしのことなんかよりお姉さんたちのことが聞きたいな。なんで――石になってたの?」その言葉に二人はようやく思い出した。シグルドたちの後を追って砂漠を越えヴェルトマーで投獄され闇の魔法で石化した。あの男はどこだ。あいつは危険すぎる。野放しにしていたらシグルド軍にとってかならず災いになる。「シグルドって英雄シグルドのこと? もう10年以上前に死んでるよ」あたしの生まれる前のことだし詳しくなんて知らないけどね。ひゅっ、と息をのむ声がしたのは自分なのか茜なのか葵にはわからなかった。という展開はなかったと思うので忘れてください。
10:21|2020年11月11日 23:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#27琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37772418 mylist/68640421 次sm37805143琴葉茜は今まで葵とつかみ合うような喧嘩なんてしたことなかったな、と思い出していた。意見が合わずに言い合うこともあった。虫の居所が悪いときに心無い言葉を浴びせたこともないわけではない。だが明確な害意をもって暴力を振るおうとしたことはなかった。葵に馬乗りになられ振り上げられた拳を見た時なぜかそう思ったのだ。葵になら殺されてもいい。どこかそう諦めかけた時葵の背後で薄ら笑いを浮かべる男が目に入った。葵になら何をされても許す。だがそこに葵の意思はないのだ。誰かの思惑通り事を運ばれしかもそれに葵を利用されるのは余りに癪だった。茜は顔を目掛けて振り下ろされた拳を首を捻ってかわすと背筋の力で無理やり体を起こし捩じってマウント状態から脱出する。筋を痛めたような気がしたが今は気にしていられない。葵は不気味な動きで再度肉薄してくる。だがフェイントもない直截的な動きほど対処しやすいものはない。茜は足払いで葵を引き倒すと今度は逆に覆いかぶさり上を取る。葵が暴れるが無理やり押し込む。茜は懐からクッキーを取り出すと口に含み咀嚼した。そして葵の両手をつかみ身動きを封じると口移しで葵にクッキーを与えた。勢いが付いていたため額同士がぶつかり視界は明滅し歯と歯が嫌な音を立ててこすれ合う。時間が止まったように思うほど長く感じた。葵がゆっくりと嚥下すると次第に瞳に光が戻って来た。「おね……え……ちゃん?」「葵……よかった。なんともないか?」葵の上体を抱き上げるように起こすと二人で魔道士をにらみつける。「うちらにそんな攻撃効くわけないやろ」「ふぉふぉ……これは確かにわしの手には負えぬ。じゃがここでわしの計画を邪魔されるわけにもいかぬのじゃ」利用できぬのならおぬしらには消えてもらう。男が別な魔導書を取り出すと魔法を放つ。邪悪な光に包まれると二人は足先から徐々に違和感が登ってくるのを感じた。体が動かない。「ストーンの魔法じゃ。これでお主らはもう終わりじゃて」男が不気味な笑い声をあげているうちに石像が二つ出来上がった。お互いを見つめ合い指を絡ませ握っている双子の石像は実に美しかった。という話はないので忘れてください。
11:43|2020年11月08日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#26琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37760519 mylist/68640421 次sm37790319琴葉姉妹はヴェルトマー城の塔に連行された。抵抗することもできたがシグルド軍が壊滅し捕虜もいることを伝えられると大人しく従った。それが嘘か本当かわからなかったからだ。あのシグルドたちが負けるわけない。茜はそう信じているがそれは信じるというよりは祈りだった。石造りの塔は冷たく温もりがなかった。武器を取り上げられたが拘束はされていない。見張り台へ続く長い登り階段があるが兵士に背中を突かれながら通されたのは隠し扉の先にある地下だった。頼りないろうそくの明かりに照らされていくつか扉が浮かび上がる。二人が通されたのは最奥の鉄格子の寒々しい部屋だ。壁面には何かがこびりついた黒い染みが広がっている。「貴族にありがちな拷問部屋か?」そう独り言ちると葵が手を握りながら不安そうに見つめてきた。その目を見つめ返しているうちに音を立てて錠が降りる。琴葉姉妹は囚われの身になった。それから何日かが過ぎた頃訪問者がやってきた。黒いローブを纏った尖った鼻の男。闇の魔道士だった。「ふぉふぉ……妙なおなご共じゃ。エーギルが他の者と全く異質。まるで伝説の竜族と言われても不思議ではない生命力。調べてみたいものじゃ」茜は本能的に悟った。目の前にいる者がすべての元凶だと。そしてそれは葵も同じだった。「あなたは……!」「じゃが二人はいらぬ。この剣でどちらかが死ぬまでお互いに殺し合うがよい」そう言って男は鉄格子の間から剣を放る。剣は葵の近くに落ちた。葵は剣を拾う素振りをしてそのまま剣を男に向かって投げ返す。だが狙いはわずかに逸れ相手の頬を浅く切り裂くに止まり背後の石壁に深々と突き立った。「……恐ろしいやつじゃ」冷や汗をかいた男は突き立った剣を抜こうとしたがピクリとも動かない。男はすぐに諦めると懐から黒い魔道書を取り出す。それが茜に向けられるのと葵が叫ぶのは同時だった。「あれは暗黒魔法……!」禍々しい光が茜を包み込む。だがそれをかばうように葵が茜を突き飛ばした。「あ、葵……?」茜は声をかけるが葵は自分の代わりに魔法を受け倒れたまま動かない。だがそれも一瞬の間だけだった。葵がむくりと起き上がった。しかしその動きは幽鬼のように人間味がない。「オネエチャン……コロス……」という展開はないので忘れてください。
10:47|2020年11月05日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#25琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37755311 mylist/68640421 次sm37772418琴葉姉妹はヴェルトマーへ到着した。砂漠からの道中に残っている痕跡がシグルド軍とレプトールの戦いがどれだけ激しかったのかを物語っている。目を覆いたくなるものばかりだったが少なくともそこに見知った者たちはいなかったことに二人は安堵した。ヴェルトマーの城下町はグランベルの中でも発展しているようでシレジアやアグストリアで見て来たような街並みとは全く違った。「都会なんやなぁヴェルトマー」「そうだね。でもここは戦場にならなかったみたいだよ。シグルド様たちはどうしたんだろう」ヴェルトマーを過ぎればバーハラへ一本道である。王都を守護するならここは死守せねばならない場所なはずだ。「戦いにならなかったってことか。ドズルもフリージも負けたならいくらヴェルトマーでもシグルドと講和せずにはいられんかったってことか?」もしかしたら今頃シグルドもディアドラと再会していたりしてな、と茜は思った。「もうバーハラへ向けて出発しちゃったのかな。情報収集しないとだね」それから二人は酒場や商業組合を覗いてこの戦争がどうなったのか聞こうとした。だが彼らはシグルドの名前を聞くと一様に顔を青ざめ口を閉ざした。「ちょっと向こうで『おはなし』してきたんやけど」茜が聞けた話によると人々の間ではシグルドはまるで蛮族のように恐れられているという。歯向かった人々を一人残らず皆殺しにし国を守ろうとしたランゴバルトやレプトールを容赦なく殺害した恐ろしい男だと。「それでもアルヴィス卿なら何とかしてくれる、か……」領民に慕われる領主だということはわかったがシグルドにヴェルトマーを素通りさせた理由がわからない。「講和するとも決戦に臨むとも言われとらんもんな。一体アルヴィスは何を考えてるんや」口元に手を当てて思案していると周りにざわめきが起こった。顔を上げると武装したヴェルトマー兵が琴葉姉妹を取り囲んでいた。「シグルドのことを聞き回っているという怪しい二人組はお前たちだな?」二人が何かを言おうと口を開きかけた時、遠くからすさまじい轟音が聞こえてきた。まるで大勢の魔道士が一斉に魔法を使ったような爆炎が立ち上る。直後、太陽が顕現したのかと錯覚するほどの熱波が二人の頬を焼いた。シグルド軍がやべーやつなのは間違ってないよなと思った茜ちゃんはいないので忘れてください。
