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<ニュース・コメンタリー>何が何でも外交文書は一切公開しない政府の姿勢は異常としかいいようがない/三木 由希子氏(NPO情報公開クリアリングハウス理事長)
NPO情報公開クリアリングハウスが昨年12月に、日米合同委員会の議事録の公開を求めて国を訴訟したことは既報の通りだが( 「政府は情報公開法の免除規定を拡大解釈している」http://www.videonews.com/press-club/151202-miki/ )、その裁判で政府の外交文書の公開に対する異常な姿勢が明らかになる新たな展開があった。
他でもない、情報公開クリアリングハウスが情報公開を求め、国がこれを頑なに拒否していた文書は、政府が別の裁判で自らの主張を裏付けるために証拠として提出しており、誰でも見られる状態になっていたことが明らかになったのだ。
自己目的の達成のためには公開した文書でありながら、市民からの公開請求に対しては外交文書であることを理由に公開を頑なに拒否するという、政府のダブルスタンダートが明らかになった。
情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長は、外交文書の開示については政府に一定の裁量が認められているが、これは明らかに裁量の濫用だと語った。
日米合同委員会は、在日米軍の幹部と日本政府の幹部が日米地位協定の運用を話し合う秘密会議で、、アメリカ側からは在日米軍の副司令官、参謀長クラスが、日本側は外務省の北米局長を筆頭に、財務、法務、防衛、農水などの幹部が一堂に会し、アメリカ側の要望を日本政府に伝える場とされる。
この会議は、時として日本の国内法を上回る効力を持つ日米地位協定の運用を話し合う場でありながら、その実情も議事録も公表されてこなかった。内容を非公開とする理由について日本政府はこれまで、日米双方の合意がない限り議事録等を公表しないと両国間で取り決められていることをあげてきた。
情報公開クリアリングハウスはその議事録の中から、政府が議事録公表を拒む根拠としている1960年の第一回会議で両国が会議を非公開とすることで合意した部分の部分開示を求めて、国を提訴していた。
9月13日の公判では、原告の情報公開クリアリングハウス側が、国側が別の裁判で証拠として提出していた文書そのものを提出し、国が裁判で自分たちの主張をするためには公開している文書を、情報公開請求に対して非開示とすることの不当性を訴えた。
政府が議事録を公開したのは、沖縄県が米軍演習場を通る県道の共同使用に関する文書の開示を決定したところ、国が開示取り消しを求めて昨年3月に提訴した裁判だった。その裁判で政府は1960年の第一回日米合同委員会の議事録の中から、両国が議事録を非公開とすることで合意したことを示す部分を証拠として提出していた。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>反原発に転じた小泉元首相がイラク戦争の過ちだけは認められない理由
原発の過ちは認められるのに、アメリカの過ちだけはどうしても認められないのだろうか。
小泉純一郎元首相が9月7日、外国特派員協会で講演し、東日本大震災で救援に関わり、その後、健康に異常を来したとされる米兵を支援するため「トモダチ基金」を設立した経緯や、小泉政権時の原発政策やアメリカによるイラク戦争を支持した理由などについて語った。
「原発は安全で安く、クリーンなエネルギーだという専門家の話を信じていた。」
小泉氏はこう語り、首相当時は原発の必要性を信じてこれを推進したが、福島第一原発事故でそれがすべて嘘であることがわかり、反原発に転じたと語った。
専門家に騙されていたためとはいえ、自らの政策の過ちを歯切れよく明確に認め、「原発を推進したことを恥じている」とまで言い切るその姿勢には、歯に衣着せぬ言動で人気を博した元首相の現役時代を彷彿とさせた。
ところが、その小泉氏でも、こと対米外交については、全く話が別のようだ。
政権時、米国によるイラク戦争を支持したことの是非について記者から質問を受けた小泉氏は、日本が反対してもアメリカが戦争を始めることが分かったので、「同盟国としての重要性を重視した」と語り、その後、大量破壊兵器の存在が否定されるなどその正当性が揺らいでいるイラク戦争を支持したことへの自省の念は一切、聞かれなかった。
イラク戦争については、日本と同様にイラク戦争を支持したイギリスで、その後、独立調査委員会(チルコット委員会)が設立され、ブレア首相自身が議会に召喚されて厳しい追及を受けるなど、正当性の無い戦争を支持したことへの厳しい責任追及が行われた。
小泉氏はイギリスでそのような追求があったことは知っていると語りながら、「日本は同盟国としてできることをやったまで」と語るなど、イラク戦争支持については肯定の姿勢を全く崩そうとはしなかった。
原発については、自らの判断が誤っていたことを全面的に認めながら、その後、全ての根拠が否定されたイラク戦争を支持したことの過ちだけは認められないのはなぜか。イラク戦争支持の過ちを認めれば、アメリカが間違っていたことを認めることになるからなのか。
日本の政治風土における原発政策と対米政策の次元の違いを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>民進党は政策論争をしている場合なのか
民進党の代表選挙が公示された。
立候補した蓮舫参院議員、前原誠司衆院議員、玉木雄一郎衆院議員の3候補は、9月2日に行われた討論会で、「党の立て直し」を共通認識としてたうえで、野党共闘やTPPに対する姿勢やアベノミクスへの評価などの政策での違いをアピールした。
台湾人の父を持つ女性候補者の蓮舫氏や、元財務官僚で当選3回の若手である玉木氏が、若手の自分らが代表になれば民進党が変わったことが証明できるとアピールしたほか、民主党政権失敗の「戦犯」を自認する前原氏は、失敗を認めた上で土下座して出直すと語るなど、それぞれの立場から代表選への抱負を語った。
候補者が出揃い、9月15日の投開票に向けて論戦を繰り広げることになるが、どうも世間の目は民進党に向いていない。それは一重に、民進党が有権者から、再び政権を担える政党に生まれ変わったとは思われていないからだ。
過去3年あまり選挙に負け続けてきた旧民主党、そして民進党では、選挙に負けるたびに解党的出直しの必要性が叫ばれてきた。しかし、実際に解党的な出直しが断行された様子は一向に見えてこない。酷な見方かもしれないが、ともすれば二大政党制を前提とする現在の選挙制度の下で、常勝ならぬ常敗野党としての地位に安住しているかのようにさえ見える。
確かに今回の代表選は過去の民主党の代表選挙と比べると、新しい顔ぶれが目立ち、清新な印象が際立つ。鳩菅、小沢、岡田の時代から時計の針が大きく進んだ感は強い。3人の中では古顔に属する前原氏でさえ、まだ53歳だ。蓮舫氏は48歳、玉木氏は47歳だ。
3候補はいずれも政策に通じているし、弁も立つ。しかし、どんなに素晴らしい政策を訴えても、それを信用してもらえなかったり、そもそも話を聞いてもらえなければ、何の意味もない。とすると民進党代表選の真の争点は、民進党が再び真に受けてもらえる政党になるために、新代表は何をするつもりなのかにかかっている。・・・
政権から転落して3年経った今も、まだ民進党が有権者の信頼を回復できない理由を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>相模原障害者殺傷事件 日本社会の中に潜む事件の遠因を考える
相模原市の障害者施設で19人が殺害された事件の容疑者が、「障害者は安楽死させるべきと考えて殺した」などと話していることが明らかになり、社会に衝撃が走っている。中でも最も大きな衝撃を受けたのは、障害者自身だった。
障害者の多くが、生産活動における効率や生産性が絶対視される風潮の中で、必ずしも効率よく仕事ができない自分たちが社会から取り残されたり、そんな自分たちに対して批判的な眼差しが向けられていることを感じていたと、日本障害者協議会の藤井克徳代表は語る。そうした中で今回の事件は起きた。
「社会的に生産性が乏しいと、価値がない人間と断定されてしまう。今の社会にもそんな風潮があるように思います」と自身が全盲の藤井氏は語る。「今回のような犯罪に対して、社会の中に共感を覚えたり同調する人が出ることを恐れています。」
藤井氏はナチスドイツが「T4作戦」で障害者の大量虐殺を図ったことに触れ、今回の事件の容疑者の考え方の根底には、ナチスの優生思想があることは明らかだという。T4も最初は障害者から始まり、その対象が病人や同性愛者などに拡大されていった。そして、最後はユダヤ人600万人の大虐殺にまで行きつくことになる。
社会が不安定になればなるほど、人々は不満のはけ口を探し始める。典型的な社会的な弱者の障害者は恰好の標的となる。
「もし障害者が居なくなれば、社会は次の厄介者を探し出す。それは高齢者かもしれないし、病気の女性や子供かもしれない。」そのような弱者探しの連鎖を続けて何になるのかと藤井氏は問う。
今週のNコメはジャーナリストの神保哲生が藤井氏のインタビューをもとに、相模原事件が社会に投げかけた大きな課題の正体を考えた。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・後半>5金スペシャル・マル激放送800回記念トークライブ 「何でもあり」への抗いのすすめ
5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。マル激は2001年2月16日の第1回放送以来、間もなく第800回の放送を迎えるにあたり、7月24日に東京・渋谷のロフト9でトークイベントを開催した。今回の5金は、このイベントの模様をお送りする。
マル激がスタートした2001年2月、日本は自民党の森喜朗政権。首相の度重なる問題発言や失政で内閣の支持率が一桁台に落ちる中、記念すべき第1回放送でマル激は、青少年社会環境対策基本法を通じた政府による表現規制と記者クラブに代表されるメディアの構造問題を中心に議論をしている。
第1回放送の2001年2月16日から米・同時テロがあった2001年9月11日までの間、マル激は27回の番組を放送しているが、そこでは、手を変え品を変え繰り出される政府による表現規制の企てや、記者クラブに代表されるメディアの構造問題、小泉政権の発足による政治保守から経済保守への権力の移行、靖国参拝問題と歴史修正主義、狂牛病に代表される地球環境と食の安全問題などが議論されていた。その多くは、依然として今も解決されていない。