11:27|2020年11月03日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#24琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37747710 mylist/68640421 次 sm37760519琴葉姉妹は隊商に交じって砂漠を歩いていた。照り付ける日差しと時折強く吹き付ける砂混じりの風に辟易しながらもその足取りは軽い。同行しているグランベルへ向かうキャラバンの人から話を聞けたのだ。曰くシグルド軍は無事フィノーラを制圧しそのままの勢いで砂漠を抜けたと。彼らの無事の知らせほど二人の背を押すものはないだろう。しかし逸る気持ちに水を差すように一行は休憩することになった。小山ほどもある大岩の陰で荷物を降ろして砂の上に座り込むとこれまでの疲労が足に押し寄せくる。ふくらはぎを揉みながらふと茜が隣を見ると顔を隠すようにターバンを巻いた男たちが目に入った。茜たちと同様にキャラバンに同行している者だ。商人ではない。武装しているようには見えないが茜には彼らがただ者ではないことがわかった。おそらくそれなりのレベルに達している魔道士。懐に魔道書でも隠しているのだろう。なんとなく気になって茜はそのうちの一人に声をかけた。「こんなご時世に大変やな。皆さんはどちらに行くつもりなん?」話しかけられた男は明らかに警戒した様子で懐に手を差しこんでいる。たとえ男が魔道書を取り出したとしても魔法を唱え切る前に茜はその口の中に剣を突き込むことができるだろう。下手なことをして争いになったら面倒ではあるが、もし彼らがシグルドの敵であるならばここで消しておく必要があるかもしれない。彼らの挙動は怪しすぎた。だがその一触即発の事態を抑えるように別の男が前に出てきた。「どうも申し訳ありません。うちの者が失礼を。私どもは南に向かうつもりです。トラキア半島へ」盲目なのか瞼を閉じたままの壮年だ。柔和な笑みを浮かべて頭を下げられると茜もそれ以上何もできなくなる。「南で戦争があったと聞きましてその戦場へ用事が……あまり風聞のよくないことなのでどうかここだけの話に……」よくわかっていない茜の脇腹のあたりがつつかれる。「たぶん戦争で放置された武器とか鎧を拾いに行くんだよ。南であった戦いというのがどんなものかはわからないけど」「なんや落ち武者狩りみたいなもんか」眉根を寄せて茜はため息を吐くと彼らから離れたところに座りなおした。彼らの話し声が風に乗ってくるがすでに茜に興味はない。葵との時間のほうが大事なのだ。「ベルド様……しかし顔を見られたからには……!」「控えろ馬鹿者、大司教様から絶対に目立つなと念を押されたのを忘れたか。息子のお主がその体たらくゆえ大司教様のはお主にお叱りを与えておるのだ。一つ留め具を掛け違えただけで何十年来の計画が頓挫するのだ。わかっておるのか……」琴葉姉妹がフィノーラで一泊した翌日、彼らはもうどこにもいなかった。というすれ違いはなかったと思うので忘れてください。
11:17|2020年11月02日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#23琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37743816 mylist/68640421 次 sm37755311「なんか一気に静かになったな。ちょっと前まであんなに騒がしかったのに」がらんとした食堂で琴葉姉妹は二人だけの昼食を取っていた。いつもならそれこそ戦場のように騒がしい城内は今はひっそりと静まり返っている。シグルド軍は砂漠の街フィノーラを目指して出撃し、彼らの子供たちのうち半数はオイフェと一緒にイザークへ向かい残り半数はシレジアに預けられた。他にも従軍していた文官から飯炊き係にいたるまでシグルドから解散を伝えられた。これからさらに激しくなる戦いに彼らを巻き込みたくない、戦後シアルフィに来てくれれば再雇用を保証すると。彼らはうなずいて荷造りをしていたがほとんどのものがシグルドに黙って付いて行こうとしていることを茜は知っていた。「私たちもイザークへ行けって言われたけどおねーちゃんはそんなつもりないんでしょ」パスタのようなものを口に運びながら葵が言った。久しぶりに自炊したがこの世界にもすっかり慣れてしまったようでそこそこの味だった。「まあな。葵のそれが使えるようになるのを待つか二人で砂漠を越えるかやけど」茜の目線の先には一本の魔法の杖があった。「ワープの杖は味方の支配する城にしか飛べない魔法的な制約があるからシグルド様がフィノーラを制圧するまではここでお留守番だね」自慢げな顔で杖を突きだしてきた葵を見て茜はふと思った。「なぁ葵、ワープ使ってもそれってどっちかしか飛べんのとちゃう?」葵は固まった。「そ、そうだったね……」「……どっかの行商にでも乗せてもらうかぁ」リューベックからグランベルへのキャラバンは確か存在していたはずだ。出し渋るのなら金貨を握らせればいいだろう。もうすぐ戦いも終わる。これが最後の旅程となるだろう。「ま、二人でゆっくり進むのもええか」その言葉に葵は小さくうなずいた。ワープの杖の出所が不明なので忘れてください。
11:44|2020年11月01日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#22琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37740329 mylist/68640421 次 sm37747710琴葉葵は深くフードを被ってザクソンの裏路地を急ぎ足で進む。時折素早く角を曲がり後をつけられていないか確認した。そうして何度か安全を見極め用心深くとある建物に入った。中は埃っぽく薄暗い。葵が扉を閉めると待っていたように中にいた人物が手を挙げた。「よう妹ちゃん」「遅かったね葵。道に迷ったのかとおいら心配しちゃったよ」傭兵ベオウルフと盗賊の少年デューだ。葵は時間に遅れたことを謝りながら懐から一枚の紙を机の上に取り出した。それを二人は覗き込む。紙にはとある人物のプロフィールが書かれている。グランベルから派遣された役人で成り行きで従軍している者だ。「こいつが内通者ってわけか」「うん。デューくんに調べてもらってたんだけど黒だった。オイフェと相談して流した欺瞞情報がグランベルに筒抜けだったからね」ちょっと確証を得るまで時間がかかっちゃった、と葵は言った。「おいらこいつが変な黒ローブの連中と会ってるとこばっちり見てるからね。エバンスからの付き合いだから安心してたけどすっかり騙されちゃってたね」「で、こいつをやればいいのかい? いつも通り」ベオウルフが腰の剣の柄を撫でる。愛用の剣とは違うグランベルでよく使われるありふれた鋼の剣だ。「うん。何度も頼んで悪いけどおねがい」「殺し屋みたいなことは性に合わないんだがな。ま、嬢ちゃんの頼みだからな。疑うことを知らない我らがボスのために一肌脱ぐとするぜ」そう言ってベオウルフは紙を蝋燭の火で燃やした。今彼の頭の中では標的をどう処理するか段取りを組んでいるところだろう。葵は鞄からずっしりと重い革袋を取り出した。「5万ゴールド。今回の報酬」机に置くとベオウルフが手を伸ばした。だがその手は金ではなく葵の頭の上に乗せられる。「今さら金なんて水臭いぜ。俺たちは一蓮托生、だろ?」「えっ、でも……」「戦場の根無し草も気を絆されちまったってことさ。報酬はこの戦争の勝利、ってところでどうだ?」「ベオウルフはかっこつけなんだから」デューがあきれたように言った。なんて話はないので忘れてください。