ところが2001年9月の同時テロによって、世界の流れが大きく変わった。それがマル激の番組のラインナップからもはっきりと見て取れる。
同時テロとその後に始まったアメリカによる「テロとの戦い」の名のもとに行われた報復戦争によって、それまでマル激が扱おうとしていた世界や日本が抱えていた問題の多くが、一旦は優先順位が下げられ、水面下に潜ってしまい、テロや安全といった目先の問題への対応が優先されることになった。同時に日本は、憲法上の制約と対テロ戦争における自衛隊の担うべき役割についての終わりなき論争に明け暮れることになる。
第800回放送を迎えるにあたり、改めて今日の日本や世界を俯瞰した時、マル激が2001年の第1回放送から2001年9月の第27回放送までの間に議論したテーマが、何一つとして解決していないことには驚きを禁じ得ない。同時テロはそれまで日本や世界が抱えていた問題に一旦蓋をしてしまった。そして、今、それから15年が過ぎ、テロがややもすると常態化するようになった今、改めて世界を再点検してみると、そもそもテロを生む遠因にもなっていた世界の諸問題が、実は何一つとして解決できていなかったことが明らかになる。
問題は問題として直視し、解決していくしかない。しかし、15年にわたるテロとの戦いによって疲弊した世界の市民社会は、もはや15年前の状況とは大きく異なっている。その間、格差は拡大し、中間層は解体され、メディアの堕落は進行するなど、社会全体が大きく劣化してしまった。市民社会は問題に対峙するための多くのツールを失っている。15年前のようにナイーブに一つ一つの問題に真正面から取り組むだけでは、おおよそ問題の解決は望めそうにない。・・・
今回、800回という節目を迎えるにあたり、東京・渋谷のLOFT9 Shibuyaの新規開店に合わせて行われたトークライブでは、15年前の第1回の放送から、何が変わり何が変わっていないのかを検証した上で、なぜ今、われわれの当初の問題意識の再確認が重要な意味を持つのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
前半はこちら→so29347791
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<マル激・前半>5金スペシャル・マル激放送800回記念トークライブ 「何でもあり」への抗いのすすめ
5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。マル激は2001年2月16日の第1回放送以来、間もなく第800回の放送を迎えるにあたり、7月24日に東京・渋谷のロフト9でトークイベントを開催した。今回の5金は、このイベントの模様をお送りする。
マル激がスタートした2001年2月、日本は自民党の森喜朗政権。首相の度重なる問題発言や失政で内閣の支持率が一桁台に落ちる中、記念すべき第1回放送でマル激は、青少年社会環境対策基本法を通じた政府による表現規制と記者クラブに代表されるメディアの構造問題を中心に議論をしている。
第1回放送の2001年2月16日から米・同時テロがあった2001年9月11日までの間、マル激は27回の番組を放送しているが、そこでは、手を変え品を変え繰り出される政府による表現規制の企てや、記者クラブに代表されるメディアの構造問題、小泉政権の発足による政治保守から経済保守への権力の移行、靖国参拝問題と歴史修正主義、狂牛病に代表される地球環境と食の安全問題などが議論されていた。その多くは、依然として今も解決されていない。
ところが2001年9月の同時テロによって、世界の流れが大きく変わった。それがマル激の番組のラインナップからもはっきりと見て取れる。
同時テロとその後に始まったアメリカによる「テロとの戦い」の名のもとに行われた報復戦争によって、それまでマル激が扱おうとしていた世界や日本が抱えていた問題の多くが、一旦は優先順位が下げられ、水面下に潜ってしまい、テロや安全といった目先の問題への対応が優先されることになった。同時に日本は、憲法上の制約と対テロ戦争における自衛隊の担うべき役割についての終わりなき論争に明け暮れることになる。
第800回放送を迎えるにあたり、改めて今日の日本や世界を俯瞰した時、マル激が2001年の第1回放送から2001年9月の第27回放送までの間に議論したテーマが、何一つとして解決していないことには驚きを禁じ得ない。同時テロはそれまで日本や世界が抱えていた問題に一旦蓋をしてしまった。そして、今、それから15年が過ぎ、テロがややもすると常態化するようになった今、改めて世界を再点検してみると、そもそもテロを生む遠因にもなっていた世界の諸問題が、実は何一つとして解決できていなかったことが明らかになる。
問題は問題として直視し、解決していくしかない。しかし、15年にわたるテロとの戦いによって疲弊した世界の市民社会は、もはや15年前の状況とは大きく異なっている。その間、格差は拡大し、中間層は解体され、メディアの堕落は進行するなど、社会全体が大きく劣化してしまった。市民社会は問題に対峙するための多くのツールを失っている。15年前のようにナイーブに一つ一つの問題に真正面から取り組むだけでは、おおよそ問題の解決は望めそうにない。・・・
今回、800回という節目を迎えるにあたり、東京・渋谷のLOFT9 Shibuyaの新規開店に合わせて行われたトークライブでは、15年前の第1回の放送から、何が変わり何が変わっていないのかを検証した上で、なぜ今、われわれの当初の問題意識の再確認が重要な意味を持つのかを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
後半はこちら→so29348126
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<ニュース・コメンタリー>なぜ天皇の生前退位がそれほど大問題なのか
今上天皇が、生前に天皇の位を皇太子に譲る意向を示していたことが報道され、大きな議論を呼んでいる。それは現在の象徴天皇制が、そのような事態を想定していなかったためだ。
今上天皇は82歳とご高齢なうえ、過去に前立腺がん、心臓の手術などの病歴もあり、多くの公務を務めなければならない状態が大きな負担になっていた。一方で、長男の皇太子も既に56歳と、今上天皇が即位した時の年齢を超えている。そうした中で、今上天皇は天皇の位を生前に皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を宮内庁の関係者に示していたのだという。
皇位継承などを定めた法律、皇室典範には生前退位に関する定めがない。そのため、今上天皇の意向に沿って生前退位を可能にするためには、皇室典範の改正が必要になると考えられている。
皇室典範とて法治国家日本においては法律の一つに過ぎない。国会の承認があれば、その改正は可能だ。
ところが、問題はそれほど簡単ではない。そもそも皇室典範に生前退位の定めがないのは、政府にできればそのような事態を避けたい理由があったからだった。
現在の皇室典範では天皇が崩御した時のみ、皇太子が世襲で即位することが定められており、それ以外の方法で退位や譲位が行われることは想定されていない。一般には生前譲位が可能になると、天皇が退位後も上皇や法皇などの地位から政治的な影響力を持つことになる恐れや、逆に本人の意思に反して強制的に天皇が退位させられることも可能になる恐れがあることなどが、指摘されている。また、天皇自身が退位の意向を示すことは、それ自体が憲法が禁じた天皇による政治権力の行使につながるとの指摘もある。
そうした懸念が、近い将来、現実に問題化することは考えにくいが、天皇に関する取り決めは国家百年の計にも関わる重い意味を持つ。一度それが可能になれば、何十年、何百年か先の将来に大きな禍根を残すことになる可能性も真剣に考えなければならない。
しかし、今回、今上天皇が「生前退位」、あるいは「譲位」の意向を示したことによって、それよりももっと重要な問題がわれわれに投げかけられたと考えるべきだろう。それはそもそも象徴天皇制という現在の制度が、元々孕んでいる大きな矛盾と言ってもいい。われわれは天皇を聖なる存在として尊んでいる。だからこそ、われわれの多くが天皇に対して強い尊崇の念を抱く。陛下が被災地に赴けば、被災者たちは大きな勇気を与えられ、どんなスポーツでも天覧試合は歴史に残るような名勝負になることが多い。
ところがわれわれは天皇がそのような聖なる超越的な存在であることを求めながら、もう一方で、政治的な発言を一切封じたばかりか、事実上人権さえも認めていない。天皇は公務を拒否することもできないし、そもそも憲法で天皇は世襲と定められている以上、即位を拒むこともできない。職業選択の自由など何もない。しかも、一度即位してしまえば、退位もできず、亡くなるまで天皇としての役割を全うすることを義務付けられる。これがわれわれが象徴天皇制と呼んでいる制度の実態だ。・・・
そもそも何が問題なのか。そして、この問題とわれわれはどう向き合えばいいのか。ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>参院選の争点が最後まで見えなかった理由
参院選は与党の勝利に終わった。選挙前より6議席増やした自民党は27年ぶりの参院単独過半数を確保し、おおさか維新などを含む改憲勢力としても、改憲発議に必要な参院の3分の2を超えるなど、自民党の強さが際立った選挙だった。
一方の野党陣営は共産党が比例区で検討し議席を伸ばした他は全体として低調で、特に最大野党の民進党が14議席も減らしたため、与野党の勢力差は更に拡がる結果となった。
安倍首相は選挙後の会見で、選挙戦の勝利を宣言するとともに、アベノミクスの一層の推進と憲法改正に向けた手続きを進めていく意志などを明確に打ち出した。
一方、大きく議席を減らした民進党の岡田代表は、敗因について、選挙前に与党が野党との論戦を避けたために、争点を明確にすることができなかったと指摘した。
「まともに戦って負けたのならしょうがないが、逃げ回られたので負けた気がしない」
岡田代表はこのように述べ、安倍政権の争点隠しを批判した。
確かに争点が見えない選挙だった。当初、安倍政権は消費増税の再延期の信を問う選挙と位置付けていたが、全政党が消費増税の延期を主張したために、最大の争点となるはずの消費税が完全に争点から消えてしまった。一方、野党が争点に据えようとした安倍政権の憲法改正に向けた姿勢については、そもそも自民党が憲法改正を争点に据えていない上、自公の連立与党だけでは憲法改正の発議すらできない状態にあるため、現実的な争点とは受け止められなかった。
また、安倍政権が選挙前の党首討論を避けたり、メディアに細かい注文を付けるなどして、自分たちにとって不都合な争点が前面に出てくることを押さえ込んだ面があったことも事実だろう。
しかし、やはり争点が見えなかった最大の原因は野党側にあったと言わなければならない。
特に民進党は成長重視のアベノミクスに対して、再分配に力を注ぐ経済政策を打ち出していたが、消費増税の延期に賛成している民進党の政策では、そもそも新たな財源などどこにもない。そのため民進党が主張する再分配を実現するためには、どこから取って、どこに分配するのかを明示する必要があったが、民進党内にはいろいろな意見があり、そこまで踏み込むことができなかった。
同じく憲法改正についても、民進党は安倍政権の下での改正には反対であるとか、憲法9条の改正には反対などの論陣を張って、何とか対立軸を浮き彫りにしようと努力はしていたが、そもそも民進党内に一定数の改憲派が存在することは周知の事実だ。この主張も説得力に欠けていた。
結局のところ、最大野党の民進党が腰を据えて党内で意見集約を行い、自民党とは明確な差別化が図られた、なおかつ説得力があり魅力もある政策パッケージを提案できるようにならない限り、与党の優勢が揺らぐことはないだろう。争点が浮き彫りにならなかったのは、一重に民進党が自民党と明確に差別化された政策提案ができていないからなのだ。・・・
なぜ争点なき参院選になってしまったのか。戦犯は誰だったのか。どうすれば争点の可視化が可能になるのかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>舛添問題に見る日本人が政治家に求める清廉性の正体
1か月以上にわたり政治資金の公私混同疑惑が都議会やメディアから厳しい追及を受けていた舛添要一東京都知事が6月15日、辞表を提出した。
確かに政治資金の私的流用も問題だし、それが指摘された後の舛添氏の対応も酷いものだった。その意味では辞任は当然だろう。しかし、その一方で、どうしても一つの疑問が残る。それは、われわれが政治家に何を求めているのか、だ。
政治資金を私的目的で流用する行為は、それが公費や政党助成金という形の税金であっても、あるはその他の形で集められた寄付金であっても、政治家は厳に慎むべき行為でることはまちがいない。政治資金規正法が政治資金の支出に対して大きな裁量を認めているのは自由な政治活動を妨げないためであり、家族旅行や個人的な嗜好のために非課税の資金の流用できるようにするためではない。そうした行為が政治そのものに対する信頼を失墜させることになる以上、舛添氏の行為は多いに批判されなければならない。
しかし、それにしても、今回の舛添氏の政治資金の私的流用は、政治家であれば大なり小なりやっていることなのも事実だ。その内容も、また金額も、政治家としてはむしろ慎ましいレベルだったといっても過言ではないだろう。しかし、週刊誌上で公用車を使った別荘通いや政治資金の家族旅行への流用が報じられたとき、舛添氏は「一切違法性はない」と胸を張って週刊誌報道を一蹴した。それがメディアや世論の逆鱗に触れたことで、小さな政治資金の流用問題は、舛添氏の人格や政治家としての資質といった、より大きな問題へと延焼し、クソ味噌状態になってしまったわけだが、とは言え発端となった問題が政治資金問題だったことは念頭に置いておく必要がある。
われわれは僅かな政治資金の私的流用も認められないほど、政治家に高度の清廉性を求めているのだろうか。
政治哲学者マックス・ウェーバーは「職業としての政治」の中で、政治には「カネのための政治」と、「カネによる政治」があり、両者は明確に識別されなければならないと説いている。「政治のためのカネ」と「カネのための政治」と言い換えてもいいかもしれない。・・・
金額は小さいかもしれないが、今回の舛添問題からは、「政治のためのカネ」の要素が全く見えてこない。あくまで「カネのための政治」にしか見えないところに、今回の問題の本質がある。舛添氏が、「僅かな政治資金の私的流用と、その後のメディア対応を誤った」ために辞任に追い込まれた事件として記憶にとどめるのは正しくない。週刊誌報道やその後のマスコミの追及によって、舛添氏がカネのための政治を行っていたことが露呈し、その疑惑に対して舛添氏が満足の行く釈明ができなかった。だから、舛添氏の辞任は当然であり、東京都民は次の都知事には間違っても「カネのための政治」をするような候補を選ばないように気を付けなければならない。
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<ニュース・コメンタリー>政策の正当性と政権の正統性は別次元の問題だ
安倍晋三首相は2016年6月1日の記者会見で、翌年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げを、19年10月まで延期することを表明した。
これを受けてメディア上では消費増税延期の是非がしきりと議論されている。しかし、消費増税の延期という政策的判断の正当性と、それによって根本から崩れる政権の正統性は別次元の問題だ。
消費増税の延期を発表した会見で、安倍首相は自身が増税延期の条件としてきた「リーマンショック級か大震災並」といった状況は起きていないことを認めた上で、「新しい判断」を下したと言明。その信を7月10日の参院選で問うとした。
今回で消費増税の延期は2度目となる。2014年11月18日、法律で決められた2015年10月の消費増税の一度目の延期を発表するにあたり、安倍首相は「再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします」と宣言した上で、増税延期の信を問うとして、衆院を解散した。
現在、安倍首相が内閣総理大臣の地位にあるのは、ここで問われた「信」を元に選ばれた衆議院議員によって、首班指名を受けたからだ。その約束を果たすことは、安倍首相が内閣総理大臣でいることの必須条件であり、最低条件となる。
消費増税の是非や、そのタイミングについては、政策論レベルでは様々な意見があるだろう。また、それが政治判断マターであることも否定はしない。しかし、それはその政策の正当性をめぐる議論に過ぎない。その政策をどの政権が実行する資格があるかという政権の正統性とはあくまで別次元の問題である。・・・
そもそも首相が会見で示した「新しい判断」とは何なのか。不人気な増税を先延ばしにすることで参院選に勝利し、憲法改正の実現を最優先することが「新しい判断」の中身なのか。国のトップがあからさまに約束を反故にすることによって、その国は何を失うのか。首相の「新しい判断」による正統性の喪失と、それが厳しく問われない日本の民主主義の現状について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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<ニュース・コメンタリー>オバマの広島訪問を受けて日本がすべきこととは
サミット参加のために来日していたアメリカのオバマ大統領が5月27日、現職のアメリカ大統領として初めて被爆地広島を訪問した。
謝罪こそなかったが、慰霊碑に献花するなど、原爆投下から71年の月日を経て、原爆を落とした加害国の首脳が、被爆地を訪れる歴史的な出来事となった。
広島と長崎への原爆の投下が、戦争の早期終結につながり、多くのアメリカ兵のみならず日本兵の命も救ったとするアメリカ政府の公式見解を信じている人が、依然として人口の過半を占めるアメリカでは、20万人を超える非戦闘員を無差別に殺害した原爆投下を正当化する世論が根強い。そのため、オバマの広島訪問自体が謝罪の意味を持つとして、これに反対する意見も多かった。
そうした中を、あえて広島訪問を敢行したオバマ大統領の決断に改めて拍手を送りたい。この訪問が原爆の犠牲者やその遺族、そして被曝によってその後の人生で病気や差別などの辛苦を味わった被爆者にとって大きな意味を持つことは間違いないだろう。
しかし、この訪問と単なる一つの歴史的イベントとして終わらせてしまっては、あまりにも勿体ない。
「オバマ大統領が広島に献花する日」などの著書のあるジャーナリストの松尾文夫氏は、オバマ氏の広島訪問を日本人がどう受け止め、それを次の行動につなげていくかが重要になると指摘する。
オバマが広島訪問にこだわった理由は、オバマ自身がライフワークと位置付ける「核なき世界」を少しでも前進させたいとの思いからだった。オバマは大統領に就任した直後の2009年4月、チェコのプラハで「核なき世界」の実現を訴える有名な「プラハ演説」を行い、その年のノーベル平和賞まで受賞している。しかし、プラハ演説の後、核兵器の廃絶もしくは削減はさしたる成果をあげていない。
オバマ自身も大統領就任以来、医療保険改革などの国内政治や、イラク戦争の後始末など前政権からの課題処理に忙殺され、核問題を優先的な政治課題として扱ってこなかったのも事実だ。
大統領の任期が半年を残すばかりとなったオバマが、広島の原爆慰霊碑の前で世界に向けて核兵器の廃絶を訴えることで、核兵器廃絶に尽力した大統領としてのレガシーを少しでも残したいとの強い思いを持っていたことは、想像に難くない。
問題は松尾氏が指摘するように、オバマ訪問を受けて、次に日本が何をするかだ。
日本は核兵器を保有していないが、現実にはロシアと並ぶ世界一の核保有国のアメリカの核の傘に守られている立場だ。唯一の被爆国として世界に核廃絶を訴える絶好のポジションにありながら、アメリカの核に守ってもらっているという立場から、核軍縮や核廃絶に向けた動きの中では、決して主導的な役割を演じることができていない。
オバマが広島での演説で世界に向けて語った、核なき世界の実現のためにできることからやろうという呼びかけは、当然、日本に対しても向けられている。・・・
オバマの広島訪問を日本がどう受け止め、次にどのような行動に結びつけていくべきかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>「リーマンショック前夜」を裏付ける資料を作ったのは誰か/未遂に終わったサミットを国内政争の道具にする計画
安倍首相のサミットを国内政争の具に利用する計画は、失敗に終わった。
一部メディアが報じているように、安倍首相はサミットの討議の場で、「リーマンショック直前の洞爺湖サミットで危機の発生を防ぐことができなかった。その轍は踏みたくない。世界経済は分岐点にある。政策対応を誤ると、危機に陥るリスクがあるのは認識しておかなければならない」と話し、積極的な財政出動の必要性を訴えたという。