10:36|2020年10月31日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#21琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37694614 mylist/68640421 次 sm37743816琴葉姉妹は慌ただしい日々を過ごしていた。シレジアの内乱で混乱しているさなかシグルド軍の中では空前のベビーブームが起こっていたのだ。毎日くたくたになるまで動いてはベッドに倒れ込んで泥のように眠った。出産直後だというのに剣を振ろうとするアイラを押しとどめ、それを横目に壁際で気障な笑みを浮かべているホリンの尻を蹴飛ばしたりした。シレジアでは王太后ラーナがレヴィンの即位式を執り行い、王妃フュリーとその王子の誕生もまた国を挙げて祝われた。エーディンとブリギッドの姉妹もほぼ同時期に母となりその隣には常に愛する者が寄り添っていた。ティルテュの出産は彼女よりも号泣するアゼルのほうが印象深く残っている。彼はきっとレックスにその思い出で一生からかわれ続けるだろう。「母親を知らないあたしが母親になるなんて変なのだよね」シルヴィアは大きくなったお腹をさすりながら呟いた。「そうかな。私はシルヴィアさんはいいお母さんになると思うな。だってシルヴィアさんの笑顔はみんなを元気にしてくれるでしょ。だからきっと生まれてくる赤ちゃんもシルヴィアさんがママでよかったって思うし、シルヴィアさんもその笑顔を見てすっごく元気になれるんじゃないかな」「ありがと。葵は優しいね」すっかり助産師として板についた葵は気取られないように時間を計りながらシルヴィアにリラックスするように促す。お姉ちゃんはまだかな。シルヴィアの夫を呼びに行ってからしばらく経つ。もうそろそろ戻ってくるはずだ。きっとあの人なら彼女の初めての出産の不安も全て受け止めて安心させてあげられるだろう。何度も扉が開く想像を繰り返していたがついに本当に開かれる。「待たせたな。ほれ、お前の嫁を安心させてやるんやで」茜に連れられて彼が現れた。走ってきたのだろう、額に汗がにじんでいる。その様子を見てシルヴィアが笑い、彼もはにかんだ笑顔を見せた。茜がその背中を叩いて言った。「お前がパパになるんやで!」無表情でバルキリーを振ってカリスマを選んだ琴葉姉妹は別の世界線だと思うので忘れてください。
10:44|2020年10月30日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#20琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37675786 mylist/68640421 次 sm37740329琴葉姉妹はシレジアの城下町へ繰り出していた。ザクソンの武力に支配され難民となり雪山を越えようとしていた市民たちもシグルド軍により助けられ、一人も欠けることなく街へ戻ることができた。ラーナ王妃が直々に出迎えると人々は感涙しシグルドたちには感謝の言葉を送った。「人的損害が出とらんのは大きかったな」「そうだね。もし市民に被害が出ていたらたぶん暖かい言葉だけじゃなかっただろうね。それにこれからだよ」シレジアの市場を散策しながら二人は話していた。まだ人通りは少ないが直に元の活気を取り戻すだろう。「私がもし敵なら人々の間にシグルド様のせいでシレジアは襲われたという噂を流すもん。シグルド様の敵はそういう搦め手を使える相手だから」「分断工作か。ま、勝って兜の緒を締めよやな」今シグルドたちはザクソンへ向けて進軍している頃だろう。シレジアの都市をこれ以上戦火に巻き込むわけにはいかない。できるだけ離れた場所で戦いたいと気遣っているはずだ。茜が東の空を見上げていると葵が袖を引っ張った。「ほら見てお姉ちゃん。やっぱりシレジアは食べ物の多くを輸入に頼ってるんだよ」市場に並んだ小麦やカボチャのような作物はどれも値段が高い。国土の多くが山地であり寒冷地のシレジアは農業には適さない土地なのだ。「全く取れないってわけやないけど厳しいんやろな」「一応用意したけどお芋さんの苗。これを琴葉商会を通して広めていこうと思ってるの。でもやっぱり限度があると思うから牧畜や資源開発も手を付けたいところだよね。この世界魔法に頼りすぎで石油とか誰も見向きもしてなさそうだし」「ペガサスで運送業なんてのもありやろ。ペガサス印のペガサス便でーす、ってな」「いいねそれ。でもどれも戦争が終わってからだろうね」はやく平和になればいいのに。葵の言葉は風に乗って消えた。NAISEIしすぎて目的を見失ってる葵ちゃんはいないと思うので忘れてください。
12:30|2020年10月19日 23:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#19琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37662661 mylist/68640421 次 sm37694614琴葉姉妹はトーヴェ城の一室へオイフェに案内された。応接間であるそこは豪華な美術品が並び城主の力を誇示したいという意思が明け透けだった。もっとも、もう城主はいないのだが。「この子は?」小さな子供がソファーに行儀よく座っている。身なりから上流階級出身であることがうかがい知れた。だがその表情は硬く両手を閉じた膝の上に押し付けるように縮こまっている。「ディートバ将軍の娘だそうです」扱いに困っていまして、とオイフェは言った。二人は口を閉ざしたままの少女に無理やりコートを着せると強引に外へ連れ出した。雪を払って手近なベンチに座らせると葵は雪を丸めて赤い木の実をくっつけた。「はい、うさぎさんだよ」それを見て少女は目を丸くした。葵がもう一匹隣に並べてやると少女は葵とウサギを見比べてゆっくりと口を動かした。「おねーちゃんと同じ色の目」「やっと笑ってくれたね。一緒に作ろ!」遠くで雪だるまを作ろうとしていた茜はそれをみて大きな雪うさぎに作り替えることにした。途中からは三人で一緒に作った。「お前のかーちゃんは立派な騎士やった。ディートバは天馬騎士として一歩も退かんかったで」夕方になってようやく巨大雪うさぎは完成した。三人とも頬が真っ赤に上気している。「シグルドを恨んでもいい。でも二人とも守りたいもののために戦ったんや。戦いたくて戦ったんやない。それだけは知っといてくれな。シグルドは自分の正義のため、ディートバは天馬騎士の誇りのためにな。だからお前もおっきくなったら守りたいもんを守るために戦うんやで」少女は目に涙を溜めたがこぼすのは堪えた。葵が後ろから抱いてそっと頭を撫でた。「……でも上司は選んだ方がええな」翌日腹部をくりぬいてかまくらにされた雪像はいないと思うので忘れてください。
11:45|2020年10月16日 06:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#18琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37646651 mylist/68640421 次sm37675786 琴葉葵は夜のセイレーン城に響く旋律に目を覚ました。どこからか聞こえる弦楽器の物悲しい音色は不思議なほど夜に馴染み、まるで最初からそこにあったようにすら感じる。葵がベッドの上で体を起こすとつられるように茜も起き上がった。窓から差し込む月明りに照らされた廊下は深夜だというのに蝋燭がいらないほどに明るい。二人は誘われるように音のする方へ歩き出した。「悪い、起こしてしまったか」ギターにもハープにも見える楽器を演奏する手を止めてレヴィンは謝った。昼間は城下町を見渡せるバルコニーからは今は満天の星々が望めた。葵は月光にまぶしそうに目を細めるレヴィンに言った。「文句を言いに来たんじゃなくて逆です。もっと近くで聞きたくてここまで。ね、おねーちゃん」「せやな。さすが王子ほっぽり出して音楽で食っていこうとしてただけあるで。一曲聞きたいなー? おひねりは出んけど」そう言うとレヴィンは一瞬驚いた顔をしてから苦笑した。「ははっ、誉め言葉として受け取っておくぜ。美人姉妹にそうせがまれちゃおれだってやる気になるさ」レヴィンは楽器のペグを回しチューニングをする。「レヴィン王子って好きな人いるんですか」何気なく放たれたその一言にレヴィンは硬直し茜はすごい勢いで首だけ回して葵を見た。「フュリーさんもシルヴィアさんもきっとレヴィン王子のことが好きですよ。それにたぶんマーニャさんも」葵の言葉にレヴィンは手すりにもたれて空を仰ぎ見た。視界の端で茜が安堵のため息をついていた。「おれだってわかってるさ。いつまでもこうしていられないことくらい」レヴィン王子は優しい人だ。優しすぎて誰も傷つけたくなくて国を出たのだ。だから恋人を決めるのもつらいのだろう。誰かを選ぶことは誰かを選ばないことだからだ。レヴィンは返事の代わりに弦を弾いた。それはシレジアの星空のように美しく、降り積もる雪のように切ない音色だった。この姉妹は恋バナで夜更かししたりしないので忘れてください。
10:56|2020年10月13日 07:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#17琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37632683 mylist/68640421 次 sm37662661「シレジア四天馬騎士ってなんか響きがかっこええな」琴葉茜は寒さにかじかんだ手に息を吹きかけながら言った。「シレジアではペガサスをうまく扱える者が年齢に関わらず部下を率いるのです。その……と、特に秀でた四人がそれぞれの城の天馬騎士団を率いていて……」フュリーは愛馬を慣れた手つきで撫でながら厩舎へ入れる。それにペガサスは大人しく従い、素人目の茜から見ても信頼で結ばれているようだった。「やっぱあれか。ククク、やつはシレジア四天馬騎士の中でも最弱……みたいなやつあるんか?」自分でもいつも場当たり的な生き方してるなと思う茜だがその時ばかりは冗談のつもりで言った言葉を本気でなかったことにしたかった。「……私です。四天馬騎士最弱は私なのです。他の三人には一度も勝てたことがありません」うつむいたフュリーが呟いた言葉に茜は自分が地雷を踏み抜いたことを察した。「部下もまともに統率できず迷惑をかけてばかりで……私はダメなんです。お姉さまに遠慮してシルヴィアに遠慮してほかの人のことは信じるのに自分には嘘をついて。戦場でもいつも独りぼっちだし……。だからこの子に……ペガサスに愚痴を言うことしかできなくて」手綱を持ちながら肩を震わせるフュリーにペガサスがそっと涙をぬぐうように顔を寄せた。「変なこと言ってごめんな。せやからな、そんな泣くなって。ほら、クッキーやるから泣き止んでな」クッキーを食べると落ち着いたのかフュリーはすみません、と小さく謝った。「うちはフュリーがそんなダメな子やとは思わんで。シグルドもレヴィンもみんな頼りにしてるし信じてるんや。だからフュリーも自分に自信もってな?」「茜さんは不思議な人ですね。心の中の不安が嘘みたいにすっきりしました。このクッキー……おいしかったのでまた自分に自信が持てなくなったら食べに来てもいいですか?」クッキーは使ってもなくならないので忘れてください。
10:51|2020年10月10日 02:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#16琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37613208 mylist/68640421 次 sm37646651「エルトお兄様は生き返せない!? どうしてなのですクロード様ッ!」掴みかかろうとするラケシスを琴葉葵は後ろから抱きしめるように止めた。振りほどこうとする少女の華奢な体とは思えない力強さに思わず止める腕にも力が入る。「エルトシャン王のエーギルはすでに天へ還ってしまわれたのです。生命が留まることをやめた……すなわち生きることをやめてしまわれたのです」「そんなことないッ! お兄様がそんな……あきらめてしまわれるなんて……ッ」支えを失ったようにラケシスは崩れ落ちた。オーガヒルの暗い夜に潮騒と少女の慟哭だけが響く。何か声をかけてあげたい、でもこんな時に出てくるのはどれも他人事のように聞こえる上っ面の言葉ばかりだ。ひとまず自室へ送ってあげないと。ラケシスの肩に触れようとした時、それに先んじて誰かが駆け寄った。フィンだった。子供のように泣きわめく彼女を抱きしめ、腕に爪を立てられても八つ当たりのように胸を叩かれてもフィンはそれを優しく受け入れた。「エルトシャン王はあきらめたのではありません。ラケシス様、あなたに託したのです。アグストリアの未来を。だから満足して天へ還った。私は僭越ながらそう思います」二人が寄り添って部屋へ消えるのを見守りながら葵は無意識に取っていた手を握って言った。「ねぇおねーちゃん、今日は一緒に寝てもいい?」「しゃーないな。こんな夜は誰だって独りぼっちはさみしくなるもんな」掛け布団を全部奪われて眠れない夜を過ごす茜ちゃんはいなかったと思うので忘れてください。
10:39|2020年10月07日 00:30:00 投稿
【聖戦の系譜】#15琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37599016 mylist/68640421 次 sm37632683とある日の昼下がり、琴葉茜は見知った後ろ姿をアグスティの裏通りで見つけた。「こんなところで二人で何しとるん?」「なんだ茜か。これからアゼルと二人で闘技場へ行くところさ。暇ならお前も一緒に行くか?」通りを親指で示すレックスに二つ返事でホイホイついて行く。「レックスとアゼルは幼馴染で親友なんやっけ」「親友だなんてそんな気恥しいもんじゃないさ。ただの腐れ縁ってやつだ」「はは、ぼくは大切な親友だと思ってるけどね」「お前はエーディン公女以外なら素直になれるんだな」「ば、ばか! 何をいきなり……」仲良く喧嘩をしだした二人に茜は何とも言えない笑みを浮かべるしかない。青髪と赤髪という親近感を覚える組み合わせだからなのか、茜はこの二人が嫌いではなかった。「やっぱ昔からの仲ってなんかええな」その言葉にアゼルは少し遠くを見て何かを思い出しているようだった。「実は僕たちにはもう一人幼馴染がいるんだ。元気な女の子でいつもみんなを明るくしてくれて」「おいおいあいつはお前の幼馴染で俺はただの腐れ縁だ」「あの子は戦いとか策謀とかそういう世界とは無縁なところにいてもらいたいなって思うんだ。騙すのが当たり前の貴族の社会ではあまりに無防備すぎて、いつかひどい目にあわされるんじゃないかっていつも心配で。ティルテュっていうんだけどねその子……」茜が何かを言おうと口を開きかけたがそれはアゼルの肩を抱き寄せるレックスに遮られる。「俺たちがあいつが安心できる場所を作ってやればいいだけさ。簡単な話さ。何があっても守れるくらい強くなってそばにいてやればいい。さぁ闘技場で鍛えに行こうぜ」「……レックス、きみは本当にいい男だよ」男二人の熱い友情を横目に茜は虚空に呟いた。「これ三人なのに二人で盛り上がってるやつや……」勝手にいなくなった姉を探し回る葵ちゃんはいなかったと思うので忘れてください。