しかし、イギリスのキャメロン首相らから、「危機は言い過ぎだ」などの指摘が出たために、サミットの共同声明の世界経済に対する認識のくだりはかなりトーンダウンした内容になっていた。実際、海外のメディアでは、安倍首相の世界経済の「危機」に関する認識が、他の首脳との間で温度差があったことを指摘する記事や論説が目立つ。
安倍首相は来年4月に予定される消費増税について、「リーマンショックや大震災のような事態が発生しない限り実施する」と国会などで発言してきた。世界の指導者が集まるサミットの場で、現在の世界の経済情勢がリーマンショック前に似ているとの同意を得ることができれば、晴れて増税先送りの口実にできたはずだった。
しかし、さすがに世界の首脳たちは、さしたる根拠もなくリーマンショック前夜の危機を吹聴することには慎重だった。
それにしても、世界の指導者たちが世界的な問題を討議する場であるサミットを、小手先の国内政治目的で利用しようなどと考えるのは恥ずかしいことだ。特に議題を設定する強い権限を持つホスト国の首相が、そのようなことをしていては、サミットを主催する資格が疑われる。
しかし、今回、安倍首相がサミットの場でリーマンショックを持ち出した背景には、もう一つ根深い問題が潜んでいた。それは、今回のサミットでは安倍首相並びに首相官邸が、自らの政治目的達成のために、他の政府の部局とは無関係に単独で暴走していた疑いがあるということだ。そして、それが露呈したのが、27日に国会内で行われた民進党による外務省のサミット担当者へのヒアリングだった。
民進党のサミット調査チームは、サミットの討議の場で首相が唐突にリーマンショック前夜を持ち出した際に各国の首脳に提示した4枚の資料の出どころを問題視した。首相には日本の指導者として、自らの政治的な判断で様々な交渉を行う権限があることは言うまでもない。しかし、今回首相が「政治的判断」でリーマンショック前夜を持ち出した際に使われた資料には、日本政府が正規の手続きで採用し発表していた世界経済の状況判断とはかけ離れた内容のことが書かれていた。
首相がサミットの場で持ち出した「リーマンショック前夜」の認識の前提は、政府の正規の経済判断とは全く無関係に一部局が独断で単独で作成したデータに基づくものだったのだ。・・・
サミットの政治利用を目論んだ挙句、他の首脳からこれを諫められ、阻止されたたという事実があったのかどうか、また、政府の公式見解とは全くかけ離れたところで官邸の暴走があったのかどうかを質す記者会見や国会が機能しない状況といい、日本の政治はどこまで劣化を続けるのか。ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>冤罪のリスクを上昇させる刑訴法の改悪をなぜ止められないのか/指宿信氏(成城大学法学部教授)
刑事訴訟法の改正案が5月20日、参議院で可決され、今国会での成立が確実となった。しかし、この改正案では残念ながら、冤罪を出さない司法制度の確立という当初の目的からは程遠い、むしろ冤罪リスクを大幅に上昇させる改悪と言わざるを得ない。
同法案の問題点は、2016年4月16日に放送したニュース・コメンタリー「焼け太りの捜査権限の拡大を許すな」などで繰り返し指摘してきた通りだ。
元々、今回の法改正は郵便不正事件や相次ぐ冤罪事件などで検察の取り調べのあり方が社会問題化したことを受けて、取り調べの録音・録画の義務付けを含む、冤罪を出さない司法制度をいかに作るかに主眼を置いた議論となるはずだった。
実際に、郵便不正事件の後、設置された有識者による「検察の在り方検討会議」の答申では、取り調べの録音録画が強く求められていた。しかし、それから時間が経ち、世間の風当りが弱まると見るや、法務官僚たちは可視化の範囲を最小限にとどめる一方で、可視化をするのなら捜査権限の強化が必要だと主張し始め、盗聴権限の拡大や司法取引の導入など、自分たちの権限を強化する法改正を押し込み始めた。
結局、今回の法改正で義務付けられる可視化の対象は、裁判員裁判の対象事件と特捜案件に限られるため、全事件の3%にも満たない。97%以上の事件では取り調べは可視化されないことになる。しかも、可視化が義務付けられる3%未満の事件も、録音・録画については、大きな裁量が検察に認められている。検察にとって都合の悪い取り調べのシーンが録音・録画され、後に裁判で自白の任意性を否定したり、取り調べの違法性が指摘されるような事態は、ほとんど期待できそうにない。
可視化の対象となる事件が全体の3%にとどまる一方で、今回の改正案では可視化と引き換えに、盗聴権限の拡大や司法取引の導入など、警察・検察の捜査権限を強化する制度の変更が盛り込まれた。警察や検察の暴走を防ぐために、いかに可視化を実現するかが課題だったはずの法改正が、いつのまにか捜査権限を大幅に強化する法改正にすり替わってしまった。
更に残念なことに、今回の刑訴法の改正案には、最大野党の民進党も賛成していることだ。民進党の岡田代表は5月20日の記者会見で、刑訴法改正案の賛成について「党内でいろいろ議論した。100点満点ではないが、一歩前進と捉え賛成した」と説明している。確かに日本の法曹界にとっては長年の課題だった可視化が、たとえ3%と言えども、初めて法律で定められることを評価したい気持ちはわからなくはない。同様の理由で日弁連もこの法改正には賛成している。
しかし、成城大学の指宿信教授が指摘するように、今回の法改正は3%の可視化という「目くらまし」を使って、盗聴法や司法取引といった捜査権限の拡大を図る司法官僚の悪だくみが見事に奏功したものとの指摘が根強い。冤罪を防ぐのではなく、冤罪リスクが上がってしまう結果になっては、本末転倒も甚だしい。・・・
冤罪リスクの上昇が懸念される改正刑事訴訟法の問題点と、それを厳しく批判しようとしないメディアの姿勢について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>「あげ底」で勝ち残ったヒラリーでトランプに勝てるのか
アメリカ大統領選挙の候補者選びは、相次ぐ不規則発言で物議を醸してきたドナルド・トランプ候補が共和党の公認候補となることが確実となり、話題をさらっている。一方、民主党の候補者選びは、代議員獲得数で大幅にリードするヒラリー・クリントン候補の勝利がほぼ確実視されているとの報道が目に付く。
そして、興味の対象は誰が両党の候補になるかから、トランプとクリントンが戦った時、どちらが勝つかにシフトしてきているようだ。
しかし、民主党の候補者選びはまだ終わっていない。終わっていないどころか、クリントンとバーニー・サンダース候補の差は、実際はごく僅かと言っていい。民主党は党の幹部に特別に大きな影響力を与える特別代議員という制度を採用しているため、結果的に代議員の獲得数でクリントンが大きくリードした形となっているが、民主党の一般党員の支持は依然として拮抗しているのが実情だ。
民主党の大統領候補者選びは、5月13日の時点で、クリントンが2,235人の代議員を獲得し、過半数の2,383人に迫ろうかというところまで来ている。しかし、党員の投票によって割り振られる一般代議員の獲得数では、クリントンの1,719人に対してサンダースも1,425人を獲得しており、その差は全代議員の5%ほどしかない。実際の党員による投票では両者は僅差で拮抗しており、辛うじてクリントンがリードしているという状態に過ぎない。
ところが民主党には合計で4,765人の代議員のうち、713人にのぼる特別代議員枠というものが設けられている。上下両院議員や州知事、そして党組織の幹部などが占める特別代議員は、一般代議員と異なり、予備選や党員集会における党員の投票結果とは一切関係なく、自らの意思で支持する候補を決める権限を与えられている。そして、民主党の特別代議員713人のうち、542人が既に態度を明らかにしているが、そのうち500人がクリントン支持に回っている。これに対して、特別代議員でサンダースを支持しているのは僅か42人だけだ。
圧倒的な特別代議員からの支持が、クリントンをサンダースに対して優位に立たせているのが現実なのだ。逆の見方をすれば、特別代議員の多くがサンダース支持に回れば、サンダースの獲得代議員数がクリントンのそれを上回ることも十二分に可能なのだ。
実はクリントンとサンダースの支持基盤は世代間でくっきりと分かれている。若者が熱烈にサンダースを支持し、中高年がクリントンを支持する構図だ。富裕層や企業への課税を強化し、大学の無償化など若者の支援策を積極的に進めることで格差の是正を主張しているサンダースを若者は圧倒的に支持しており、その境界線が45歳にあると言われる。そして、ほぼ全ての特別代議員が45歳以上であり、クリントンの支持層なのだ。・・・
一般党員の意思よりも、党のエリート幹部の意思を優先する民主党の候補者選びの特徴と、本選での影響について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。その他、広島を訪問するオバマは被爆地に「フットボール」を持ち込むのか、など。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)
<ニュース・コメンタリー>被害を拡大した耐震化の遅れと今も続く厳しい地滑り現場の捜索/報告:神保哲生(ビデオニュース・ドットコム)
熊本地震の発生から1週間が経過した。震度7を2度記録した後、震度3~4クラスの余震が続く中、既に48人の死亡が確認され、9万人以上が今も、避難生活を強いられている。多数の家屋が倒壊し、周辺の町村では大規模な土砂崩れも誘発した。寸断されたライフラインの復旧にもまだ時間がかかりそうだ。
今回の地震の被害は大きく分けて家屋の倒壊と周辺町村における土砂崩れの2つに分けられる。
家屋の倒壊については、古い日本家屋が軒並み倒壊したり、押しつぶされているのに対し、比較的新しい家屋は被害を免れているものが多かった。全壊した古い日本家屋のすぐ横で、比較的新しい家が無傷で残っているケースも多くみられた。また、日本家屋の多くは瓦屋根のものが多く、地震の揺れにその重さが耐えられず、1階部分が2階部分に押し潰されているところも多くみられた。
また、ブロック塀が崩れて道路側に散乱しているものが多くみられたが、いずれも芯となる鉄筋が入っていない、単にブロックを積んだだけの簡便なものだった。
耐震化されていない建物が倒壊し、建物の下敷きになって多くの犠牲者を出した阪神大震災を教訓に1995年、耐震改修促進法が施行され、国交省は改修費用を助成するなどして2015年度までに住宅全体の耐震化率95%を目指してきたが、その目標には遠く及んでいない。
熊本県の耐震化率は全国平均の82%よりもやや低い76%で、それほど悪いわけではないが、それでも4分の1の家屋が耐震化されていないことになる。耐震化率は都市部が高く、周辺に行くほど低くなる傾向がある。実際、今回多くの被害が出た益城町は、熊本市内に比べて、瓦屋根の古い日本家屋や鉄筋補強されていないブロック塀の倒壊が特に目立った。