10:26|2020年10月03日 09:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#14琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37589879 mylist/68640421 次 sm37613208「おめでとうございます、元気な男の子ですよ!」琴葉葵はまさか自分がこんなセリフを言う機会があるなんてね、と思いながら取り上げた赤子を母親に抱かせた。わずかに生えた青い髪の赤子は大きな声で泣きながら小さな体を動かしている。それを優しく撫でながらディアドラは憔悴していることを忘れたように優しい笑みを浮かべていた。慌てふためいてはエスリンに叱られていたシグルドも一大事が無事に終わったことにいつもの落ち着きを取り戻しつつあった。ポラロイドがあったら一枚失礼して『幸せ』というタイトルでもつけて飾ったのにな、と葵は思った。「赤ちゃんってこんなにちっちゃいんだね」怒涛のように日々は流れ、セリスのお披露目も済んだある日のことだった。葵が姉と一緒にセリスを抱いたディアドラと城内を散歩しているとシャナンが駆け寄ってきた。「触ってもいい?」「優しくね」シャナンは手を伸ばしたがその手が横から掴まれる。「おいおいシャナン、さっきまで外で剣振ってたんやろ。セリスに触るならちゃんと手を洗って綺麗にしてからにしてな」「ちぇっ、わかったよ茜姉ちゃん」「シャナンくんにとってはセリスちゃんは弟みたいなものだもん。大事にしなきゃね」葵がそう言うとシャナンは大きな返事をしてうなずいた。「ぼくもアイラもシグルド様に救ってもらったんだ。だからぼくがぜったいセリスもディアドラ様も守ってあげるからね! 剣聖オードに誓って!」「ならまずは茜おねーちゃんに一本取れるようにならんとな。ほれ、稽古つけてやるで」その言葉にシャナンはセリスの髪のように顔を青くした。という一幕はなかったと思うので忘れてください。
10:53|2020年09月30日 08:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#13琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37236419 mylist/68640421 次 sm37599016アグスティを制圧したシグルドはエルトシャンとの一年間の不戦条約を結んだ。この約束が果たされたならアグストリアを占領しているグランベル軍は撤退する。「アグストリアにとっては良すぎるほどの条件やと思うんやけどなぁ」「アグストリアにはもう国を治める人がいないんだよ。残ってるのはシャガール王とエルトシャン王だけ」琴葉姉妹はアグスティの城下町にある喫茶店でお茶を楽しんでいた。この世界に来てから早いものでもう半年が経つ。異なる文化や常識に戸惑っていた頃とは違い『喫茶店デート』くらいはできるようになった。城で出されるものとは違った味のお茶を楽しむ余裕もある。つまり平和だった。「反グランベルなんはシャガールだけでエルトシャンはどっちかっていうと友好的なもんやと思っとったんやけど」「エルトシャンさんはシャガールに逆らえないんだよ。本来アグストリアの王家に伝わるはずの神器ミストルティンが分家のノディオンに聖痕が出ちゃったからそっちに引き継がれたんよね。神器と王家のねじれが起っちゃったから下手なことしたら国が割れるでしょ。どっちが正当な王家かって」「それを防ぐためにノディオンは王家を立ててうちらは下です、ってやってきたんか。せめて王がシャガールやなければどうとでもなったと思うのにな」「ほんとにね」溜息をつきたくなる話の後味を消すように葵はカップに口を付けてから一枚の紙を取り出した。「これは?」「琴葉商会の登記申請書」「この世界でも登記申請とかあるんか」「ううん、なかったから作ったの。こんなの出されたらびっくりして許可出しちゃうと思って。ないのならやったもん勝ちだからね」「大丈夫なんかほんま……それで何する会社なん?」「今はグランベルの役人がマッキリーとか地方の町扱いで統治してるんだけど人手が足りてないみたいで色々適当なんだよね。だからそのお手伝いしますよ、色々とね……っていう感じかな!」という話はなかったと思うので忘れてください。
11:36|2020年09月28日 06:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#12琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37217006 mylist/68640421 次 sm37589879「お兄様はいつもそう。周りの人のことを何も考えないし他人の意見も聞かない。いつも自分勝手で私はいつも振り回されていましたの」「意地っ張りで理屈屋で誰にも相談せずに大事なことを決めていつも私には許せの一言だけ。格好悪いところを見せられないからって夜遅くまで政務でフラフラなのに見栄を張って訓練して部屋に帰るなり倒れたり」「いつも私に心配ばかりかけてるのに済まなそうな顔をするのはその時だけ。そのくせ私が体調を崩したら大事な仕事も放り出して看病に来るんですもの」「嫌いな野菜は食べなければいいのにいつもしかめ面をしながら無理に食べるし、深刻な顔をして何かと思ったら記念日にお義姉さまに送るプレゼントが決まらずに困っているなんて私に泣きついてくるの」「本当に馬鹿で頑固で……大好きな、私の、お兄様」マッキリー城を制圧してアグストリアも残すはアグスティだけになった。エルトシャンは無事でいるだろうか。気丈に振舞ってはいたがラケシスも疲れているのだろう。一度口を開いたら堰を切ったように言葉が溢れていた。「大丈夫ですよ。きっとエルトシャンさんは無事です。だってシグルド様が助けに向かってるんですから」葵がラケシスの肩にそっと触れながら優しく言った。震える細い体は一国の姫ではなくどこにでもいる一人の少女だった。「ラケシスさんはお兄様のことが本当に好きなんですね。私もお姉ちゃんのことが好きです。この気持ちだけは誰にも負けない自信はあります。世界中の誰よりも」ラケシスがぽかんとした顔を向ける。それに不敵な笑顔を返して葵は言った。「ね、ラケシスさん。順番にエルトシャンさんとお姉ちゃんの好きなところ言っていきませんか。そうすればきっと嫌なことなんて忘れて幸せなことだけで胸がいっぱいになりますよ。どうですか」「葵さん、あなたは不思議な人ね。ふふっ、負けないわよ」その日、夜遅くまでラケシスの部屋から笑い声が絶えることはなかったという。というのは妄想なので忘れてください。
11:28|2020年07月24日 04:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#11琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37170342 mylist/68640421 次sm37236419ノディオンの城下を一望できる部屋で琴葉姉妹は優雅なティータイムを楽しんでいた。エルトシャン王が捕縛されている今指揮を執るものは妹姫であり王妃である。魔剣を有する国だが剣を持って斬り合うだけが戦いではない。情報をやりとりし戦況を見極め友好を深める。戦いは過程であり手段にすぎない。政治こそが結果なのだ。もはやアグストリアはシャガール派で占められノディオンだけが孤立している状態だ。グランベルに属するシグルドに助けを求めなければいけなくなった時点でノディオンに与えられた選択肢は多くはない。グランベルと手を組むことになった以上シグルドにはうまく立ち回ってもらわねばならない。「グラーニェ様はそんな風にお考えなんですよね」ゆっくりとカップを置きながら葵は言った。向かいに座った王妃グラーニェはこわばった面持ちで落ち着かない様子だった。「そんなに緊張せずとも大丈夫ですよ。私たちは――」その時赤ん坊の泣き声が部屋を満たした。部屋の隅で赤子を抱いていた乳母が慌てたようにあやす。「ごめんなさい。気を散らしてしまいましたわね」「いえ、私たちもここに外交に来たわけじゃないですから。シグルド様はそんなに難しく考えていないですよ。きっと不安であろうグラーニェ様とラケシス様の話し相手に、くらいのつもりだと思います」「うちな、赤ちゃんあやすの得意やねん。見ててな」茜が小走りに寄ると乳母は戸惑いながらそっと赤ん坊を差し出した。「うちとにらめっこして勝ったやつおらんからな。くらえ、かべがおの真似!」だが赤ん坊は泣きやむどころか恐怖にとらわれたように勢いを増して泣いてしまった。「おい泣くな、男やろ。あれ、男の子やったよな?」「ええ。アレスといいますの。抱いてみますか?」「ええんか、っておい、なんでお前うちが近づくと泣くねん!」「あはは、お姉ちゃんすっかり怖がられちゃったね。ほらアレス、葵お姉ちゃんですよ」葵の腕の中でどこを見ているのかわからない瞳を瞬かせて赤子は泣きやんだ。「もしかして同じ顔が二人いるからびっくりして泣き止んだんか。こっちが葵でこっちが茜やからな。しっかり見てちゃんと覚えとくんやでー?」という一幕はたぶんなかったと思うので忘れてください。
10:51|2020年07月20日 05:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#10琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
挿入歌は盟友スフレさんからお借りしました。https://twitter.com/suflekotonoha/status/1280776510882762752リスペクト元sm36411397元ネタsm18258096前sm37156214 mylist/68640421 次 sm37217006ノディオン城は平地に建てられた城だ。アグストリアとグランベルを結ぶ要衝に拠点を構えたそれはきらびやかさよりも武骨な印象を受ける。ノディオンはもともと大きな力をもった国ではなかったというオイフェの言葉を思い出しながら琴葉姉妹は城下町を歩いていた。すぐそばで行われた防衛戦はすでに主戦場から離れ今は混乱も落ち着きつつあった。城下町の往来には兵士がよく目についたが商人はそれを気にせず声を張り上げ客を呼び込む。たくましい国だ、と琴葉葵は思った。「お兄様の国ですから。いつでも戦いには備えていました」そう言ったのはラケシス姫だ。シグルドがハイラインを攻める間防御に不安が残るこの城に信頼できる部下とともに姉妹にとどまってくれと頼んだのだ。その結果ラケシスが謝礼代わりに自ら城下町を案内してくれると言ったのだ。もちろん護衛の騎士が周りを固めていてかなり物々しい見た目になってしまったのだが。「周りは畑だし守りには向かないところですよね」「ええ。シグルド様がたが来てくださらなかったらきっとここは焼き払われていたでしょうね」城へ向かう大通りから城下町を見つめてラケシスは言った。その目は遠くを見つめていたが、彼女の目にはここにいない誰かが映っていることが葵にはわかった。ラケシスが振り返って葵の後ろへ声をかける。「あなたも助けに来てくれてありがとう」「いえ、主命ですからレンスター騎士として当然のことをしたまでです」「まあ、あなたはレンスターの方なのね。よかったらお城で話を聞かせてもらえないかしら。きっとグラーニェお義姉様も喜ぶわ」はじけるような笑顔を見せてその手を取ると、動揺したのかフィンはぎこちなく礼をした。「おねーちゃん、あの二人なんかよくない」「せやな、馬に蹴られんようにしとかんとな」歯を見せて笑う茜に葵はこう思わずにいられなかった。「……人の恋にはすぐ気が付くのに自分のことになると急に鈍感になるんだから」というのは全部妄想なので忘れてください。
10:47|2020年07月11日 03:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#9琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37137783 mylist/68640421 次 sm37170342ノディオンからの救援にシグルド軍は慌ただしく動いていた。ヴェルダンでの戦いから休む間もなく次の戦いだ。疲れもたまっているはずの騎士たちだが誰一人として不平は言わない練度の高さに茜は顔には出さないが感心していた。ヴェルダンとは違い本格的な騎士同士の戦争になるというのに怖くはないのだろうか。他国の領地を進軍するため伸びる補給線に兵站はうまく機能するだろうか。考えれば考えるほど不安要素はたくさんある。騎士同士の戦いならまだいい。敵が村人に紛れて襲ったり休息時間を執拗に狙うゲリラ戦術や民衆を扇動して暴動を起こされたりはしないだろうか。そういう話をオイフェにしたところ意外な答えが返ってきた。「騎士の士気が高いのは単純な理由ですよ。助けを求めているのがラケシス姫だからです」「ラケシスってエルトシャン王の妹か」「はい。あの、つまり、ラケシス様が美人だからです」オイフェはうつむきがちに言った。その耳は少し赤い。「なるほどなぁ。そんな理由でやる気が出るなら安上りで助かるな」茜は思わず苦笑した。「でも、その、茜さんと葵さん、お二人もその……」顔を赤くしながらオイフェは口ごもった。まるで好きな子に告白する中学生みたいやな、と茜は思った。「お二人もとてもきれいな方なので……いいところを見せようという軍の士気高揚に一役買っておられまして……」急にそんなことを言われて照れない人間がいるだろうか。茜は頬が熱くなるのを感じながらごまかすようにオイフェの肩に腕を回した。「そかそかー。うちらは美人さんかー。よっしゃ気分がいいから今日はクッキー作ってやるで! 作るの二回目やから今度は失敗しないはずや! 楽しみにしててな!」その日の午後オイフェの元にクッキーだというものが届けられたがその味を聞かれると彼はうわごとのようにこう呟いたという。「……砂って食べられるんですね」という展開はたぶんなかったはずなので忘れてください。
10:18|2020年07月08日 01:30:00 投稿
【聖戦の系譜】#8琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37121216 mylist/68640421 次 sm37156214ヴェルダン城では半旗が掲げられバトゥ王の葬儀がしめやかに行われた。あいにくの雨だったが参列者は誰一人としてそれを気にしている様子はなかった。グランベルに対する反逆者として処理されるはずだった彼を王のまま送ることができたのはシグルドの心遣いとジャムカの嘆願によるものだ。グランベル本国から役人が送られてきてからではこうはいかなかっただろう。「シグルド様を侵略者だって言う人が誰もいないのはちょっと意外だったなぁ」琴葉姉妹はヴェルダン城の執務室にいた。ヴェルダンでいったい何が起こっていたのか、その手掛かりがないかと探しに来たのだ。「みんなわかっとったんやろな。バトゥがサンディマに操られとったんやって」ヴェルダンは国として無くなるが王位継承権のあるジャムカが生きていることは人々の希望にもなる。シグルドがジャムカを仲間に入れたのはそういった打算からではないが彼には無自覚に民衆を味方につける才能があるのだろう。もし何かがあったときはヴェルダンはグランベルではなくシグルドの味方に付くはずだ。「そうやろ、オイフェ」「はい。シグルド様には自由にしてもらってその後始末をするのが僕の役目ですから」バトゥ王の最後の言葉をオイフェは忘れることができなかった。暗黒教団。いったいどこまでその魔の手は伸びているのだろうか。「まさかイザークの暴走から全部仕組まれているなんてことないよね」葵が不安そうな顔で言った。「わかりません。もしすべてが最初から仕組まれていたとしたら――」そこでオイフェは一度言葉を区切った。ヴェルダンの長雨が窓を打つ音だけが響く。「――この戦いはまだまだ続くでしょうね」というのは妄想なので忘れてください。