耐震化の重要性が再認識される一方で、熊本市の東部から最も強い揺れが記録された益城町にかけて、道路に無数の亀裂が入っている様子が確認できた。亀裂の中には、左右に50センチ以上ずれているものもあれば、上下にずれて車が通れない大きな段差になっているものも多数あった。そして、亀裂の延長上にある家屋は、建築時期の新旧を問わず、軒並み大きく損傷を受けているものが多かった。周辺が地震の被害を受けていないと見られる地域でも、亀裂の延長上にある鉄筋のマンションやビルが傾いたり、外壁に大きな亀裂が入っているものが見られた。
新潟大学名誉教授で地質学が専門の立石雅昭氏は、断層が動いた場合、その直上に建てられた建築物には莫大な力が加わるため、耐震化されていても倒壊の危険性があると指摘する。
実際、鉄筋のマンションやビルでも、道路の亀裂の延長上に建つものには、壁に大きなひびが入ったり、傾いているものが目立った。
一方、強い地震動によって山肌が500メートルにわたって滑り落ちる「流動性地すべり」(京都大学防災研究所の釜井俊孝教授の研究グループ)が発生し、家屋が巻き込まれた南阿蘇村河陽の高野台地区では、自衛隊や警察、消防、NPOの災害救助犬ネットワークなどが昼夜捜索を続けていたが、分厚い火山灰と厳しい地形に阻まれて、捜索は難航していた。
ビデオニュース・ドットコム代表でビデオジャーナリストの神保哲生が、被災地の映像とともに、現地の状況を報告する。
(番組中、写真で示した高野台地区の位置関係に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。)
<ニュース・コメンタリー>国連報告者の会見で露呈したメディア問題の本質
国連特別報告者が記者会見で、記者クラブの廃止やメディア企業の幹部による政府高官との会食への批判にまで言及したことが、日本の主要メディアでどれほど真剣に報じられたのだろうか。自らの問題を正しく報じられないメディアに、ジャーナリズムを名乗る資格も、政府の圧力を主張する資格もないことは言うまでもない。
カリフォルニア大学法学部の教授で、国連人権理事会を代表して日本における表現の自由の状況を調査していたデイビッド・ケイ氏が4月19日、外国特派員協会で記者会見を行い、日本で表現の自由が危機に瀕しているとの見方を示したことは、国内のメディアでも大きく報道された。
しかし、ケイ氏が記者会見で日本のメディアが抱える問題点や改善されるべき点を多く指摘したのに対し、国内メディアの報道は政府による言論への介入に集中し、メディア自身の問題に触れているところは非常に少なかった。
確かにケイ氏は記者会見の中で、政権からの圧力や介入によって、日本における言論の自由が脅威にさらされていることや、それがメディアに萎縮効果をもたらしていることに警鐘を鳴らした。この指摘を報じることはとても重要だ。しかし、その主たる原因の一つとしてケイ氏はメディア側の問題にも踏み込んだ発言をしていた。
具体的には、ケイ氏は排他的な記者クラブ制度は廃止すべきだと指摘したほか、報道機関幹部が政府の高官と会食をするような行為は慎むべきだと指摘した上で、メディアに対する政府の介入を防ぐためにも、すべてのジャーナリストが参加できる業界横断的な組織を設立する必要性を訴えている。
政府からの圧力に対峙するためにも、またメディア自身のあり方を律するためにも、一部の大手メディアのみから成る記者クラブやその上部団体の日本新聞協会は不十分であるばかりか、政府によるメディアコントロールに対して極めて脆弱な立場に自らを置く結果を生んでいるとケイ氏は指摘したのだ。
これはビデオニュース・ドットコムでも繰り返し指摘してきたことだが、ケイ氏のメディア批判は記者クラブ制度や再販制度、クロスオーナーシップ、そして最近では軽減税率に見られるような日本の大手メディアが享受している数々の特権や政治との近すぎる関係、要するに癒着に向けられている。それらの特権は、政府によって与えられている権利や制度であり、権力がメディアに撒いている餌に過ぎない。そのような餌に食らいついているメディアが、政府の意向に反した報道をすることが難しいことは、ケイ氏のような人権法の専門家でなくても、誰にでもわかることだ。
少なくとも現時点では、日本における表現の自由問題や政府による言論介入の問題は、第一義的には「メディア問題」として認識されるべきものだ。
ケイ氏も指摘するように、現時点での日本政府によるメディアへの介入は極めてsubtle(微妙)でimplicit(暗示的)な形で行われており、他国に見られるような法や露骨な暴力の行使を伴ったものにはなっていない。そのため、政府は「圧力など存在しない」と主張することが可能になっている。現に政府高官の多くが、ケイ氏の記者会見に対して記者会見などで反論している。・・・
日本政府の招きで4月11日に来日し、政府関係者や学術関係者、報道機関幹部のほか、現場の記者や外国特派員、フリーランスの記者らへのヒアリングを重ねてきたケイ氏は、国連人権理事会に今回の調査内容をまとめた報告書を提出するが、実際の提出は2017年になるという。
<ニュース・コメンタリー>米民主党はなぜサンダースの躍進を歓迎しないのか
米大統領選挙は破天荒な発言を繰り返す共和党のトランプに注目が集まりがちだが、民主党の候補者選びにも大きな異変が生じている。
当初、泡沫候補と目されていたバーニー・サンダース上院議員が、大本命のヒラリー・クリントン元国務長官を相手に大善戦しているのだ。特に直近の予備選・党員集会では8州のうち7州で勝利を収めるなど、中盤から後半に差し掛かった予備選で、クリントンを脅かし始めている。
実際、ここまで予備選・党員集会を終えた37の州と地域のうち、クリントンが20州で勝利したのに対し、サンダースも17州で勝利している。ニューヨーク州、ペンシルバニア州、カリフォルニア州などの大票田の予備選の結果次第では、逆転も夢ではない。
ところが、サンダース候補が予備選や党員集会で勝利しても、最終的に候補を選ぶ代議員の獲得数では、クリントン候補が依然として圧倒的なリードを続けている。なぜならば、民主党の候補者選びでは一般の党員よりも、党の幹部や中枢がより強い発言力を持つからだ。
アメリカ大統領の民主・共和両党の候補者選びは、各州で候補者を決める投票を行うが、その投票結果に応じて代議員が割り振られる仕組みになっている。そして、全代議員のうち過半数を獲得した候補が党の正式な候補になる。
民主党は全米で4765人の代議員がいるため、最終的に過半数に当たる2383人以上の代議員を獲得すれば党の候補になる。ところが、代議員の中に特別代議員と呼ばれる、一般党員の投票結果に拘束されない投票権を持つ特殊な代議員が存在し、民主党の場合、4765人のうち714人が特別代議員となっている。
特別代議員は州知事や州選出の上下両院議員、党組織の幹部などで、党のエスタブリッシュメントの総意を代弁する立場にある。
そして、民主党では特別代議員のほとんどが、ヒラリーを支持している。そのため、一般党員の投票でどれだけサンダースが勝っても、代議員の獲得競争ではクリントンの優位が揺るがないのだ。
パナマ文書が富裕層による租税回避の実態や、広がる貧富の格差を露呈させる中、富裕層への課税強化やより積極的な富の再配分を訴えるサンダースは追い風を受けている。しかし、仮にサンダースがより多くの一般党員の支持を集めても、民主党の中枢を占める特別代議員の力で、クリントンが選ばれる公算が強い。
なぜ民主党幹部はサンダースを嫌うのかを、慶応義塾大学の渡辺靖教授に聞いた。
<ニュース・コメンタリー>焼け太りの捜査権限の拡大を許すな
かねてから問題を指摘してきた刑事訴訟法の改正案の審議が14日、参議院で始まった。同法案は前国会で既に衆議院は通過していることから、冤罪の危険性を増大させる、焼け太りの捜査権限拡大の可能性が、現実のものになってきた。
この改正案は、元々郵便不正事件や相次ぐ冤罪事件などで検察の取り調べの在り方が社会問題化したことを受けて、取り調べの録音・録画を義務付けるための法改正を議論することに端を発していた。
ところが喉元過ぎれば何とやら。不祥事から時間が経ち、世間の風当りが弱まると見るや、法務官僚たちは可視化の範囲を最小限にとどめる一方で、可視化をするのなら捜査権限の強化が必要だと主張し始め、盗聴権限の拡大や司法取引の導入など、自分たちの権限を強化する法改正をごり押しし始めた。
まさに焼け太りだ。
今回の法改正で義務付けられる可視化は、裁判員裁判の対象事件と特捜案件に限られるため、全事件の3%にも満たない。97%以上の事件では取り調べは可視化されないのだ。しかも、3%未満の録音・録画も検察の裁量でどこを録るかを決められるので、部分可視化に過ぎない。
部分可視化では、検察の都合のいい箇所だけが録音・録画され、裁判に証拠提出される恐れがあり、被告の権利がかえって侵害される危険性が大きくなる。部分可視化なら可視化などしない方がましだ。
しかも、今回の法改正では警察の取り調べしが、可視化の対象になっていない。被疑者が密室の中で行われた警察の取り調べ段階で虚偽の自白をしてしまった場合、その後の検察の取り調べがどれだけ可視化されても意味がない。
部分可視化ではなく完全可視化が必要だ。また、警察の取り調べを含め、全ての事件を可視化の対象とすべきだ。
完全可視化されたからといって、弁護人や裁判官、裁判員が、何十時間もの映像を全て見なければならないわけではない。無論、映像が一般公開されるわけでもない。自白の強要や高圧的な取り調べによって被告人の権利が侵害されていないことを確認するために、弁護人が必要に応じて映像を証拠として使えるようにするだけで、冤罪の危険性は大幅に減少する。また、全てが録音・録画されれば、検察が都合の悪い部分は隠し、都合のいい部分だけを恣意的に録音・録画し、証拠とすることも防げる。・・・
警察や検察の捜査権限の露骨な焼け太りにつながる刑事訴訟法の改正案の問題点を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>部分可視化では正義が貫徹されたことにならない
栃木県で2005年に起きた女児殺害事件の判決は「無期懲役」だった。この事件は被告の犯行を直接裏付ける証拠がなく、捜査段階での被告の自白が唯一といってもいい証拠だった。ところが公判段階で被告が否認に転じため、自白調書の信用性が裁判の最大の焦点だった。
検察は取り調べを録音・録画した映像を法廷で流し、被告が殺害時の状況や動機を具体的に話したことを裁判員にアピールした。法廷で流された映像を見る限り、被告は自らの意思で供述しているようだったという。また、供述の中には犯人しか知り得ない情報も含まれていたという。