10:47|2020年07月04日 21:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#7琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37107425 mylist/68640421 次 sm37137783ヴェルダン城の眼下に広がる大森林。琴葉姉妹は行軍から外れ鬱蒼とした獣道を歩いていた。「本当にこっちであってるのお姉ちゃん」「間違いないで。少しずつやけど地面が人の足跡で踏み固められて来てるしな。聖者マイラの隠れ里はもうすぐや」二人は元の世界へ帰る方法を探していたがその手掛かりとして聖戦士の力が鍵なのではというオイフェの話を聞いてマイラの里を目指していた。わずかに覗く地面を見ながらしばらく歩くと急に森が開け緑の天蓋から光がこぼれた。小さな集落だった。木組みの家の窓や物陰から視線を感じる。外からの人などめったに来ない場所なのだろう。警戒と恐怖が入り混じった感情がこちらにまで流れ込んでくるようだった。二人は居心地の悪さを感じたが意を決して歩き出した。「ごめんください、琴葉と申しますけどちょっとお話聞かせてもらえませんかね」茜の声掛けに答える人は誰もいなかった。コミュ力に自信があっても取り付く島がなければどうにもならない。そう思ってあきらめかけた時だった。洗濯籠を抱えた銀髪の娘がこちらへ小走りに向かってきた。その姿には見覚えがある。ディアドラという名の娘だ。「あの、あなた方はシグルド様のお連れの方ですよね。シグルド様が来ていらっしゃるのですか。お願いです。私をシグルド様のもとへ連れて行ってください」二人は顔を見合わせた。「私たちは構いませんけど、その、道すがら聖者マイラについて教えていただければ」「わかりました。私の知っていることでよければ。どうしてもシグルド様にもう一度お会いしたいんです……」うつむくその表情は見ているこちらまで恥ずかしくなるくらい真っ赤だった。「見かけによらず積極的な子やなぁ。自分に正直に生きるのってなかなか難しいもんやけどな……」つぶやいた言葉は木々のざわめきに消えていった。なんてことはなかったと思うので忘れてください。
10:18|2020年07月01日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#6琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37091758 mylist/68640421 次 sm37121216琴葉姉妹はヴェルダンの湖のほとりにある村に来ていた。領主の息子キンボイスが略奪を繰り返していたというその村は、今では圧政から解放された人々が期待に満ちた表情で未来を語っていた。グランベルの都会へ行って一旗揚げてやるんだ、街へ行っておいしいものをたくさん食べたい、ヴェルダンの木材で作った良質な家具で一儲けするぞ。そんな湧き上がる人々の横を抜けて二人は美しい湖を臨む桟橋で釣り糸を垂らしていた。ただの食っちゃ寝だけの居候でいるのは忍びないという葵からの提案だったが茜も退屈な城での生活に飽きていたため二つ返事で同行することにした。「本当は釣りじゃなくて住民の駐留軍に対する反応を調べようと思って出て来たんだけどね」「まーせっかくこうしてのんびりできるんやからええやろ」「そうだね。調べるまでもなく良好な関係が築けてるってわかったし」「オイフェも忙しそうやからな。まだ子供なのにこき使われてるで」「シグルド軍には貴重な文官仕事ができる人材だからね。仕方ないよ。それにオイフェも張り切ってるしね」その時茜の釣り糸がピクリと引いた。茜はにやりと口角を上げるとゆっくりと糸を巻き上げる。隣で葵が期待に満ちた表情を向ける。なかなかの重量の手ごたえだった。透き通った水底からゆっくりとその姿が浮かび上がる。「って斧かい。なんでこんなんが釣れんねん!」「ヴェルダンの人が落としたのかな。すごい錆びてるね」「はー、こんなんキャッチアンドリリースや、そぉい!」「あー環境破壊」美しい放物線を描いて錆びた斧は湖に落ちた。茜は肩を落としながらもう一度釣り糸を垂らすと、水面が不自然に揺れ波立つのに気付いた。「おねーちゃん、なんか出て来たよ」「なんや主でも出て来たんか」胡乱げな表情で眺めていると水面から妙齢の女性が浮かび上がって来た。水の中から出て来たというのにその髪も服も一切濡れていない。それだけではなく当たり前のように裸足で水面に立っていることが普通の人間ではないことを示していた。「あなたが落としたのはこの金の斧ですか。それともこの銀の斧ですか?」「え、なにこれ」「もしかして湖の精霊」「これあれやろ正直に答えると金の斧も銀の斧も両方もらえるやつ」「え、でもおねーちゃん自分のでもない斧を投げ捨てておいてご褒美もらおうとするのはちょっとさすがに図々しくない?」「っていっても落としたのは間違いないで。でもちょっとうちのゲーマー魂がわざと間違えた選択肢の先を見たいって囁くんや。許せ葵。うちの落としたのはその超豪華な金の斧です! 返してください!」「おねーちゃん!?」というイベントは未実装なので忘れてください。
11:02|2020年06月28日 23:30:00 投稿
【聖戦の系譜】#5琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37075287 mylist/68640421 次sm37107425破竹の勢いでエバンス城を落としたシグルド軍は束の間の休息として祝勝パーティを開いていた。蛮族から救ってくれた礼として近隣の村から集められた酒や料理が所狭しと並んでいる。エバンスの人々によるとエバンスはグランベルとアグストリア両国との交易が盛んで栄えているがヴェルダン領であることが不満だったという。領主一族の気分によって税が余分に持っていかれるのだ。儲けられるのに儲けても仕方がない、そうあきらめていたところにグランベルの進駐である。まともな法治国家の下で商売をできることだけで人々はヴェルダンからの解放を喜んでいた。琴葉葵はヴェルダンの美しい自然を利用した観光業や貸別荘などの宿泊ビジネスを商人たちに話すと、人々は葵をまるで神様でも見るように敬い始めた。話が話を呼びいつのまにか葵を中心に人だかりができていた。「葵の握手会みたいやな」それを遠目にしながら琴葉茜はシグルドと話をしていた。この戦いはどこまで続くのか、落としどころはどこか。戦いは次の戦いの火種になることを元の世界の歴史で茜は知っていた。シグルドはイザーク征伐が終われば本国から増援と交代が来るからそれと入れ替われば再び平穏に暮らせるようになるだろうと言った。エーディンさえ取り戻せばそれ以上シグルドに戦う意思はない。「――だけどなシグルド、」茜は言いかけたが酒を片手にシグルドに絡みに来たアレク達に遮られてしまった。楽しそうに笑う彼らを見て茜はそれ以上言い出せなかった。――大義名分を得た大国は簡単に止まれない。そして周りの国はそれを許容しないということを。なんて設定は全くないので忘れてください。琴葉スウィートホームmylist/68236991琴葉サクナヒメmylist/69922158
10:49|2020年06月26日 04:30:00 投稿
【聖戦の系譜】#4琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37058347 mylist/68640421 次 sm37091758隣国ヴェルダンが同盟を破りユングヴィに侵攻した。その知らせは物理的な衝撃を持って琴葉姉妹を襲った。夜明けの薄暗い闇の中で眠っていた二人を必死の形相をしたオイフェがたたき起こしたのだ。「ユングヴィはすでに落ちました。次にヴェルダンが狙うのはここシアルフィです」主力部隊がイザークへ遠征に行っているグランベルの公国はどこも守りが手薄でシアルフィも例外ではない。大群に攻め込まれたら城の防衛もままならないという。「最小限の守りだけを残し打って出るしかありません。電撃戦で敵将の首級を上げるんです。ぼくはシグルド様にお会いしてきます」お二人は客分です、避難の準備だけはしておいてください。そう言うとオイフェは慌ただしく去っていった。「どう思う葵?」「隣国が攻めてきたんだよね。私の勘だと――」「物語が動き出した。そうやろ?」「うん。何かが大きく動き出そうとしてる、そんな予感がするんだ」窓から見える丘陵の向こうからは黒い煙が上がっている。村が襲われているのだろう。「うちの直感も告げてるで。元の世界に戻るにはシグルドに付いていけとな。でも同じようにつらい戦いになるってこともわかるんや。なあ葵、うちは葵を危険な目に合わせたくない。でも一緒に家へ帰りたい。どうしたらええと思う?」茜が目を伏せる。その力なく下がった手を葵は掴んだ。「決まってるでしょ。お姉ちゃんが私を守る、私がお姉ちゃんを守る。二人ならどんなところへだって行けるよ」――そうでしょ? その力強い瞳を見て、愚問やったな、と茜は思った。「よっしゃ、いっちょシグルドを助けてついでに世界も救ったるか。うちらの力をこのユグドラル大陸にも轟かせてやるで!」という展開はたぶんなかったので忘れてください。琴葉スウィートホームmylist/68236991琴葉サクナヒメmylist/69922158
10:33|2020年06月22日 22:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#3琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37042525 mylist/68640421 次sm37075287琴葉姉妹がシアルフィ城で生活を始めてから一週間が過ぎた。茜は騎士訓練場を覗いて汗を流す騎士たちに軽口を飛ばしつつ激励したりしていた。シアルフィの騎士も案外ノリのいい人が多く茜が自然にやる気を引き出させているというオイフェの報告をシグルドは感心するように聞いた。葵は城下町を散策して元の世界にはない魔導書や杖に興味を抱いていた。ワープの杖を利用した情報の伝達方法や運送業の提案を聞いたときはオイフェも思わずうなってしまった。武力よりも経済が大事だということを力説されたときは苦笑いするしかなかったが。手隙の騎士が葵の護衛をしていたが、女っ気のない騎士にとって毒だったのか気立てもよく見た目も美しい葵の近くへ行こうと立候補まで出る始末だった。そんな彼らの前にはいつも茜が立ちふさがった。「葵の護衛を任せられるのはうちに勝てるやつだけな」訓練用の木剣を手にした茜はまるでいくつもの死線を潜り抜けてきた戦士のように強かった。こんな年端も行かない少女がいったいどこでこんな戦闘技術を手に入れたのだろうとオイフェは人知れず異世界の常識に戦慄していた。「うちのHPは2000を超えてるんやで。この世界の人はみんな30とか40そこらやろ。あおいもうちと同じくらい強いで。別に、束になってかかってきてもええんやで」「おねがいおねーちゃん、ゲーム脳みたいなこと言うの恥ずかしいからやめて!」というようなことはなかったはずなので忘れてください。呪いの館の脱出に挑んだ記憶mylist/68236991琴葉姉妹が稲作に励むようですmylist/69922158
10:44|2020年06月19日 23:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#2琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
前sm37026283 mylist/68640421 次sm37058347「つまりお偉いさんがみんな騎士様引き連れてお出かけしとるからこんな城がガラガラっちゅーわけなんやな」「簡単に言えばそういうことです」琴葉姉妹はシアルフィ城の執務室でオイフェと向かい合っていた。彼がお人よしのシグルドが連れてきた客人を見極めるつもりなのだということを茜は何となく察していた。だから先手を打ってこちらから切り出すことにした。「隠すことでもないし全部話したるで。うちらが何者かとかどこから来たんかってのを」姉妹の話をオイフェは真剣にうなずき、時折質問をしながら聞いていた。「つまりあなた方姉妹はこの世界の住人ではなく別な世界からやって来たと」「せやな。うちらは元の世界へ帰りたいんやけど方法が分からん」「私たちが出せるのは私たちの世界の知識で、欲しいものは住む場所と元の世界へ帰る方法かな」突拍子もない話だと二人は思ったが、オイフェもまた主君に似てお人よしなのだろう。何かを考える素振りをしていたが結局二人の話を受け入れることにしたのだった。「ともあれ、このユグドラル大陸の常識を持っていないと過ごしづらいでしょう。僕でよければお教えしたいと思いますが、どうですか」「渡りに船やで。たすかる。それめっちゃたすかる」「ありがとうオイフェ。お礼にクッキーあげるね。はい」美人の姉妹に迫られ顔を赤くしてオイフェは恥ずかしそうに笑った。軍師の孫でもそういうとこは年相応なんやな、と茜は思った。という一幕はなかったと思うので忘れてください。琴葉スウィートホームmylist/68236991琴葉サクナヒメmylist/69922158
10:30|2020年06月16日 20:00:00 投稿
【聖戦の系譜】#1琴葉姉妹が聖戦に巻き込まれるようです。【ファイアーエムブレム】
mylist/68640421 次sm37042525気が付いた時、琴葉姉妹は草原にいた。見渡す限りのなだらかな丘陵。さわやかな風が吹き抜け地面についた手を短い草本が柔らかくくすぐる。ここはいったいどこだろう。二人は呆然としながら景色を眺めていた。無意識に互いの手を握りどちらとなく立ち上がろうとした時、遠くから馬のいななきと地を蹴る蹄の音が聞こえてきた。音はあっという間に近付き、二人の目の前に堂々としたその姿を現した。白馬に乗った青い髪の青年だった。後ろには赤と緑の鎧を着た騎士が控える。この青い髪の青年が後ろ二人の主人なのだろうかと茜がぼんやり考えていると、彼は馬から降りてしゃがみ目線を合わせて姉妹に手を差し伸べた。「こんなところに女子だけでいると危ない。村まで送ろう。きみたちはどこから来たんだい」「うちらは、えっと……」「あの、実は私たち、ここがどこかわからなくて」茜と葵がそう言うと彼は困ったように眉根を寄せた。表情を隠すのが苦手なんかもな、と茜は思った。「わかった。なにか訳ありのようだ。しばらくはうちの城で休むといい。その赤い髪と青い髪はヴェルトマーとシアルフィの血が流れているのだろう。貴族の子女を無下にはできないからね」一人で何か合点したようにうなずくと二人の手を取り自分の馬に乗せる。三人分の体重も意に介さずたくましい白馬は駆け出した。「なんやこの人、うちらが何者かとか怪しいやつとか全然疑わんのやな」「でもなんていうか、悪い人じゃなさそう」「ただのお人よしなんかもな」「おいおい、聞こえているよ」三人を乗せた馬は遠くに見える城を目指す。「自己紹介がまだだったね。私はシアルフィ公子シグルド。今は父からあの城の留守を任されている。きみたちを歓迎しよう」という感じの流れはなかったと思うので忘れてください。琴葉スウィートホームmylist/68236991琴葉サクナヒメmylist/69922158
11:10|2020年06月13日 21:00:00 投稿