この日の判決では自白の任意性と真実性がともに認定された。
正義が貫徹されることは社会にとって重要なことだ。そしてそれは司法に対する強い信頼を前提とする。しかし、取り調べの映像がこのような形で部分的に使われることは、決して司法の信頼にはつながらない。むしろ、部分可視化は冤罪のリスクを増大させることになり、司法に対する信頼が揺らぐばかりか、社会の不安定化の要因にもなりかねない。
現在の取り調べの可視化は、取り調べのすべてが映像として記録されていない。しかも、どの「部分」を記録するかについては、検察側の裁量に委ねられている。
元々取り調べの可視化を求める動きは、度重なる冤罪事件や検察による証拠の改ざんなど、検察の取り調べが公正に行われていないことへの不信感の高まりから出てきたものだった。
ところが、いざ録音・録画が導入される段階になって、取り調べの録音・録画は部分的なものに限定された上、どの部分を録音・録画するかは検察の裁量に委ねられることになった。
この事件でも検察は、被告人が自らの意思で犯行を認め、犯行の手口や動機を具体的に供述するシーンを録音・録画して法廷で再生した。
「百聞は一見にしかず」の諺もあるように、映像には説得力がある。映像を見た人は、その絵面を信じ込みやすい。・・・
刑事司法は国家の根幹に関わる問題だ。だからこそ、どんな事件においてでも裁判所が判決を下した時、社会が「正義か貫徹された」と信じることができるような刑事司法制度を作らなければならない。
最高裁が示した間接証拠による犯罪立証の条件と部分可視化の問題点を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>スティグリッツ教授は消費増税の延期など提案していなかった/小幡績氏(慶應義塾大学大学院経営管理研究学科准教授)
安倍首相がノーベル賞受賞者で世界的経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授やポール・クルーグマン教授らと相次いで会談を行い、両氏が消費増税について否定的な意見を述べたことが報じられたことで、増税が延期される可能性が高くなったとの観測が強まっている。
しかし、クルーグマン教授は自ら公表した議事録の中で、不況下で財政再建を優先することは間違っているとの持論を展開し消費増税に言及しているが、スティグリッツ教授は資料を見る限り、消費増税に触れた形跡すら見られない。
安倍政権は今回の会談を増税延期への布石にすることを意図しているようだが、もし日本政府が彼らの発言とは異なる内容を流布しているとすれば、それは単なる世界的経済学者の権威の政治利用だけでは済まされない重大な問題だ。
確かにスティグリッツ、クルーグマン両教授とも、消費税の増税には消極的な意見を持っていることは事実だ。聞かれれば、反対と答えるだろう。しかし、両教授とも安倍政権に対する提言の核心は消費増税の延期ではなかった。
特にスティグリッツ教授は貧富の格差の解消を優先課題として提示し、消費税よりも環境税・炭素税の導入や資産課税強化の必要性などを訴えたほか、労働者の賃金を上げるための制度や法律の強化の重要性を訴えている。
また、スティグリッツ、クルーグマン両教授とも、金融緩和の効果は限定的であり、アベノミクスは失敗したとの見方を示していた。
そもそもスティグリッツ教授が安倍首相との会談で消費増税の延期を提案したという情報は、首相との会談の後、首相官邸で記者団から消費増税に賛成かどうかを問われて、反対の意思を表明したことが根拠になっている。その時の映像がニュース報道で繰り返し流されたため、多くの一般の市民が、「経済学の世界的な権威が消費増税には反対している」と受け止めたにちがいない。
世界的に著名な経済学者の発言内容を歪めて、自らの政治目的のために利用する安倍政権のなりふり構わぬ政治手法と、それを側面から応援せんとばかりに、政権の意向に沿った質問をしてみせる記者クラブの記者の連携プレーには、毎度のこととは言え、目に余るものがある。
スティグリッツ、クルーグマンらの提言内容とその真意を、経済学者の小幡績氏に、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
(タイトルを訂正しました。)
<ニュース・コメンタリー>政治介入を許さないためにメディアはまず自らを律せよ
高市早苗総務相が放送局の電波停止の可能性に言及したことに抗議するため、田原総一朗さんらテレビの著名なキャスターやコメンテーター5人が3月24日、日本外国特派員協会で記者会見した。
ところが、「権力の言論への介入は許さない」、「政治家の発言は現場の萎縮を招く」と安倍政権批判を展開するキャスターたちに対して、会場の外国特派員等からは、なぜ政治家がその程度の発言ををしただけで日本のメディアは萎縮してしまうのかについて疑問があがったほか、「日本のメディアと政治との近すぎる関係」や「記者クラブ制度」に対する批判までが飛び出すなど、会見自体はやや予想外の展開となった。
会見を行ったのは田原氏のほか、TBS「NEWS23」のアンカーを務める岸井成格、テレビ朝日「ザ・スクープ」のキャスター鳥越俊太郎、テレビ朝日などでコメンテータ-を務める大谷昭宏、同じくテレビ朝日コメンテーター青木理の5氏。
岸井氏は、「高市総務大臣の発言は黙って聞き逃すことのできない暴言。謝罪して撤回するのか、このまま開き直るのか、非常に重大な局面だ」と危機感を露わにした上で、「最も大事なことは、ジャーナリズムとして政権がおかしな方向に行ったときはそれをチェックし、ブレーキをかけるのが最終的な使命。それが果たせなかったとすればジャーナリズムは死んだもと同じ。その役割を果たしたことがひょっとして偏向報道だと言うのであれば、これと真っ向から対決せざるを得ない」と語った。
田原氏は政治家が圧力発言があると「局の上層部が萎縮してしまう」と指摘し、鳥越氏も「番組企画はすべて事前に編成や経営幹部にチェックされるようになってしまった」と、高市発言のメディアに対する影響の大きさを指摘した。
しかし、質疑応答が始まると、会場から厳しい質問が相次いだ。・・・
安倍政権は、日本の大手マスメディアが、どれだけ権力の介入に脆弱かを、身をもって証明してしまった。時の政権のメディアに対する影響力の強さがわかってしまった以上、今後の政権がそれを利用しないわけがない。安倍政権はメディアに対して、自分たちのアキレス腱がどこにあるかを教えてくれたのだ。メディア側はこの機会を活かさない手はない。
期せずして外国特派員協会のキャスター会見で浮上した、外国特派員たちが日本における政治とメディアの関係に対して日頃から抱いているいる違和感の中身を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>民進党は「引き受ける政治」を旗印に
民進党は新党の旗印を、単なる理念や政策論にとどめずに、政策や政府の意思決定の在り方にまで踏み込んで表明するべきだ。そして、民進党が真に民主的な政治を目指すのであれば、それは従来型の「任せる政治」から「引き受ける政治」への転換でなければならない。
合併後の新党名を民進党とすることで合意している民主党と維新の党は3月18日、新党の英語表記をThe Democratic Partyとすることで合意したが、この党名からは新党がどのような理念を持ち、どのような政策を推し進めようとしている政党なのかは伝わってこない。
民主党の岡田克也代表は3月18日の記者会見で、「民進党の進は何を意味しているのか」を聞かれ、「国民と一緒に進むということ」と説明した。この答えは一見、抽象論に聞こえるが、国民を広く意思決定に参加させ、任せる政治から国民が引き受ける政治を目指す意思表明だとすれば、大きな意味を持つ。
自民党が大勝した過去2回の衆院選挙では、野党陣営が得た得票の総数は、自民党と公明党の得票数を上回っていた。しかし、現行の選挙制度の下では、野党が多くの政党に分かれているため、より得票数の少ない自公が、議席数では衆院の3分の2を獲得する結果となっている。
そのため今回の民維の合併は、安倍政権に対抗するためには野党の力を結集する必要があるとの判断が背景にある。しかし、単なる数合わせでは仮に政権を取ったとしても、今の日本の諸問題が解決できるとはとても思えない。
民進党は「安倍政権の対立軸」が何を意味するのかを、党の内外に対して明確にする必要がある。その際に重要なのが、単に理念を謳ったり政策のメニューを発表するのではなく、国民を政治的な意思決定に関与させる意思を明確に打ち出すことだ。・・・・
民進党には、民主党が志半ばにして実現できなかった、「引き受ける政治」の実現を目指して欲しい。
<ニュース・コメンタリー>アップルのロック機能解除拒否は表現の自由と言えるか
事件の捜査のためにFBIが、容疑者のスマートフォンのロック機能の解除を求めたのに対し、アップル社がこれを拒否したことで、両者の対立が続いている。
この問題は去年12月にカリフォルニア州で起きたテロ事件の捜査のために、FBIがアップルに対して、容疑者が使っていたiPhoneのロック機能を解除するよう求めたのに対し、アップルがこれを拒否しているというもの。FBIは裁判所を通じてアップルにロック解除の命令を出したが、アップルはこれも拒否したため、3月1日、アメリカ議会下院の司法委員会で、双方の代表を招いて公聴会が開かれた。しかし、両社の主張は依然として大きく隔たったままだ。
しかし、法廷でアップルが憲法で保障された「表現の自由」を根拠に、この解除を拒否したことは重要な意味を持つ。
FBIは捜査に必須な情報を得るために、アップルは容疑者のiPhoneのロック機能を解除するソフトウエアを提供する義務があると主張した。これに対し、アップルは捜査機関でも解除できない堅牢なロック機能を持ったプログラムは、アップルによる一つの表現行為であると説明。これをFBIが強制的に改変させることは、憲法で保障された「表現の自由」の侵害に当たると主張したのだ。
当初、今回の論争は、FBIが要求しているスマートフォンにバックドア(抜け穴)を設けることに、製造元のアップルが、商業上の理由からこれを拒否しているものと受け止められていた。ソフトによるロック解除が可能になれば、何者かが同様の機能を持つソフトを開発することで、全世界のiPhoneユーザーのプライバシーが危険に晒される恐れがあるとアップルは主張する。それがiPhoneという商品の商品価値にマイナスの影響を及ぼすというわけだ。
しかし、それだけではアップルは商業的な利益を守ろうとしているとしか受け止められない可能性があった。現に、アメリカの世論調査などでは、対象が14人の犠牲者を出したテロ事件だったこともあり、アップルはロック機能解除に応じるべきとの意見が大勢を占めている。
しかし、今回はそれが表現の自由をめぐる憲法論争にまで発展した。スマートフォンはプログラムによってセキュリティ機能が担保されるが、どのようなプログラムを書くかは、憲法で保護されるべき表現の自由の範疇に入るというのがアップルの主張だ。
FBI対アップルのロック機能解除論争とプログラムという「表現行為」の憲法上の意味合いについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>安倍政権が放送局への介入を躊躇しない理由が判明した
安倍政権がなぜ放送法を誤って解釈し、放送局という言論機関に当たりまえのように介入できているのか、その理由がよくわかるやり取りが、今週、国会であった。
2016年2月15日の衆院予算委員会で、民主党の山尾志桜里衆院議員が安倍首相に対し、「精神的自由の経済的自由に対する優越的地位」の意味を問うたのに対し、安倍首相は官僚から渡されたメモを読みながらも、きちんとその意味を答えられないという場面があった。
山尾議員から「表現の自由の優越的地位とは何か」と問われた安倍首相は、「法的に正確にお答えをすれば、経済的自由、そして精神的自由より優越をするという意味において、この表現の自由が重視をされている、ということでございます」と、官僚から手渡されたメモを読みながら答えた。
その回答自体が正しい理解とは逆転している点は、急な質問に慌てたために、しどろもどろになった結果だったと好意的に受け止めるとしても、法学部出身でもある首相が、「精神的自由の経済的自由に対する優越的地位」や「憲法の二重基準」といった民主憲法の根本原則を理解していないことは明らかであり、またショッキングなことでもあった。・・・
精神的な自由と経済的な自由の関係や、そうした自由を保障しつつも、いかにして放送局の公共性を維持していくべきかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>大統領選予備選のカギを握る特別代議員という複雑怪奇な制度
先週アイオワ州でスタートした米大統領選挙の民主・共和両党の候補者選びは2月9日、ニューハンプシャー州で予備選が行われ、民主党は上院議員のバーニー・サンダース候補が、共和党は不動産王のドナルド・トランプ候補がそれぞれ勝利した。
いや、少なくとも報道ではそうなっていた。特に民主党は、隣のバーモント州選出のサンダース候補が60%の票を集め、39%のクリント候補に圧勝したことが伝えられている。
ところが、ニューハンプシャー州予備選でサンダース候補が獲得した代議員の数は12だったのに対し、クリントン候補は15人の代議員を獲得している。代議員の獲得数では得票率とは真逆の結果となっているのだ。
予備選挙は、両党ともより多くの代議員を獲得した候補が、7月の両党の全国大会で正式な大統領候補となる。その意味では、予備選挙というのは代議員獲得レースと言い換えていい。なぜ1.5倍もの得票をしたサンダースが、クリントンに代議員獲得数で負けるようなことが起きるのか。そこにはアメリカ大統領選挙特有の「特別代議員」の存在がある。
大統領選挙における両党の候補者選びは、各州で予備選もしくは党員集会が行われ、候補者は得票に応じて、それぞれの州に人口比例で割り当てられた代議員を獲得していく。民主党は総数にして4,763人の代議員が、共和党は2,472人の代議員がいる。そのため、7月の全国大会で民主党は過半数に当たる2,382人以上の代議員を、共和党は1,236人以上の代議員を獲得した候補者が、それぞれ党の正式な大統領候補になる。3人以上の候補が乱立し、誰も過半数に満たなかった場合は、上位2名による決選投票となる。
ところが、この代議員制度が少々ややこしい。なぜならば、代議員には一般代議員と特別代議員の2種類の代議員が存在し、特別代議員が、かなり特別な力を持っているからだ。・・・
米大統領選挙の特別代議員という特異な制度とその意味について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>誰が既得権益の守護神としての官僚機構をコントロールするのか 「政治とカネ」論争で抜け落ちているマックス・ウェーバー的視点
甘利明経済担当相が業者から不透明な資金を受け取ったことを認め辞任をしたことで、改めて「政治とカネ」の問題に注目が集まっている。
ビデオニュース・ドットコムでも先週のこの番組で、甘利問題の背後にある現在の「企業・団体献金」の在り方に重大な問題、かつ信義違反があることを指摘した。
リクルート事件や佐川急便事件などで政治家と企業の金権癒着ぶりが露呈したことを受けて、1994年に税金で政治活動を賄う「政党助成金制度」が導入された。
その際、当然のこととして、企業団体献金は禁止されることが前提だった。その後の法改正で政治家個人に対する企業・団体からの献金は制限されたが、政党に対する企業団体献金は引き続き認められた。そのために現在でも企業・団体から「政党支部への献金」という名目で、事実上政治家個人への企業献金が続けられている。それは、毎年、政党助成金として年間320億円もの税金が投入されている現在、明らかに約束違反であるというのが先週の番組の主な論点だった。
その論点そのものは約束違反という意味では100%間違っていない。
しかし、政治資金については、それとはまた別の次元で、われわれ主権者が考えておかなければならない重要なことがある。それは、そもそも政治資金が本当に悪なのかという、先週の番組での議論をやや「卓袱台返し」するような視点である。・・・・・・
あえて誰とは言わないが、過去にも絶大な政治力を持ち、その力をもって既存の枠組みを変えようとした政治家の多くが、いやそのほとんどが、政治とカネの問題で特捜検察に摘発され、その政治力を削がれている。無論、それは偶然だったのかもしれない。しかし、今こそわれわれは上記のマックス・ヴェーバーの言葉を再確認すべきではないだろうか。
まず、われわれはアメリカ的な政治資金規正法の理念の上に立つのか、あるいは大陸法に見られる政治資金規制法の理念に上に立つのかについて、理解と議論を深める必要がある。その上で、どのような制度を構築していけば、政治活動や経済活動が歪められることなく、また税金が詐取されたり無駄になることがなく、主権者の利益が守られ、いかに官僚機構が抵抗しようとも主権者によって選ばれた政治家が必要な改革を実現できるような政治を実現できるのかを考える必要があるのではないか。
少なくとも政治スキャンダルのたびにマスコミが横並びで大合唱する「政治とカネ」の薄っぺらな議論に惑わされ、100年の計を過たないようにしたいと思う、今日この頃である。
ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、「誰が官僚をコントロールするのか」というマックス・ヴェーバー的視点で、政治とカネ問題に対して先週とは正反対のアングルから議論した。
<マル激・後半>5金スペシャル・映画が描く人工知能と人間のこれからの関係/栗原聡氏(電気通信大学大学院教授)
5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回は「人工知能」をテーマにした映画を取り上げながら、急速に進歩する人工知能(AI)がわれわれ人間の未来にどのような影響を与えるかを考えた。
今回取り上げた作品は、日本では今春公開される『オートマタ』、2014年公開の『トランセンデンス』、同じく2014年公開で『her 世界でひとつの彼女』の3本。いずれも人工知能の進歩によって、人間の社会や日々の生活が大きく影響を受けている様子を描いている作品だ。
2044年の未来を舞台に、人工知能と人類のサバイバルを賭けた戦いを描いたアントニオ・バンデラス主演の『オートマタ』は、人工知能ロボット「オートマタ」の製造時に、「人間への危害を加えないこと、ロボットを改造しないことの2条件をプログラムに組み込むことで、ロボットが自らを進化させ、やがては人間に歯向かうような事態は避けられるはずだった。そのおかげで、人工知能が人間の仕事の多くを代替するようになり、一見、人間とロボットの平和な共存が確立されているように見えた。
しかし、自らを改造する能力を持ったロボットが出現し、物語はその改造主が誰かを突き止めていくというストーリーに沿って展開する。
ロボットが人間にとって脅威とならないことを確実なものにするためには、ロボットのプログラムに組み込む2条件のセキュリティを、決して人間の力では破られないような強固なものにしなければならない。そのために人間はどうしてもロボットの力を借りる必要があった。そこに大きな落とし穴があった。・・・・
人工知能の進歩は人間の社会をどのように変えるのか。人間よりも優れたロボットの登場で、人間らしさの意味は変わるのか。人工知能をテーマに描かれた『オートマタ』、『トランセンデンス』、『her 世界でひとつの彼女』の他、『2001年宇宙の旅』、『Lucy』なども参照しつつ、ゲストの栗原聡氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。前半はこちら→ so28112072
<ニュース・コメンタリー>甘利問題の本質は本来は禁止されているはずの企業献金にある
洒落ではないが、甘利問題をめぐる報道があまりにもおかしい。今回の甘利問題の核心は、政治家が口利きの見返りとして企業から献金を受け取ることが許されていることではないのか。
甘利明経済再生担当相は1月28日の会見で、S社からの金銭の授受を認めた上で、秘書が甘利氏の伺い知れないところでその一部を私的に流用していたことを認め、閣僚の辞任を表明した。
また、会見の中で甘利氏は、自身が受け取った現金も、秘書に「適切に処理しておくよう」指示を出していたと説明。甘利氏自身は何ら法に触れることはやっていないことを繰り返し強調した。自身に法的な問題はないが、秘書が失態をしでかした以上、その責任を取り、あくまで自分の美学として大臣を辞任する道を選んだのだという。
確かに、業者から受け取った現金を秘書が個人的に使い込み、その分を政治資金収支報告書に記載しなかったことが事実だとすれば、政治資金規正法の虚偽記載に当たることはまちがいない。虎屋の羊羹の木箱と一緒にご祝儀袋に包まれていたとされるその「献金」が、「裏金」とみなされた場合、収賄にも問われる可能性がある。
しかし、この問題でわれわれ有権者にとって重要なことは、そんなことでない。今回の甘利問題の背後には、民主主義の根幹に関わる重大な問題が横たわっている。それは政治家による口利きと、その見返りとしての企業献金の問題だ。
そもそも甘利氏は会見での説明は、政治家が口利きをして、その見返りに企業から政治献金を受け取っても、それが政治資金規正法に則り適切に処理されている限り、何の問題もなかったという前提の上に成り立っていた。たまたま今回は秘書の使い込みや、その結果として虚偽の収支報告があったところに問題があったという立場だ。
しかし、それがおかしいのだ。適切に処理された政治資金であっても、政治家が業者のために行政機関やその外郭団体などに政治的な影響力を使って口利きをし、その見返りに現金を受け取ることは、社会の一般常識では賄賂以外の何物でもない。賄賂が言い過ぎであれば、政治権力の濫用と言い換えてもいい。もし現行法の下でそのような行為が違法ではないのであれば、法律の方に問題があることは明らかだ。
現在の日本の法律では、それが認められている。政治家が口利きの見返りに政治献金を受け取ることは、違法ではないのだ。・・・・
口利きと企業献金という視点から、甘利問題の核心部分をジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<マル激・前半>5金スペシャル・映画が描く人工知能と人間のこれからの関係/栗原聡氏(電気通信大学大学院教授)
5週目の金曜日に特別企画を無料でお届けする恒例の5金スペシャル。今回は「人工知能」をテーマにした映画を取り上げながら、急速に進歩する人工知能(AI)がわれわれ人間の未来にどのような影響を与えるかを考えた。
今回取り上げた作品は、日本では今春公開される『オートマタ』、2014年公開の『トランセンデンス』、同じく2014年公開で『her 世界でひとつの彼女』の3本。いずれも人工知能の進歩によって、人間の社会や日々の生活が大きく影響を受けている様子を描いている作品だ。
2044年の未来を舞台に、人工知能と人類のサバイバルを賭けた戦いを描いたアントニオ・バンデラス主演の『オートマタ』は、人工知能ロボット「オートマタ」の製造時に、「人間への危害を加えないこと、ロボットを改造しないことの2条件をプログラムに組み込むことで、ロボットが自らを進化させ、やがては人間に歯向かうような事態は避けられるはずだった。そのおかげで、人工知能が人間の仕事の多くを代替するようになり、一見、人間とロボットの平和な共存が確立されているように見えた。
しかし、自らを改造する能力を持ったロボットが出現し、物語はその改造主が誰かを突き止めていくというストーリーに沿って展開する。
ロボットが人間にとって脅威とならないことを確実なものにするためには、ロボットのプログラムに組み込む2条件のセキュリティを、決して人間の力では破られないような強固なものにしなければならない。そのために人間はどうしてもロボットの力を借りる必要があった。そこに大きな落とし穴があった。・・・・
人工知能の進歩は人間の社会をどのように変えるのか。人間よりも優れたロボットの登場で、人間らしさの意味は変わるのか。人工知能をテーマに描かれた『オートマタ』、『トランセンデンス』、『her 世界でひとつの彼女』の他、『2001年宇宙の旅』、『Lucy』なども参照しつつ、ゲストの栗原聡氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。後半はこちら→ so28112088
<ニュース・コメンタリー>オバマが怒る米国のゲリマンダーと日本の一票の格差
日本でも一票の格差をめぐり有識者から選挙区割り改革案が今週提出されたが、同じころアメリカでも、選挙区割りを批判する発言が行われていた。
オバマ大統領は2016年1月12日の一般教書演説の中で、現在のアメリカの選挙区割りの方法が公正ではないとして、「有権者の意思を反映させるためには選挙区割りのシステムを変えなければならない」と訴えた。
「政治家が選挙民を選んでいる現在のシステムを有権者が政治家を選べるシステムに変えなければなりません。」オバマ氏がこう呼びかけると、両院議員席からは大きな拍手が起こったが、中には苦笑いを浮かべる議員の姿も見られた、
一般教書演説そのものは、中東情勢から銃規制の強化、ひいては経済格差の是正といった長期的な問題にまで言及するなど、オバマ氏の大統領として集大成的な色彩の濃い内容だった。しかし、その中にあって、大統領が「政治を変えるための条件」としてあえて2つ挙げた大きなテーマがあった。一つは長らく指摘され続けている政治資金の問題、そしてもう一つが、近年あまり話題にのぼることがなかった選挙区割りの「ゲリマンダー」問題だった。
ゲリマンダーというのは、選挙区の区割りをする際に、特定の政党や候補者に有利になるような線引きが行われること。1812年マサチューセッツ州のエルブリッジ・ゲリー知事が自分が所属する民主共和党(現在の民主党の前身)に有利になるよう選挙区割りをした結果、一つの選挙区があまりにも歪な形となり、サラマンダーと呼ばれる伝説上の火を吐く龍の形に似ていたことから、自党に有利になるような恣意的な選挙区区割りのことを、知事の名前のゲリーとサラマンダーを足して「ゲリマンダー」と呼ばれるようになったと言われている。・・・・
オバマ大統領が最後の一般教書演説であえて問題にあげた、アメリカのゲリマンダー問題と日本との対比などについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>貧しい国が幸せで豊かな国が不幸な理由
国際的なリサーチ会社が毎年年末に発表している「世界幸福度調査」の2015年版が2015年12月31日発表された。それによると幸福度が高かった国の上位10ヵ国はいずれも発展途上国で、日本を含む先進国の幸福度はいずれも世界の下位に位置することがわかった。
WIN/Gallup International社による国際世論調査(Annual Global End of Year Survey)は同社が1977年以来毎年年末に発表しているもの。今年は2015年9月から12月の間に68か国の6万6000人を対象に調査が行われ、その結果が2015年12月31日に発表された。
幸福度(Hapiness Index)は各国の1000人~1500人を対象に「今の自分の人生を幸福と思うか」をアンケート調査したもので、幸福度指数は、「とても幸福」もしくは「幸福」と答えた人の割合から「不幸」もしくは「とても不幸」と答えた人の割合を差し引いた数値を指す。
最も幸福度が高かった国はコロンビアで、フィジー、サウジアラビア、アゼルバイジャン、ベトナムなどが続いた。上位15ヵ国は10位のアイスランド/中国を除くといずれも発展途上国で、先進国ではデンマークの同率15位が最高だった。
その一方で、28位の日本、42位のアメリカを含む先進国ではいずれも幸福度が世界平均以下で、中でもイタリアとフランスは68か国中のワースト10の同率57位だった。
また、最も幸福度が低かった国は、悪い順にイラク、チュニジア、ギリシャ、アフガニスタンなど、紛争国や経済危機に瀕している国が並んだ。
幸福度が高い国はいずれも発展途上にあり経済的には貧しいが、将来に対して明るい希望を持つ人が多く、貧富の差が比較的小さい特徴がある。それに対して幸福度が低い先進国は経済的には遥かに豊かだが、将来を悲観する人が多く、貧富の差も大きいこともわかった。
幸福度調査の結果から見えてくる幸福の条件と、物質的に豊かなはずの先進国に住むわれわれが幸福を実感できない理由について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
<ニュース・コメンタリー>最高裁は選択的夫婦別姓に理解を示している・憲法学者の木村草太氏が「同姓合憲」判決を解説
結婚した夫婦に同じ姓を名乗ることを求めている現行の法律が、憲法が保障する婚姻の自由を侵害しているなどとして、5人の男女が国に損害賠償を求めていた裁判で、最高裁が12月16日、これを合憲とする判断を下したことに対しては、選択的夫婦別姓を求めてきた人たちの間で落胆の声が広がっている。しかし、憲法学者で首都大学東京准教授の木村草太氏は、最高裁の判決は夫婦別姓に対して最高裁が強い理解を示していると見ることができる内容になっていると指摘し、次に期待が持てる判決だったと評価すべきと語る。
民法750条で「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定められているため、日本では結婚した夫婦はどちらかの姓に統一することが求められる。そして、実際は結婚した夫婦の96%が夫の姓を名乗っていることから、これは女性に多大な犠牲を強いる差別的な制度であるとの批判がある。その一方で、夫婦同姓は夫婦の一体感を強化し、両親の姓が同じであることはその子供にとっても利益があるとの主張があり、世論調査などでも意見が分かれていた。また、夫婦に同姓を強いる現行制度は人権上問題があるとして、国連からも改善を求められてきたという経緯がある。
しかし、最高裁は16日、同法は憲法に違反しないとの判断を示し、損害賠償請求も棄却した。15人から成る大法廷が10対5で合憲と判断した理由は、姓名の変更は婚姻という自らの選択によって生じるものであり、また民法は妻のみに改姓を迫るものでもないことなどから、憲法13条、憲法14条、憲法24条にいずれにも違反しないというものだった。
10人の多数意見は一見すると選択的夫婦別姓を認めようとしない保守的な判決と読める内容だが、実際はその見方は間違いだと木村氏は言う。なぜならば、今回の裁判は選択的夫婦別姓の是非に対する判断を求めたものではなかったからだ。木村氏は今回の裁判は原告が「氏名を変更されない自由の侵害である」「男女の区別が不平等である」との論点設定で臨んだために、このような判決となったが、別の論点を設定していれば、異なる判決となった可能性が高いとの見方を示す。
最高裁が判決の中で指摘するように、男女のカップルが法律婚を選ぶかどうかは、当人たちの選択に基づく。自らの選択で法律婚を選んでいる以上、それは姓の変更を強制されたと主張することは法律的には難しいと木村氏は指摘する。また、96%の夫婦で女性が姓の変更をしているという実態があるとしても、法律では一方的に女性側に姓の変更を求めているわけではないため、これを男女不平等とする主張も法律的には通りにくいと語る。
しかし、木村氏は今回の判決を法律の専門家が読むと、最高裁は選択的夫婦別姓に対して格別な理解を示していると読める内容になっていると指摘する。論点の立て方を工夫すれば、最高裁は選択的夫婦別姓を認める用意があると判断しているとの見方が可能だというのだ。
最高裁判決から読み取れる選択的夫婦別姓に対する最高裁の考え方を、ジャーナリストの神保哲生が憲法学者の木村草太氏に聞いた。